「ちらし寿司より、あなた」
小田急線くだりの快速急行
三人掛けの奥端に座る私。
隣に並んだ夫婦の妻が
メロディに乗せて、そう言った。
歌った♪というべきか?
「何、いきなり」とドア脇の夫。
「知らないの? 今の」
「何が!」
サービス業で土日は働き、
平日に定休の働き手も多い。
二人は昼食を何にするか話していて、
「やっぱ江の島だし海鮮か?」
と旦那がスマホ片手に言った刹那、
アラフィフに見える女性が
「ちらし寿司より〜♫」と。
「知らないの? 今の」「何が!」
のあとに彼女は言った。
「なんとかってゆーグループの
なんとかってゆー歌がtiktokで
バズってるのよ」
「お前も知らないんじゃん!」
「知ってるわよ、ラブライブのアレよ」
「なんだ、ラブライブか」
「ラブライブわかんの?」
「国立音ノ木坂学院だろ」
「は?」
「オトノキの生徒が作るアイドルの
成長物語がラブライブじゃん」
「あたし知らないけど。
で貴方それは知ってんのに
♪タラタラターンよりあなた♫は、
知らないんだ」
「知らねえ!」
この夫婦の息のあった漫才、もとい
息のあった会話に耳ダンボで
手にした文庫本がまるで進まない。
なんとかゆーグループ名も曲名を
私も知らなかったが、
フレーズには聞き覚えがあった。
オリジナルは寿司じゃないことも。
「チョコミントより、あ・な・た」
ではなかったかしら?
読書は諦めて、スマホを出して検索。
AiScReamという3人グループの
『愛♡スクリ~ム!』という楽曲。
正直、別のなんとゆーグループの
『かわいいだけじゃだめですか?』と
同じテイストで区別がつかない。
以上、長いながいイントロダクション。
雨が強かったり弱かったり、
時には晴れ間も覗いた7月16日に
小田急線で新百合ヶ丘に向かい、
『歌え、悲しみの深き淵より』の
ゲネプロを観たのだ。
麻生文化センターの中庭のオブジェ。
写り込んでいるのは麻生区役所。
ホールは彼女の左手の方角にある。
13時から。
新宿を出たのは11時過ぎで、
新百合着時、長針は9と10のあいだ。
夫婦は、まるで違う会話をしながら
海の方へと向かって行った。
そうそう、改札を出る時に
ラブライブの、ことり役の声優
内田彩を教えたことをよく口にした
Kを思い出した。
彼は隣の各停駅が最寄なので
新百合で何度か飲んだ。
『歌え〜』を上演する劇団を辞めて、
フリーになって浅い頃の話だから
2012〜13年頃になる。
⋯⋯その「ラブライブ!シリーズ」
まだ続いているのだな〜。
きっと旦那は、その時代は知っていて。
でも、2025年の《ルビィちゃん!
はーい。何が好き?
チョコミントよりも あ・な・た》
は把握していなかったのだ。
都内では小振りだったが、
駅を出ようとしたら土砂降り
腹ごしらえしてるあいだに
やむことを願い、店を探した。
「ちらし寿司でも、食・べ・る?」
頭の中に流行りのメロディが流れた。
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