Ma Vie Quotidienne

一歳に二度も来ぬ春なればいとなく今日は花をこそ見れ

読書  博士の愛した数式  小川洋子著

2011-12-28 00:03:59 | Book


小川洋子シリーズに突入しております

これは映画にもなって、たぶん彼女の作品の中で
一番有名なのではないでしょうか。


数字という無限に広がる確かなるものを題材にした、
揺らぎながらも無限に大きな愛についての物語です。

記憶に障害がある初老の元数学教授。
作品中では博士と呼ばれています。
彼の記憶は事故に遭った年で止まったまま。
新しいことは80分しか脳内に残ってくれない。

一人暮らしなので家政婦さんを頼んでいるのだけど、
顔を覚えてくれないのはもちろん、
緊張すると数字の事しか話せなくなるし、
数学の定理について考えているときに話しかけたら怒るし、
気難しいのでこれまで何人もの家政婦さんが辞めている。

そこに主人公のアラサーシングルマザーが家政婦として派遣された。
彼女は自身も私生児として生まれ、
そして18の時にシングルマザーになって自活してきた。

彼女と博士、そして彼女の10歳の息子も加わって、
3人の奇妙な交流が始まります。

お話の中には数字がたくさん出てきます。

この世の中、
「人生に答えなんてないんだよ。」とか
「状況をみながら最善の策を」とかいって
曖昧なままうやむやになることって結構多くて、
まあそれが美学としてとらえられたりすることも多いのですが、
それとは逆に
正解を求めること、
例えば博士がいつも没頭しているように
自然界に存在する真理を追求することっていうのも
美しい行為だなあとあらためて思いました。

博士の言葉を借りれば
「この世が産まれる遥か前に神様が作って神様の手帳にしか書いてないこと」
を垣間見る。
そんな尊さとスリルが自然科学にはありますよね。

私も理系だったんで結構そういうの好きでした。
中学の時は数学大好きだったなあ。
高校の時もはじめは数学好きだった。
「○○について証明しなさい」みたいなの。
真っ白い余白にダーッと証明書いていくのが気持よかった。
高校の後半は化学が大好きだった。
元素とかそういうの。
今思えば、
科目そのものも好きだったけど教えてくれる先生も好きだった。
中学の数学は田村先生。
高校の化学は川西先生。
二人とも教え方がうまかった気がする。
ちょっと変わってたというのもあるけど(笑)

この本の博士も教え方が巧い。
主人公(家政婦)に数字の美しさを説く時や
彼女の息子に宿題教える場面はまるで愛を語っているかのよう。
そう、教え方がうまい人って、
その物事に対する愛があるんですよね、きっと。

社会人になってからも数々の習い事に身を投じてきましたが、
教え方がうまい先生、下手な先生、いろいろいましたねぇ(笑)

博士が語る「愛」で印象深いのは、
もちろん友愛数や完全数の件もそうなんだけど、
わたし的には「0」の発見の件。
「0」って美しいなあってホントに思いました。
博士が語る愛はいつも情熱的なのですっかり影響を受けてしまいます。

神様によって定められた美しい数字の世界に魅せられた博士ですが
彼が愛するものは他にもあります。

まず子供。
そして野球。

この二つの存在によって、
いつもは数字ばかり追いかける博士の人間的な一面を知ることができ、
さらに博士と主人公とその息子が作る三角形は
美しくバランスがとれたものへと変化していきます。

もう一つ博士が愛したもの。
彼にはかつて大人の男性として愛した女性がいました。
その女性も彼を愛していました。
その女性はいつも博士のそばにいるのに、
障害をもった博士の世話を自らがすることを極力避けてきました。
その辺の事情は詳しく書かれていなくて、
読み手の想像に委ねられています。

秘められた関係であること、
一緒にいたときに事故に遭って博士が記憶の障害を負い数学者としての才能が閉ざされたことが
その女性のわだかまりになっていたのかもしれません。
でも主人公とその息子が
閉じ込められていた博士にひたむきに接するのを目の当りにして、
女性の考え方も柔らかく変化していきます。

素直なもの、ひたむきなものは、
頑なに閉ざしたものを溶かしていくのです。
まるで難しい証明を解くための鍵が
頭のなかに光となって射し込んで来るかのように。

そして最後には博士が愛したものすべてがバランスよくキレイな球を描くように
博士を包み込みます。

数字、野球、江夏豊、主人公、その息子、愛した女性・・・

いや、それは球ではないのかも。

自分以外の約数を全部足したら自分と同じ数字になる「完全数」であり
阪神時代の江夏の背番号28。

28=1+2+4+7+14

博士は愛する者、自分を形作るものすべてに囲まれて
美しい「完全」となったのかもしれません。



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