学歴・階級・軍隊 高田里恵子 中公新書
副題は「高学歴兵士たちの憂鬱な日常」。戦前の日本で、旧制高校から帝国大学へと進む学生達は、将来を約束された一握りのエリートであった。それが、第二次世界大戦もたけなわとなる頃から、彼らも苛酷な軍隊生活を送らざるを得ない状況となる。軍隊内で大学卒のインテリ兵士が、農家の次男・三男で小学校しか出ていない古参兵にいじめられるという話は、野間宏の「真空地帯」や大西巨人の「神聖喜劇」でお馴染みだが、本来は邂逅することの無い人種に出くわした時のインテリの衝撃が手に取るように描かれている。日本を代表するインテリの丸山真男も陸軍二等兵として従軍したが、小学校卒の一等兵に苛め抜かれた体験があり、これを「異質なものとの接触」だったと語っている。
この「異質なものとの接触」はその後の丸山の思想の中で、人間観から政治観に至るまで、大きな位置を占めるようになっていったことが指摘されている。この苛酷な体験は丸山にとっては有益だったということだ。府立一中、一高、東大法という丸山の歩んだコースは近代日本が作り上げた「階級」というべきものだが、著者は、欧米ではブルジョワ階級にふさわしいものとして上級学校が整備されたが、日本では反対に、一つの階級を作り出すために、上級学校が整備されたのだと言う。よってこの新しい階級に潜り込むためには、猛勉強して入試に受かることが必要だ。しかし、めでたく合格しても更に才能の角逐が行われ、途中で脱落するものも多い。この図式は現代でもあまり変わっていない。中高一貫校から東大へというコースを突走ったもののうち何人が「異質なものとの接触」が可能であろうか。