読書日記

いろいろな本のレビュー

脱マニュアル小論文 中井浩一 大修館書店

2008-09-20 22:20:03 | Weblog

脱マニュアル小論文 中井浩一 大修館書店



 大学入試に小論文はつきものだが、著者の指摘の通り、1980年頃まで高校現場では作文や表現指導はほとんど行われていなかった。私は1970年に高校を卒業して大学を受験したが、入試科目は学科試験のみで論文を課す大学はなかった。ただ国語の現代文の試験で記述式の本格的なものがでることはあった。昭和43年(1968年)の京大入試の国語で高村光太郎の「火星がでている」の全編を出して、思うところを述べよという問題が出たが、これは本格的な記述問題のはしりであったのではないかと思われる。最近昔のことが鮮明に思い出せるようになってきたが、ボケの前兆ではないかと危惧している。まあとにかく当時は小論文など出さなくても、高校生はよく本を読んでいて、今の高校生とは比べ物にならないくらい教養があったということだ。
 著者は小論文で高校生が陥る欠点は①「観念病」と②「情緒病」だそうだ。①は生活経験を通さずに抽象概念と論理操作に終始すること。②は筆者の感情、情緒の吐露に終始することで、ともに、きちんと事実に向き合わないことだという。したがって良い論文を書くためには生活経験を綴ることから始めるべきだということが強調されている。それがなければ作ればよいと断言する。その経験から一般化できる問題を取り上げて敷衍していけばよい。また「作文・論文」は「道徳」ではない。「建て前」「正論」「説教」は不要。根拠・事実に基づいて、論理的に述べるだけと話は明快だ。小手先だけの作り物は小論文に限らず、人の心を打たない。中井氏の言葉を肝に銘じておこう。