読書日記

いろいろな本のレビュー

反貧困 湯浅誠 岩波新書

2008-12-28 10:15:37 | Weblog

反貧困 湯浅誠 岩波新書



 副題は、「すべり台社会からの脱出」。本書は第八回 大仏次郎論壇賞ならびに第十四回 平和・共同基金賞を受賞した。著者は東大大学院法学研究科博士課程中退で、ホームレス支援活動に従事。現在、自立生活センター・もやい事務局長。学会から貧困サポートへの転進のいきさつを知りたい気もするが、ここでは関係ないことなので次に行こう。
 生活保護を打ち切られて、「おにぎり食べたい」というメモを残して餓死した人の話題は国民に衝撃を与えた。コンビニの弁当・おにぎりの三割が売れ残って捨てられているこの世の中で、餓死する人がいるとは。これは著者も言うとおり、自己責任云々の話ではない。明らかに行政の怠慢である。この国に格差はあるが貧困はないと前総務大臣の竹中平蔵は言ったが、実情を把握していない能天気な発言と言えよう。著者は貧困の現場に実際身を置いて、セイフティーネットにかからない人々の相談に乗った経験をつぶさに報告してくれている。「反貧困」はお題目ではない。国がやるべき義務である。憲法第25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障しなければならいのだ。為政者の仕事は一にかかってここに集中すべきである。声高な批判でなく、冷静な論調と的確な問題提起の記述は著者の人柄を感じさせて好感がもてる。
 あとがきの次の言葉が胸を打つ「誰かに自己責任を押し付け、それで何かの答えがでたような気分になるのは、もうやめよう。お金がない、財源が無いなどという言い訳を真にうけるのは、もうやめよう。そんなことよりも、人間が人間らしく再生産される社会を目指すほうが、はるかに重要である。社会がそこにきちんとプライオリティー(優先順位)を設定すれば、自己責任だの財源論だのといったことは、すぐに誰も言い出せなくなる。そんな発言は、その人が人間らしい労働と暮らしの実現を軽視している証だということが明らかになるからだ。そんな人間に私達の労働と生活を、賃金と社会保障を任せれられるわけがない。そんな経営者や政治家には、まさにその人たちの自己責任において退場願うべきである。主権は、私たちに在る。」今年、私が一番感動した言葉だ。これを読んだとき、麻生首相、経団連の御手洗会長、橋下大阪府知事の顔が浮かんだ。彼らに熨斗をつけてこの言葉を贈りたい。

中国ポスター 秋山孝 朝日新聞出版社

2008-12-28 09:06:15 | Weblog

中国ポスター 秋山孝 朝日新聞出版社



 建国から現在に至る中国のポスターから168点を選び解説したものである。中国を語る場合、毛沢東抜きには語れない。共産党の中枢として権力闘争を勝ち抜いてきた実力は、古今東西の独裁者の中でも抜きん出ている。特に文化大革命は彼が仕掛けた権力闘争としては最高のものだ。これは政敵の劉少奇を失脚させるための陰謀だったが、外向けには中国の旧弊を打破するという大義名分で起こされたため、その本質を見抜けない人が多かった。「造反有理」という言葉は日本の大学生を感動させ、学生運動のスローガンになったことは記憶に新しい。日本の中国学者たちはこぞって毛沢東を礼賛し、文化大革命を評価した。従って学会で台湾を研究対象にする人は非常に少なかった。当時を思い返して、私自身内心忸怩たるものがある。
 このようにポスターは政治と直接と関わっているゆえ、これを見るだけで1949年の建国以来の歴史が俯瞰できる。文革期の毛沢東の個人崇拝を推進する一群のポスターは個人的に興味深い。後の北朝鮮の金日成の偶像崇拝の原型がここにある。ポスターの基調は赤で、これは国旗の五星紅旗の赤色から来ている。赤色革命を実践するという強い意志の表明である。中でも毛沢東の妻の江青が指揮した革命現代舞劇「紅色娘子軍」のポスターは江青のすぐれた美的感覚が出ており、素晴らしい出来だ。彼女は後に四人組の首魁として華国鋒によって死刑判決を受けたが、その後自殺した。権力者の盛衰を見事に生き抜いたとも言える。
 最近のものはどうかというと「愛心、救助、未来」というように未来に向けて「愛」の重要性を訴えるような情念的なものが多い。これは内部に敵を作って階級闘争ができない現中国共産党のディレンマが読み取れる。外に敵を作って国内の矛盾を隠蔽するやり方は、昨今の反日運動を見れば明らかだが、いつまでもやっているわけには行かないだろう。大変難しい時期に来ていることは確かだ。