読書日記

いろいろな本のレビュー

3年で辞めた若者はどこへ行ったのか 

2008-05-06 21:41:23 | Weblog


3年で辞めた若者はどこへ行ったのか 城 繁幸 ちくま新書
 年功序列にこだわる企業は若者の勤労意欲をなくさせ、日本を結果的に世界の後進国に引きずり落とす。この昭和的価値観(年功序列に代表される古い価値観)に従わず生きる人たちの仕事や人生観を紹介して、若い人々が平成的価値観(新しい創造的な価値観)を育む手助けとしたいというのが本書の狙いだそうだ。
 例として挙げられているのは絵に描いたようなエリートコースを歩いた人ばかりで、これじゃ皆とうてい真似できないよなあというのが第一感。やたら成果主義を標榜しているが、外資系企業じゃあるまいし、日本企業がすべて成果主義に変わることはありえない。そういうやり方がうまくいかないことはご自身が富士通で経験しているはず。
 また40~50代のサラリーマンのことが視野に入っていないのが悲しい。フリーター、中高年、女性といった属性に対して日本企業は非常に冷たいというのは同感だが、著者のいう企業や社会が目指すべき改革に対しては異論がある。グローバリズムという名の改革でどれだけの人間が犠牲になったのかご存知ないのか。年功序列のどこが悪いのだ。ふざけるな。

ルポ 貧困大国アメリカ  

2008-05-05 18:07:29 | Weblog


ルポ 貧困大国アメリカ  堤 未果 岩波新書
 既に16万部売れたらしい。岩波新書久々のヒットである。「アメリカ弱者革命」の続編で特に目新しいものはない。腰巻には、「教育」「いのち」「暮らし」という、国民に責任を負うべき政府の主要業務が「民営化」され、市場の論理で回されるようになった時、果たしてそれは「国家」と呼べるのだろうか?というプロローグの一節が引用されている。教育、医療、戦争まで民営化されている現実を読むと、アメリカは大変だなあと思ってしまう。
 しかし、地べたを這いずりまわって生きている階層がいる反面、優雅に暮らしている連中もいるわけで、その総体としてアメリカを論ずることも大切だ。極端な民営化が貧困の再生産を助長する。これはアメリカの後を追う日本に対する警告に他ならないという議論に収斂させようというもくろみが見え見えで、少し勇み足かな?という感じ。岩波書店の悪いところが出てしまいましたね。次回は日本の民営化の実態とその影響についてルポしてもらいましょう。

逆接の民主主義  

2008-05-03 09:07:45 | Weblog


逆接の民主主義  大澤真幸  角川新書
 「逆接の」は「逆説の」の間違いではないかと一瞬思ったが、「一般的にはこうだ」が「私の見解はこうだ」式の文章が連ねられていることから、あのようなタイトルになったものと思われる。この本を買ったのは例の「ナショナリズムの由来」の著者が新書でどのような論を展開しているのか興味があったからだ。もし面白ければあの大部の書を買ってもいいなと思ったが、今のところは微妙だ。
 中味は雑誌連載の時事批評で、「北朝鮮を民主化する」「自衛隊を解体する」「デモクラシーの嘘を暴く」「正義を立て直す」「歴史問題を解決する」「未来社会を構想する」の六章構成になっている。その全てに共通するのは自己と他者の関係性の考察である。それをユルゲン・ハーバーマスとジャック・デリダの「他者の尊重」で説明する。なぜハーバーマスとデリダが先験的に把握されたかのように、ここに出てくるのか残念ながらよくわからない。
 真に他人を赦すとは、未だに謝罪していない者への赦し、赦しえない者への赦ししかない。他者を「赦しえない」とわれわれに判断させた原因(他者の悪人性)を、その他者が未だに解消していない段階での赦しのみが、真の赦したりうる。よって「私」がすでに「他者」であること、「私」と「他者」との対立はすでに「私」自身に内在していることを、決然と認め、引き受けることにある。従って北朝鮮に対する態度は全てを赦して援助の手を差し伸べること以外には無い。それによって北朝鮮自身がすでに国家として崩壊していることを悟らせることが大切だと述べている。このような見解は政治学、国際関係論のアプローチとは明らかに一線を画すもので、事の成否の予測はつけがたいものがある。一種の美意識のようなもので、まさに文学の世界に浮遊する感覚を味わえる。
 全編硬質な思索が展開されるが、引用文献が専門書的で新書のレベルを越えているところがどうかと思われる。もう少し分かりやすく書けば部数も増えるのにと考えるのは私だけではないだろう。文章は達意を以って旨とするという言葉をもう一度肝に銘じて欲しい。