読書日記

いろいろな本のレビュー

妻と僕  西部 邁  飛鳥新社 

2008-09-23 10:23:07 | Weblog

妻と僕  西部 邁  飛鳥新社

 西部 邁は現在六十九歳。もと全学連の委員長で、もと東大教授。現在評論家として活躍している。右派の論客としてテレビに出ることが多いが、サンケイ「正論」系の有象無象とは一線を画している。左翼運動を極めたあとの転向で、党派の限界を知り尽くしているがゆえに、その発言は説得力を持つ。
 本書の副題は「寓話と化す我らの死」。高校時代の同級生で、44年間連れ添ってきた妻が、大腸癌で死の渕をさまよったのを契機に二人の歩んだ道を、時代との関わりでたどったもの。ただの病妻看病日記ではない。60~90年代の風俗と時代思潮が織り込まれており、ある種の品格を感じさせる。ショーケンの自分史とは趣を異にしており、すごくストイックな内容だ。これは高校時代は強度の吃音に悩まされたが、それを克服して現在に至っていることが影響していると思う。注に引用された書物の多さをみるだけでも、学者としてひたむきに生きてきた人間の営為が想像され感動する。最後まで書物を読み死んでいくという意志が行間に滲み出ている。家族の誕生と隆盛と解散。晩年はどの人にも平等に訪れる。美意識だけは格調高く持ちたいものだ。