豆の育種のマメな話

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日系移住者が築いたパラグアイの大豆栽培

2011-03-06 17:23:41 | 南米の大豆<豆の育種のマメな話>

南米中央部に位置するパラグアイ共和国は,面積が日本とほぼ等しく人口は北海道並,日本とは季節が逆で時差が12時間,亜熱帯性気候の内陸農業国である。牧畜と大規模畑作が展開されているが,中でも大豆生産量は世界6位の400万トンに達する。実は,この国に大豆を導入し,国家経済を支える作物にまで築き上げたのは日系移住者であった。

 

◆大豆が国家経済を支える

スペイン人が南米を発見する前から原住民ガラニー族は綿を栽培していたと記録にあるが,パラグアイにとって綿花生産は古くから重要な産業であった。しかし,品質評価の高かったパラグアイ産綿花も病害や収益性の低迷から減少し,1990年代に入ると大豆の輸出が綿花を超えて1位になり,今では大豆の豊凶が国家経済を左右するまでになっている。2001年の作付け上位品目は,大豆135ha,とうもろこし41ha,綿花30ha,キャッサバ24ha,小麦16haで,大豆栽培が圧倒的に多い。輸出総額の40%を超えるまでに成長した大豆生産は,まさにパラグアイの国家経済を支えている。

 

◆大豆生産をリードした日系移住者

1936年ラ・コルメナへ入植した日系人は,味噌,醤油,豆腐,納豆など食品用として大豆を栽培した。1937年に26ha28トン収穫したとの記録があるが,これがパラグアイにおける大豆栽培の始まりである。その後,195060年代にかけてパラナ川沿いに入植した日系移住者は輸出商品を目指しての本格的な大豆栽培を開始した。1970年代に入ると機械化が進み,また価格の高騰もあって大豆栽培は日系入植地以外へも拡大し,基幹農作物としての地位を確立する。原始の森(亜熱帯多雨林)を拓くのは苦難に満ちた道程であったと思われるが,先人の苦労は今やパラグアイの大地に豊穣の稔りをもたらしている。大豆の外にも果樹や蔬菜など日系移住者がこの国の農業発展に果たした役割は大きい。ちなみに日系農家の平均土地所有面積は約300ha(うち大豆200290ha),農業粗収入10万ドル であるが,1,000haを超える大規模農家もみられる。

 

◆不耕起栽培と密植で多収を得る

不耕起栽培とは,播種前に行なう耕起,砕土等の整地作業を省略し,前作物の残渣が残る畑に直接播種する栽培法である。パラグアイの穀倉地帯は緩い起伏のある波状丘が連なる地形のため,大型機械による大豆栽培が恒常化するにつれ土壌流亡が顕著になり,「このままでは農業が出来なくなってしまう」イグアス移住地の深見氏らは危機感を持って不耕起栽培に取り組んだという(1983年のことであった)。その後,不耕起栽培が全国に普及定着すると,パラグアイの大豆収量は世界トップの3トン近い高水準で安定するようになる。これは,不耕起栽培により作業時間が短縮され作業が天候に左右されなくなったため,適期に播種作業が終わるようになったことが大きく影響している。

 

多収要因のもう一つは肥沃なテラ・ロサ土壌と密植栽培である。生育時の個体数はヘクタール当たり3032万本で,日本の約2倍である。畦幅45cmに条播するので,メートル当たり14本,平均7cm間隔のスタンドとなる。強い日射量の下で乾燥気味に生育するため節間が詰まり,密植にもかかわらず倒伏が少ない。

 

印象に残るのは,農家経済が大豆収入に大きく依存しているため,生産者の大豆生産に取り組む姿勢が前向きであることであった。品種や栽培技術など新しい情報に対して貪欲であり,公的機関や会社が各地で開催する農場公開日,講習会には多数の生産者が集まる。生産者の熱意こそ多収を得る源であるのだろう。

 

◆増加する遺伝子組み換え(GMO)大豆

パラグアイ政府はこの時点でGMO大豆の商業栽培を認めていないが,隣国アルゼンチン(95%がGMO)から種子が流入し,ここ数年GMO栽培は急増している。パラグアイ研究者からの情報(2004年)によれば,南部で8590%,東部で75%がGMOと推定され,ブラジル南部の州でも流入GMOが「もぐり栽培」されているという。この急速な拡大には,GMOが非GMOと同じ価格で取引される,生産費が2032%節減できる等の背景がある。近い将来,パラグアイでも商業栽培を追認せざるを得ない状況に来ているように思える。(注:2005年にGMO栽培は認可された)

 

一方,GMOの導入により大豆栽培はますます大規模化し,小農が所有するジェルバ・マテや綿花の畑まで大豆に替り,その結果土地なし農民の発生,小農の雇用機会の減少など農村の治安が悪化していると指摘する声もある。非GMO大豆を求める消費者や製造業者の要望が高まる中,ある日系農協では日本の業者と特約して非GMO大豆(豆腐適性の高いAurora)を生産する努力を続けている。また,有機栽培や高蛋白大豆にプレミアをつけようとする試みなど有利な販売戦略を模索する動きもある。

 

参照:土屋武彦2004「海外事情,パラグアイの大豆栽培」ニューカントリー 52164-65.

 

Web 04web 

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