Ma Vie Quotidienne

一歳に二度も来ぬ春なればいとなく今日は花をこそ見れ

読書  蛇を踏む  川上弘美 著

2012-02-29 21:54:26 | Book


これ、ちょっと難しくて2回読んじゃいました。
あんまり意味とか考えないで感覚で捉えたほうがいいとは思うんですが、
それにしても1回ではとらえどころがなかった(笑)

「神様」を読んだ時は、
川上弘美さん、元は生物の先生ってことで科学的な考え方を持っていそうなのに
こんな空想的な物語を書くんだなあって思ったんですが、
「蛇を踏む」を読んで、「あ、違った」と思いました。

生物を知っているからこそ
いろんな植物や動物に精通していて、
そういうのって突き詰めていくと、
人間とか動物とか植物とかの境目って何かしら?あるのかしら?的な考え方になったりして、
だからいろんな生き物と人間が普通に絡むような物語が書けるのかなっていう風に思いました。

しかも川上さんは生物の先生になる前から空想好きな少女だったみたいで、
いろんな生き物が出てくる空想をしているうちに
いろんな生き物について学びたくなったタチかもしれないですよね(笑)

まあ、そんなこんなで、
「蛇を踏む」も蛇と人間が壮絶に絡む物語です。

こういうお話は
意味とかそういうの求めず解釈とかあまりしないで
感覚で捉えたほうがいいって
多くのレビュワーさんがいうのですが、
でも夢にだってなんかの意味があるってフロイトが言うんだから、
ちょっとはこの物語についても考えてみようかなと(笑)

主人公は女子高で生物の先生を4年務めて(著者と同じ!)
思うところあって退職して、
失業保険で食いつないだ後に数珠屋さんでお手伝いをしている。
そこに出勤する途中で蛇を踏んでしまったことから
奇妙な蛇とのあれこれが始まるのです。

彼女は人と壁を作りながら接してしまうタチらしい。
物語の中で自分でもそのようなことを言っていますし。

そして教職でいったん挫けてしまったことで
自分自身の中にも壁ができてしまった。
自分が自分であるための軸みたいなものがあいまいになって、
崩れてしまわないように、今までの自分をしまっておくために、
自分の中に壁を作る必要があった。

そして蛇を踏んでしまった。

彼女はそれ以前にも
近くに蛇を感じたことがある。
男性との関係において、初めての時はそうならないけど、
何度か肌を触れ合わせるうちに目を閉じて相手に自分をゆだねられるようになると、
相手が一瞬蛇になる。

彼女は自分を守る壁が崩れる瞬間、その対象が蛇となるのではないか。

彼女が踏んで以来彼女にまとわりつく蛇は、
彼女の中にある壁が隔てているもう一人の彼女。
壁とはいっても自分の中にあるものだから
あってないようなもの。
蛇との関係はいけないと思いながらも心地よい。
追い出そうと思いながらもいつもなれ合ってしまう。
弱い自分と、それじゃだめだ自分の足で立たないとだめだと思う自分。

でも、あるとき蛇との戦いが始まる。
蛇が誘う。
「こっちは暖かいよ。気持ちいいよ。」と。
彼女は魅かれながらも拒む。
そんな世界はないのだと断言し、そっちに引っ張って行かれないよう踏ん張る。
最後にはお互いに首を絞め合って戦う・・・・

そこで物語は終わり。

終わりなき戦い。

なんかこういう葛藤って誰にでもあることで、
もちろん蛇が出てくることはそうそうないけど、
蛇の誘いに乗っちゃうと、
いま巷で噂のオセロの黒のほうみたいなことになるのかなあって
思ったりもします。

というのが、私が勝手に感じたことです(笑)

あと2つ、この本には掲載されています。

「消える」
消えたり伸びたり縮んだりする人たちの家族的人間模様。
これも非現実世界のお話なんですが、
同じ家族でもお兄さんたちは消えたけどお父さんもお母さんも消えないし、
やはりそこには何かあるんだろうな。
私たちも目に見える形は変わらなくても、
存在感的にとか心理的に
消えそうだったり大きくなったり小さくなったりって
結構あるんじゃないかなあ。
例えば、最近合う人合う人に
「sympaさん疲れている?」
「元気ないね」
と言われる私。
別に自分では悩みもないし、
いろんなことに対する意欲もモリモリなんだけど。
でもなんか皆さんには薄くなって見えるのかもしれない・・・と思ったり(笑)

「惜夜記(あたらよき)」
これはもう不思議ワールド。
夜の始まりから明けるまでの時間にあちこちで起こっていることのオムニバス。
すべてファンタジーです。
なんだろ・・・
最近アメリカ映画はとんと観ていないのでわからないのですが、
映像にしたらまあティム・バートン的なものがもっとエグくなった感じとか、
フランス映画だったら
15年位前の映画で「ロスト・チャイルド」ってのがあって、
まあああいうフリーキーなのがたくさん出てきて
もっとストーリーがない感じです。
うん、
大人向きの、エロスとかグロテスクとかが入り混じった
ファンタジーです。

川上弘美、すごいです。
なんかね、わたし、
仕事柄、認知症の人とか精神疾患の人とかと接することもしばしばで、
彼らはなんだか荒唐無稽なことを延々と話し続けたりするんですが、
川上さんは、
そういったとりとめもない世界を文章にしていける人なのだと思います。

またゆっくり時間のあるときに
「うそばなし」のアミューズメントパークで遊びたくなったら、
川上さんの本を手に取りたいなと思います。

その前に、
3月は震災関連の本をまたどっぷりと読み漁るのです。


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