竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
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万葉集 集歌464から集歌468まで

2020年05月05日 | 新訓 万葉集
又、家持見砌上瞿麦花作謌一首
標訓 又、家持の砌(みぎり)の上の瞿麦(なでしこ)の花を見て作れる謌一首
集歌四六四 
原文 秋去者 見乍思跡 妹之殖之 屋前乃石竹 開家流香聞
訓読 秋さらば見つつ思(しの)へと妹し植ゑし屋前(やと)の石竹花(なでしこ)咲きにけるかも
私訳 秋がやって来たら眺めて観賞しなさいと愛しい貴女が植えた家の庭のナデシコは、咲き出した。

移朔而後悲嘆秋風家持作謌一首
標訓 朔(つき)移りて後に秋風を悲嘆(かな)しびて家持の作れる謌一首
集歌四六五 
原文 虚蝉之 代者無常跡 知物乎 秋風寒 思努妣都流可聞
訓読 現世(うつせみ)し世は常なしと知るものを秋風寒(さぶ)し思(しの)ひつるかも
私訳 現実の世は定まり無きものと知ってはいるが、秋風は寒く、亡き妻を思い出してしまう。

又、家持作謌一首并短謌
標訓 又、家持の作れる謌一首并せて短謌
集歌四六六 
原文 吾屋前尓 花曽咲有 其乎見杼 情毛不行 愛八師 妹之有世婆 水鴨成 二人雙居 手折而毛 令見麻思物乎 打蝉乃 借有身在者 霑霜乃 消去之如久 足日木乃 山道乎指而 入日成 隠去可婆 曽許念尓 胸己所痛 言毛不得 名付毛不知 跡無 世間尓有者 将為須辨毛奈思
訓読 吾が屋前(やと)に 花ぞ咲きたる そを見れど 情(こころ)もゆかず 愛(は)しきやし 妹しありせば 水鴨(みかも)なす ふたり並(なら)び居(ゐ) 手折(たほ)りにも 見せましものを 現世(うつせみ)の 借(か)れる身なれば 霑(つ)く霜の 消(け)ぬるしごとく あしひきの 山道(やまぢ)をさしに 入日なす 隠(かく)りにしかば そこ念(も)ふに 胸こそ痛き 言ひもえず 名づけも知らず 跡しなき 世間(よのなか)にあれば 為(せ)むすべもなし
私訳 私の家に亡き妻が植えたナデシコの花が咲き出した。それを見ても心も沸き立たず、愛しい貴女が生きていたなら、水に遊ぶ鴨のように二人並んで座り、花を手折って貴女に見せましょうに、この世に命を借りる身なので、木や葉をぬらす霜のように融け消えてしまうように、葦や檜の生える山の山道に向って入日が山に隠れるように、貴女が山に隠れてしまうと、そのことを思うと胸は痛く、語りようもなく、話として名のつけようもなく、生きた印も残すこともないこの世であるので、なんとも仕方が無いことです。
注意 原文の「霑霜乃」の「霑」は標準解釈では「露」の誤記とします。

反謌
集歌四六七 
原文 時者霜 何時毛将有乎 情哀 伊去吾妹可 君子乎置而
訓読 時はしも何時(いつ)もあらむを情(こころ)哀(いた)く去(い)にし吾妹(わぎも)か君子(きみのこ)を置きに
私訳 死ぬべき時はいつでもあろうものに、私に辛い思いをさせて死に逝った私の愛しい貴女よ。貴女の私を残したままで。
注意 原文の「君子乎置而」の「君」は標準解釈では「若」の誤記とします。

集歌四六八 
原文 出行 道知末世波 豫 妹乎将留 塞毛置末思乎
訓読 出(い)でて行く道知らませばあらかじめ妹を留(とど)めむ塞(せき)も置かましを
私訳 この世から出て行く道を知っていたならば、最初から愛しい貴女をこの世に留めるための道を塞ぐ関も置いたのですが。

コメント
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