ピリリータ
パラグアイの地域農業研究センター(CRIA)で,芝生の上に遊ぶ鳥を見つけ,窓越しにカメラに収めた(写真)。帰国後,名前が思い出せなくてパラグアイの早川さんにメールで問い合わせたら,名前はピリリータ(piririta)だと教えてくれた。ピリリータといえば,パラグアイのロス・ドウアルテ演奏アルパの名曲,賑やかにさえずる鳥の声で構成される「ピリリータ」ではないか。そう思うと,写真の鳥の冠もまぶしい。
この鳥と同一であったかどうか確かでないが,試験圃場で騒々しく「ギャー,ギャー」と鳴きながら,圃場侵入者へ攻撃を仕掛けてくる鳥がいた。主に牧野に巣をつくり繁殖している。雛を守るために親鳥は極めて攻撃的で,侵入者の頭をめがけて急降下してくる。先輩のKさんは,直撃を受けて怪我をしたこともあるという。圃場に出るときはなるべく刺激しないように遠回りするか,頭の上に野帳をかかげて,身を守りながら通り過ぎなければならなかった。また,考え事をしながら歩いていて,顔の横を急襲され飛び上がらんばかりに驚くこともあった。
しかし,よく考えてみれば,我々が迷惑に思うのは筋違いで,彼らのテリトリーに我々が侵入しているのだ。
試験圃の畦間に潜む毒蛇
ブラジルのマトグロッソ財団種子生産農場を訪問した時のことである。案内に立った技術者が頑丈な脛あてをしている。昼食に戻ってきた労働者達も皆が,脛あてを外して休憩している。おお・・・,これは何だ。
「何のためにしているのか?」
「毒蛇から脚を守るのだ」と答える。
これは,一寸ばかり厄介だと思った。何しろ,ブラジルには400種を超える毒蛇が生息しているという。大豆畑に毒蛇がいてもおかしくない。
パラグアイでも毒蛇の話は聞いた(外務省医務官情報にも載っている)。農耕が繰り返されている大豆畑で被害に遭うことはないと思うが,調査で畦間に入るときは1~2mほどの棒で大豆を叩きながら進むことにした。驚いた蛇は棒に噛みつくか,音で逃げてくれるだろう。
タランチュラには気をつけろ
畑で作業することが多かったので,注意を受けたことがある。
「毒蛇とタランチュラに気をつけろ」
タランチュラとは何だ。聞くところによると,イタリアの港町タラントに毒蜘蛛の伝説があて,それを知っているヨーロッパ人が新大陸に渡ったとき,恐ろしい姿の大きな蜘蛛を見てタランチュラ(tarantula)と呼んだのが語源だと言う。パラグアイでは真っ黒でゴロッとした蜘蛛をこう呼んでいた。動きは鈍いが,余計に気味が悪い。詳細に確認したわけではないが,オオツチグモ科の一種だろう。
借家の換気扇から出てきたときは驚いたね。工事のテクニコは,「つがいで住む習性がある。もう一匹いるんじゃないか」と言った。
アルマジロはご馳走だった
アルゼンチンで最初に暮らした時のこと。大豆試験圃場の準備をしていたら,労働者達が急に声を上げて走り出した。
「アルマデイジョ! アルマデイジョ!」と,多分叫んだのだろう。「キルキンチョ! キルキンチョ!」だったかも知れない。数分して戻ってきた労働者の手元には,アルマジロがぶら下がっていた。全身ないし背面は体毛が変化した鱗状の堅い板(鱗甲板)で覆われている。
「この肉は美味しい」,スペイン語がまだ十分でない私に向かって,手真似で話してくれた。
アルマジロ(Armadillo)という名はスペイン語で「武装したもの」を意味するarmadoに由来するという。ケチュア語ではケナガアルマジロを「キルキンチョ」もしくは「キルキンチュ」と呼び,ボリビアやペルーではこちらの方が通称だという。
時を経て,パラグアイのチャベス移住地に日系一世のUさんを訪ねた。壁にはアルマジロの甲羅が飾ってあり,ご馳走になった肉は鶏肉のようだった。開拓当時はアルマジロをよく食べた,ご馳走だったとも語ってくれた。
南米では,アルマジロの肉を食用としてきたほか,甲羅はチャランゴ(写真),マトラカなどの楽器の材料に使われている。開拓の頃に比べたらその数は減少している。一方,南米原産のアルマジロが北米にまで広がり,テネシー州では野生のアルマジロが増えすぎ,狩猟して良いことになっているという。