読書日記

いろいろな本のレビュー

江戸時代 山本博文 東京書籍

2008-09-19 22:20:10 | Weblog

江戸時代 山本博文 東京書籍



サブタイトルは「教科書には出てこない将軍・武士たちの実像」で、教科書併用の資料集のようなものか。出版元が大手の教科書会社なので、内容は少々硬い。私が目新しいと感じたのは、参勤交代の実情を解説した第二章だ。
 幕府が大名を窮乏化させようとして参勤交代という制度を作ったという説があるが、著者によるとこれは結果論で、本当の狙いはあくまで将軍のところに挨拶とお礼に来させ、幕府に服従を誓わせることだった。絶えず幕府は大名を潰そうとし、大名はいつ幕府を倒そうかと考えているという、誤った歴史観が広く普及しているが、これは時代小説の悪い影響で、そういうことはまったくないということだ。
 参勤交代で他藩の領地を通過する時の作法も石高の多寡によって違ってくる。なにごとにつけ、階層性が大きくものをいってくるのである。参勤交代の費用は加賀藩で四億から五億という金額になる。宿泊費は160文から200文ぐらいで、一文20円で換算すると3200円から4000円。今のビジネスホテルの安い所ぐらいだ。このようにしてかなりのお金が全国各地に落ちた。かくして参勤交代を通じて、日本全国の均質化と文化の交流が促進されたことは忘れてはならない。
 また幕末の尊皇攘夷運動も倒幕を意識してなされたものではなく、非常に複雑な歴史過程の中で生まれた思いも寄らない結果だったという指摘は非常に新鮮だ。世間はすぐに、善と悪、権力と反権力というようなニ項対立の図式で物事を捉えようとするが、歴史のダイナミズムはこの視点では理解不能だ。人間のやることはそれほど簡単なことでは理解できない。二百年以上続いた政治権力はただの独裁政権ではない。階層社会とはいえ、生きていて面白いと感じさせるものが必ず存在したはずだ。今、平成という時代に閉塞感を抱く身からは、江戸時代の実相をさらに知って生きる喜びのもとを授かりたいという気がする。毎日、本当に息がつまるよ。