竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
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万葉集 集歌509から集歌513まで

2020年05月18日 | 新訓 万葉集
丹比真人笠麿下筑紫國時、作謌一首并短謌
標訓 丹比真人笠麿(かさまろ)の筑紫國に下りし時に、作れる謌一首并せて短謌
集歌五〇九 
原文 臣女乃 匣尓乗有 鏡成 見津乃濱邊尓 狭丹頬相 紐解不離 吾妹兒尓 戀乍居者 明晩乃 旦霧隠 鳴多頭乃 哭耳之所哭 吾戀流 干重乃一隔母 名草漏 情毛有哉跡 家當 吾立見者 青旗乃 葛木山尓 多奈引流 白雲隠 天佐我留 夷乃國邊尓 直向 淡路乎過 粟嶋乎 背尓見管 朝名寸二 水手之音喚 暮名寸二 梶之聲為乍 浪上乎 五十行左具久美 磐間乎 射徃廻 稲日都麻 浦箕乎過而 鳥自物 魚津左比去者 家乃嶋 荒礒之宇倍尓 打靡 四時二生有 莫告我 奈騰可聞妹尓 不告来二計謀
訓読 臣女(をみのめ)の 匣(くしげ) に乗れる 鏡なす 御津の浜辺(はまへ)に さ丹つらふ 紐解き離(さ)けず 吾妹子に 恋ひつつ居(を)れば 明け闇(ぐれ)の 朝霧(あさきり)隠(こも)り 鳴く鶴(たづ)の 哭(ね)のみし泣かゆ 吾が恋ふる 千重(ちへ)の一重(ひとへ)も 慰(なぐさ)もる 情(こころ)もありやと 家(へ)しあたり 吾(あ)が立ち見れば 青旗(あをはた)の 葛城山(かつらぎやま)に たなびける 白雲(しらくも)隠(かく)る 天さがる 鄙の国辺(くにへ)に 直(ただ)向ふ 淡路を過ぎて 粟島(あはしま)を 背向(そがひ)に見つつ 朝凪に 水手(かこ)し声呼び 夕凪に 梶し音(ね)しつつ 波し上(へ)を い行きさぐくみ 磐(いは)の間(ま)を い往(い)き廻(もとほ)り 稲日(いなび)都麻(つま) 浦廻(うらみ)を過ぎて 鳥じもし なづさひ去(い)けば 家の島 荒磯(ありそ)し上(うへ)に うち靡き 繁(しじ)に生(お)ひたる 名告藻(なのりそ)が などかも妹に 告(の)らず来(き)にけむ
私訳 宮仕えの女性の匣に乗せる鏡、その鏡のような穏やかな御津の浜辺に、ほの赤く染めた契りの紐を解き放ち別れることもなく、愛しい貴女に恋い慕っていると、夜明けの暗闇の中に朝霧に隠れて啼く鶴のように、旅の別れに何も出来ずにただ泣くだけで泣いてしまう。私が貴女を慕う気持ちに、千分の一でも慰める人情はあるのかと、貴女の家の方角を私が立って見ていると、青く旗をなびかせる様な葛城山に棚引く白雲に隠れている。都から離れた田舎の国へと、御津に真向う淡路を行き過ぎて、粟島を背中に見て、朝凪に水夫の声を聞き、夕凪に梶の音をさせ、波の上を航路を探り、岩礁の間を往き廻り、印南都麻の浦も過ぎて、水鳥のように苦しみ行くと、家島の荒磯の上に浪に靡き一面に茂る名告藻が。その名のように、どうして愛しい貴女に、恋を告げずに来てしまったのだろう。

反謌
集歌五一〇 
原文 白妙乃 袖解更而 還来武 月日乎數而 徃而来猿尾
訓読 白栲の袖解き更(か)へに還(かへ)り来(こ)む月日を数(よ)みに往(い)きに来(こ)ましを
私訳 白い栲の夜着の袖を貴女と解き交した。(今思うと、)都に帰って来る月日の長さを考えて、貴女の許へ行って来たら良かった。

幸伊勢國時、當麻麿大夫妻作謌一首
標訓 伊勢國に幸(いでま)しし時に、當麻(たぎまの)麿(まろの)大夫(まへつきみ)の妻の作れる謌一首
集歌五一一 
原文 吾背子者 何處将行 己津物 隠之山乎 今日歟超良哉
訓読 吾が背子は何処(いづく)行くらむ奥(おく)つもの名張(なばり)し山を今日(けふ)か越ゆらむ
私訳 私の愛しい貴方は、今、どこらを行っているのでしょう。海の底の藻のように隠れている、その名張(=隠)の山を今日は越えているのでしょうか。

草嬢謌一首
標訓 草嬢(かやのをとめ)の謌一首
集歌五一二 
原文 秋田之 穂田乃苅婆加 香縁相者 彼所毛加人之 吾乎事将成
訓読 秋し田し穂田(ほた)の刈りばかか寄り合(あ)ばかそもか人し吾(あ)を事(こと)成(な)さむ
私訳 秋の田の稲穂の田を刈る時に穂を寄せ合うように、貴方に近寄り出会ったら、そのことで世の人々は私が貴方に恋していると認めるでしょう。

志貴皇子御謌一首
標訓 志貴皇子の御謌一首
集歌五一三 
原文 大原之 此市柴乃 何時鹿跡 吾念妹尓 今夜相有香裳
訓読 大原しこの厳柴(いつしば)の何時(いつ)しかと吾が念(おも)ふ妹に今夜逢へるかも
私訳 大原のこの清らかな柴(=いつ柴)の、その言葉のひびきではないが、いつかは逢えると私が恋い願っていた貴女を、今夜、このように抱いている。

コメント
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