豆の育種のマメな話

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幻となるか? 北海道開拓を支えた「秋田大豆」

2013-11-07 10:05:31 | 北海道の豆<豆の育種のマメな話>

長い間,北海道大豆の主要銘柄であった「秋田大豆」は,もう必要なくなったのか? 疑問がよぎる。

2011年(平成23)の品種別割合を調べたら,褐目中粒の品種は僅か2品種が栽培されているのみで ,作付面積は「キタムスメ」373ha,「ハヤヒカリ」144haと北海道の大豆総面積(26,400ha)の2%弱に過ぎない。しかも,ここ10年以上栽培面積は減少し続けている。近い将来,「幻の大豆」と言われるようになりかねない。

 写真は、日本豆類基金協会「北海道における豆類の品種」

 

豆の国十勝開拓の旗手であった「大谷地2号」

1914年(大正3)に優良品種になった在来種の「大谷地」は,渡島国南尻別村字大谷地(現蘭越町)の苫米地金次郎が移住の際携帯した秋田大豆から1892年選出したものとされるが,その後代からは「大谷地1号」「大谷地2号」「大谷地3号」「三石大豆」「蘭越」「十勝長葉」「北見長葉」「静内大豆「北見白」「イスズ」「カリカチ」「シンセイ」「キタムスメ」「キタホマレ」など多数の品種が生まれている。秋田大豆から選出したとの謂れが,後に銘柄名になったと推察される。

十勝地方では,明治時代後半から昭和20年代まで「大谷地2号」など大谷地系のいわゆる秋田大豆(褐毛,褐目)が5割を超えて栽培されていた。そして,「大谷地」の血を引き継ぐ多くの品種が生まれ,中でも,多収の「十勝長葉」,耐冷安定生産性の「北見白」「キタムスメ」,耐冷安定多収の「キタホマレ」などが基幹品種として広く栽培され,秋田大豆系品種は厳しい気象条件下での安定性が高く評価されていた。後の研究で,大豆の毛色と耐冷性は関連し,褐毛種(秋田系大豆は褐毛である)の方が低温に強いことが明らかにされた。

 

甘みがあって美味しい豆と評価が高い「秋田大豆」銘柄

褐目中粒の秋田大豆系品種は,甘みがあって美味しいと実需者の評価が高く,煮豆,味噌,納豆,枝豆等に広く使われていた。各種の分析結果でも,主流に躍り出た白目中大粒種に比べ糖類の含有率が高い傾向にあることが証明された。

今でも,「秋田大豆の納豆はないのか」とスーパーを覗き,「家庭菜園の枝豆や自家製味噌は秋田大豆に限る」と拘る消費者がいて,「味噌はやはり秋田大豆」と伝統を守り続ける業者がいる。

なのに,何故減ってしまったのか・・・?

 

白味噌に秋田大豆は適さないって本当ですか?

 「褐目品種を原料とした味噌汁(白味噌)は,お椀の底に大豆の目(臍部)が残るのでクレーム対象になる,だから秋田大豆は駄目だ」という。この言葉は,何時の頃からか呪文のように繰り返された。

1983年(昭和58),交流人事で東北農試から十勝農試に戻ってきた佐々木科長は,「褐目品種の育種を続けているのは十勝だけだ,他場の育種材料は白目(白毛)に特化している。褐目品種はもうやらない」と宣言した。

時代背景には,「海外からの輸入攻勢にどう対抗するか,煮豆惣菜などに需要があり海外産で代替出来ない白目大粒種で生き残ろう」と言うことがあった。その結果,十勝農試における白目大粒種の早生化,耐冷性強化,耐病性強化,良質化などに向けた育種は,「トヨムスメ」「トヨコマチ」「トヨホマレ」「ユキホマレ」「トヨハルカ」「ゆきぴりか」「ユキホマレR」「とよみづき」を誕生させるなど,飛躍的な進化をみせた。ただ,白目種の耐冷性強化は過大なほどの労力を要したことも事実である。

褐目種とはいえ秋田大豆は,海外からの輸入大豆で代替えできる代物とは思えない(品質,成分的に)。褐目だって良いじゃないか。そんな選択肢があっても良い。


幻の大豆となるか? 褐目中粒種

北海道大豆品種の栽培は,2011年(平成23)の調査で,白目中大粒種61%,小粒納豆種23%,黒大豆11%,あお大豆2%,褐目中粒種2%の割合である。圧倒的に白目中大粒種にシフトし,特用品種がそれを補う形だ。参考までに30年前は,白目中大粒種と褐目中粒種がそれぞれ45%前後,黒大豆が56%,その他あお豆と小粒納豆種であった。

品種の変遷を図に示したが,褐目中粒種は1986年以降大きく減少している。秋田大豆が幻の大豆にならないことを願っている。

 

 

 

 

 

2013.11.15追記(コメント回答):秋田大豆の情報を有難うございます。就農して二年目とのことですが,ご成功を期待します。「キタムスメ」は裂莢しやすくコンバイン収穫に向かない,線虫やマメシンクイガに対し抵抗性弱という難点もありますが ,耐冷安定性で多収,味も良いとの評価があるので大事にしたいものですね。なお,裸大豆は概して耐冷性が弱く低収,かつ小粒なため用途が限定されます。念のため。

コメント (1)
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