南米の樹-4
アルゼンチン北部,ボリビア南部からパラグアイ北部にかけてのグラン・チャコと呼ばれる地帯に植生する「ケブラッチョ」という樹がある。
最初にこの名前を聞いたのは,1978年(昭和53)アルゼンチンに滞在していた頃のことであったと思う。
「ケブラッチョ,極めて硬い木だ。牧場の柵,鉄道の枕木にしか使えない。この木から取れる渋(植物性タンニン)が昔から皮の鞣しに使われたこと,鉄道敷設が進み需要が増えたため,乱伐が進んだ」
大使館の松田さんが話してくれた。
「ケブラッチョですか?」
「材が硬いことから斧を折る,という意味があるのだそうだ」
斧が折れるほど硬いと言うことなのだろう。Quebrado(割れた,壊れた),Quebradizo(割れやすい,壊れやすい)の意味から来たのか・・・。
「Que! Braceado(何てこっちゃ,何度も斧を振らせやがって)としたら,こじつけですか?」
思いつきを言ってみた。だが,返答はなかなかったような気がする。聞いたかも知れないが,覚えていない。ただ,その時のケブラッチョと言ったMさんの発音と,何しろ硬い,枕木,タンニンの単語だけが記憶に残っている。確かな語源を聞いておけばよかった。
ケブラッチョの名前は近年,日本でもよく耳にする。アルゼンチンの優れた市場材として認知度が高い。
ケブラッチョ(QUEBRACHO, Schinopsis lorentzii)
心材は赤褐色で極めて硬く,加工も難しい。枕木,牧場の柵など耐用性を重視する材として使用された(枕木として40~50年はもつという)。皮なめしに使う「渋」(タンニン)を取るため大量に伐採された。植物性タンニンは日本も輸入している。
高さ10~20m,直径50~60cm,花色は淡い黄緑,木肌は白色と褐色の二種類がある。辺材は肌色と褐色であるが,内部より渋が出て紫黒色となる。
なめし技術には,植物性担任を使う「タンニンなめし」と塩基性硫酸クロムを使う「クロムなめし」がある。クロムなめしは,工程の省力化,製品のソフト感などメリットもあるが,焼却により六価クロムが発生するなどの問題があり,処分には注意が必要だという。