豆の育種のマメな話

◇北海道と南米大陸に夢を描いた育種家の落穂ひろい「豆の話」
◇伊豆だより ◇恵庭散歩 ◇さすらい考
 

ブエノス・アイレスの焼き肉レストラン,ラ・エスタンシア

2012-06-09 15:30:11 | 南米で暮らす<歴史・文化・自然>

ブエノス・アイレスのラバージェ通りにラ・エスタンシア(大牧場)という焼き肉レストランがある。入り口に置かれた子羊の丸焼き実演ウインドウを横目に店に入れば,広い店内にガウチョ姿のスタッフが目を引く。

その昔,子供たちと時々訪れたのを思い出して,三十年ぶりに店を訪れた

黒服のマネージャーが席に案内し,連れのために椅子を引く。マネージャーの合図で,年老いたモッソ(ウエイター)が,白いクロスとメニューを抱えてやってくる。

 

「こんにちは,いらっしゃい。おやおや,今日は三人のご婦人をご同伴で・・・」

ん,なに? 一瞬戸惑ったが目線を追えば,妻のシャツに三人の女性姿がデザインされている。なかなか,気が利くモッソだ。

 

メニューを開きながら,

「何がおすすめ?」

「パリジャーダ(肉と臓物の網焼き盛合せ)はいかが,ムイ(とても),ムイ(とても),エルモッソ(すばらしい)・・・」と手ぶりよろしく力が入る。昔この店で食べた子羊のアサード(コルデーロ)の味が頭をよぎるが,パリジャーダも久しぶりだ。

「ああ,それにしよう。それと・・・パパ・フリータ(フライド・ポテト)にエンサラーダ・ミクスタ(ミックス野菜サラダ)を」

 

「エンサラーダは,レチューガ(レタス),トマテ(トマト),セボージャ(タマネギ)で良いですか?」

OK,それにアグア・コン・ガス(ガス入りミネラルウオーター)とビノ・テイント(赤ワイン),“テラサス”はあるかい?」

「もちろん,ありますとも。少しお待ちください」

 

口ひげを蓄え,白髪モッソの左腕は曲がったままに見えた。飲み物や料理を載せたプレートを長年にわたり左手で支えるため曲がって固まってしまう。いわゆる職業病みたいなものだ。

上着を脱ぐと,すかさずモッソは白いクロスを掛けてくれる。

 

モッソが飲み物を運んでくる。私のグラスに,テステイングのワインを注ぐ。そして言葉を待つ。

「OK,美味しいよ」

モッソは,同伴者のグラスに注ぎ,私のグラスも満たす。

 

野菜サラダが来る。私が,塩とオリーブオイルで味を調える(大抵,男性がやっていますね)。

 

炭火の上に盛られたパリジャーダが来る。モッソは言う。

「熱いから気を付けて。これがコステイージャ(リブロース),これはコルデーロ(子羊),これはモルシージャ(血入り腸詰)でムイ・リコ(とても美味しい),これはチンチュリン(小腸),これはモジェハ(胸腺)・・・」

ところで貴方は,モルシージャを食べたことがあるだろうか。日本人は大抵の方が躊躇する。食感は少しモソッとするが,美味しい。同伴者はコラソン(鳥の心臓)が気に入っている。

 

食事の進み具合を見計らってモッソが来る。

「ポストレ(デザート)は如何ですか?」

同伴者に「何か食べる?」と聞くと,

「エラード(アイスクリーム)・アルメンドラード(アーモンド入りの)がいいわ」

「僕もそうしよう,二つお願いします」

「分かりました,セニョール」,モッソはメイン料理を片づける。

 

デザートも終わって,次のスケジュールの話でもしながら,担当のモッソを探す(担当があるのです)。目線があった所で,宙にサインするような手ぶりで合図する。モッソガ飛んでくる。

「ラ・クエンタ・ポール・ファボール(お勘定をお願いします)」

「シ,セニョール(かしこまりました)」,と伝票を取りに行く。

 

伝票を確認しチップを上積みして,モッソに渡す。おつりが必要なときは,モッソガ会計を済ませおつりを持ってきてからチップを挟んで渡す。

「どうも,ありがとう。とても美味しかったよ」

「有難うございました。良い週末を」

「さようなら」

 

店を出て,ラバージェ通りからフロリダ大通りを,腹ごなしに散歩する。この歩行者大通りは,夜でもウインドウ・ショッピングができて楽しい。

 

それにしても,南米では肉料理をよく食べた。

ビフェ・デ・チョリソ(牛ロース焼き),ロモ・デ・シャンピニオン(ヒレ肉のシャンピニオンソースかけ),パリジャーダ(肉と贓物の盛合せ炭火焼き),ミラネッサ・ナポリターナ(ミラノ風牛カツ)等々。これに,フライド・ポテト,ピューレや野菜サラダを付ける。パンは通常テーブルチャージに含まれる。アルゼンチンではパンにドウルセ・デ・レッチエ(クリーム状キャラメル)を塗って食べていたが,彼らはこれをママの味だという。

 

だが,年齢が進むと,魚料理やパスタを食べる頻度が増えてくる。イグアスの滝で知られるパラナ川のスルビは,見た目はナマズに似ているが淡白で美味しい。焼いたり,揚げたり,スープにして食べる。また,イタリアなどヨーロッパ系移住者が多い南米では,パスタ類も今や定着している。

 

機会があったら,ブエノスの焼き肉レストランへご一緒しませんか?

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする