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【判例】 *平成17年03月10日最高裁判所第一小法廷判決 (建物明渡請求事件)

2008年04月10日 | 建物明渡(借家)・立退料

 判例紹介


事件番号         平成13(オ)656
事件名           建物明渡請求事件
裁判年月日        平成17年03月10日
法廷名           最高裁判所第一小法廷
裁判種別         判決
判例集巻・号・頁     第59巻2号356頁
原審裁判所名       東京高等裁判所  
原審事件番号       平成11(ネ)3608
原審裁判年月日     平成13年01月30日

(判示事項)
1 所有者から占有権原の設定を受けて抵当不動産を占有する者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる場合

2 抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり抵当権者が直接自己への抵当不動産の明渡しを請求することができる場合

3 第三者による抵当不動産の占有と抵当権者についての賃料額相当の損害の発生の有無

(裁判要旨)
1 抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても,抵当権設定登記後に占有権原の設定を受けたものであり,その設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる。

2 抵当不動産の占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,当該占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる。

3 抵当権者は,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではない。

参照法条     民法369条,民法709条


 

                       主     文

1 原判決主文第3項を破棄し,同部分に係る被上告人の請求を棄却する。
2 賃借権侵害による不法行為に基づく賃料相当損害金の支払請求に係る被上告人の控訴を棄却する。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 控訴費用及び上告費用は,これを3分し,その1を被上告人の負担とし,その余を上告人の負担とする。


         
                        理     由

 第1 事案の概要
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) 被上告人は,平成元年9月5日,A社(以下「A社」という。)との間で,A社所有の土地上に地下1階付9階建ホテル(以下「本件建物」という。)を請負代金17億9014万円で建築する旨の請負契約を締結し,平成3年4月30日,本件建物を建築して完成させたものの,A社が請負代金の大部分を支払わなかったため,の引渡しを留保した。

 (2) A社は,平成4年4月ころ,被上告人との間で,請負残代金が17億2906万円余であることを確認し,これを同年5月から8月まで毎月末日限り500万円ずつ支払い,同年9月末日に残りの全額を支払うこと,被上告人の請負残代金債権を担保するため,本件建物及びその敷地につき,いずれも被上告人を権利者として,抵当権(以下「本件抵当権」という。)及び停止条件付賃借権(以下「本件停止条件付賃借権」という。)を設定すること,本件建物を他に賃貸する場合には被上告人の承諾を得ることを合意した(以下「本件合意」という。)。本件停止条件付賃借権は,本件抵当権の実行としての競売が申し立てられることなどを停止条件とするものであって,本件建物の使用収益を目的とするものではなく,本件建物及びその敷地の交換価値の確保を目的とするものであった。そして,A社は,本件合意に基づき,同年5月8日,本件抵当権設定登記と本件停止条件付賃借権設定仮登記を了した。そこで,被上告人は,A社に対し,本件建物を引き渡した。

 (3) ところが,A社は,本件合意に違反し,上記分割金の弁済を一切行わず,しかも,平成4年12月18日,被上告人の承諾を得ずに,B社(以下「B社」という。)に対し,賃料月額500万円,期間5年,敷金5000万円の約定で本件建物を賃貸して引き渡した(以下,この賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。その後,平成5年3月に敷金を1億円に増額し,同年5月1日に賃料を月額100万円に減額するとの合意がそれぞれされたが,敷金が実際に交付されたか否かは定かでない。

 (4) B社は,平成5年4月1日,被上告人の承諾を得ずに,上告人に対し,賃料月額100万円,期間5年,保証金1億円の約定で本件建物を転貸して引き渡した(以下,この転貸借契約を「本件転貸借契約」という。)。不動産鑑定士の意見書によれば,本件建物の適正賃料額は,平成7年1月31日時点で月額592万円,平成10年10月26日時点で月額613万円とされており,本件転貸借契約の賃料額は,適正な額を大幅に下回るものであった。

 (5) 上告人とB社の代表取締役は同一人である。また,A社の代表取締役は,平成6年から平成8年にかけて上告人の取締役の地位にあった者である。なお,A社は,平成8年8月6日に銀行取引停止処分を受けて事実上倒産した。

 (6) 被上告人は,平成10年7月6日,東京地方裁判所八王子支部に対し,本件建物及びその敷地につき,本件抵当権の実行としての競売を申し立てた。本件建物の最低売却価額は,平成12年2月23日に6億4039万円であったものが,同年10月16日には4億8029万円に引き下げられたものの,本件建物及びその敷地の売却の見込みは立っていない。このように,本件建物及びその敷地の競売手続による売却が進まない状況の下で,A社の代表取締役は,被上告人に対し,本件建物の敷地に設定されている本件抵当権を100万円の支払と引換えに放棄するように要求した。


 2 被上告人は,上告人に対し,第1審において,上告人による本件建物の占有により本件停止条件付賃借権が侵害されたことを理由に,賃借権に基づく妨害排除請求として,本件建物を明け渡すこと及び賃借権侵害による不法行為に基づき賃料相当損害金を支払うことを請求したところ,第1審はこの請求をいずれも棄却した。これに対し,被上告人が,控訴し,原審において,上記請求と選択的に,上告人による本件建物の占有により本件抵当権が侵害されたことを理由に,抵当権に基づく妨害排除請求として,本件建物を明け渡すこと及び抵当権侵害による不法行為に基づき賃料相当損害金を支払うことを追加して請求したところ,原審はこの追加請求をいずれも認容した。


 第2 上告代理人相澤建志,同藤井秀夫の上告受理申立て理由1について
 1 所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ,抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる(最高裁平成8年(オ)第1697号同11年11月24日大法廷判決・民集53巻8号1899頁)。そして,【要旨1】抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても,その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができるものというべきである。なぜなら,抵当不動産の所有者は,抵当不動産を使用又は収益するに当たり,抵当不動産を適切に維持管理することが予定されており,抵当権の実行としての競売手続を妨害するような占有権原を設定することは許されないからである。

 また,【要旨2】抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。


 2 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,次のことが明らかである。
 本件建物の所有者であるA社は,本件抵当権設定登記後,本件合意に基づく被担保債権の分割弁済を一切行わなかった上,本件合意に違反して,B社との間で期間を5年とする本件賃貸借契約を締結し,その約4か月後,B社は上告人との間で同じく期間を5年とする本件転貸借契約を締結した。B社と上告人は同一人が代表取締役を務めており,本件賃貸借契約の内容が変更された後においては,本件賃貸借契約と本件転貸借契約は,賃料額が同額(月額100万円)であり,敷金額(本件賃貸借契約)と保証金額(本件転貸借契約)も同額(1億円)である。そして,その賃料額は適正な賃料額を大きく下回り,その敷金額又は保証金額は,賃料額に比して著しく高額である。また,A社の代表取締役は,平成6年から平成8年にかけて上告人の取締役の地位にあった者であるが,本件建物及びその敷地の競売手続による売却が進まない状況の下で,被上告人に対し,本件建物の敷地に設定されている本件抵当権を100万円の支払と引換えに放棄するように要求した。

 以上の諸点に照らすと,本件抵当権設定登記後に締結された本件賃貸借契約,本件転貸借契約のいずれについても,本件抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められるものというべきであり,しかも,上告人の占有により本件建物及びその敷地の交換価値の実現が妨げられ,被上告人の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるということができる。

 また,上記のとおり,本件建物の所有者であるA社は,本件合意に違反して,本件建物に長期の賃借権を設定したものであるし,A社の代表取締役は,上告人の関係者であるから,A社が本件抵当権に対する侵害が生じないように本件建物を適切に維持管理することを期待することはできない。

 3 そうすると,被上告人は,上告人に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,直接自己への本件建物の明渡しを求めることができるものというべきである。被上告人の本件建物の明渡請求を認容した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。


 第3 上告代理人相澤建志,同藤井秀夫の上告理由について
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは,民訴法312条1項又は2項所定の場合に限られるところ,本件上告理由は,理由の不備をいうが,その実質は単なる法令違反を主張するものであって,上記各項に規定する事由に該当しない。


 第4 職権による検討
 1 原審は,上告人の占有により本件抵当権が侵害され,被上告人に賃料額相当の損害が生じたとして,前記のとおり,抵当権侵害による不法行為に基づく被上告人の賃料相当損害金の支払請求を認容した。

 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 【要旨3】抵当権者は,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではないというべきである。なぜなら,抵当権者は,抵当不動産を自ら使用することはできず,民事執行法上の手続等によらずにその使用による利益を取得することもできないし,また,抵当権者が抵当権に基づく妨害排除請求により取得する占有は,抵当不動産の所有者に代わり抵当不動産を維持管理することを目的とするものであって,抵当不動産の使用及びその使用による利益の取得を目的とするものではないからである。そうすると,原判決中,上記請求を認容した部分は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,破棄を免れない。そして,上記説示によれば,上記請求は理由がないから,これを棄却することとする


 3 また,上記請求と選択的にされている賃借権侵害による不法行為に基づく賃料相当損害金の支払請求については,前記事実関係によれば,本件停止条件付賃借権は,本件建物の使用収益を目的とするものではなく,本件建物及びその敷地の交換価値の確保を目的とするものであったのであるから,上告人による本件建物の占有により被上告人が賃料額相当の損害を被るということはできない。そうすると,第1審判決中,賃借権侵害による不法行為に基づく賃料相当損害金の支払請求を棄却した部分は正当であるから,これに対する被上告人の控訴を棄却することとする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


(裁判長裁判官 泉 治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

 


 

 

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【判例】 家主と管理業者の脅迫的立退き行為に慰謝料が認められた (京都地裁判決)

2008年04月09日 | 建物明渡(借家)・立退料

 判例紹介


事件番号       :平成18年(ワ)第2455号

事件名        :損害賠償請求事件

裁判年月日     :H19.10.18

裁判所名      :京都地方裁判所

部           :第2民事部

結果         :一部認容

(判示事項の要旨)  
  Xの居住する賃貸家屋の家主であるY1は,Y2社に対し当該家屋の明渡し,に関するXとの明渡交渉を委託した。Y2社の従業員は,何度かX方を訪問して交渉したが明渡しの同意を得るに至らず,最後の交渉が行われた約2週間後,解体業者に命じて,X方に隣接するY1所有の家屋の取壊しを行わせた。Xが,(1)交渉の過程におけるY2社従業員の発言が脅迫に当たること,(2)隣接家屋の取壊しは乱暴に行われXに不当な心理的圧力をかけるためのものであったこと,を主張し,不法行為に基づく精神的損害の賠償を求めた。本判決は(1)の主張は認めなかったが,(2)の主張には理由があるとして,Y2社に50万円の賠償を命じた。また,Y1についてもY2社が不当な態様及び目的で隣接家屋の取壊しを行うことを認識せず取壊しに承認を与えたことに過失があるとして,同額の賠償を命じた。


                       主        文

1 被告らは原告に対し,連帯して,50万円及びこれに対する平成18年10月7日から支払済みに至るまで年5%の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用はこれを4分し,その3を原告の,その1を被告らの負担とする。

3 この判決は仮に執行することができる。


                        事 実 及 び 理 由
第1 請求
 被告らは,連帯して,原告に対し,200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年5%の割合による金員を支払え。


第2 事案の概要
本件訴訟の概略
 原告は,被告Y1の所有家屋の賃借人である。被告Y2社は,被告Y1から当該家屋の管理の委任を受けた業者であり,原告との間で明渡しの交渉を行った。

 本件は,原告が,交渉の過程において被告Y2社の従業員による脅迫ないし嫌がらせにわたる所為があったと主張して,精神的損害に対する慰謝料を請求した事案である。

2 前提事実(証拠を示さない事実は当事者間に争いがない。日付けはすべて平成18年のものである )。

(1)原告は,肩書住所地において,被告Y1から木造2階建ての家屋(以下「本件家屋」という。 )を賃借して居住している。

(2)本件家屋は,同一区画内に建てられた被告Y1所有の4軒の家屋のうちの1軒である。4軒の家屋はいずれも昭和28年に建築されたもので,壁を接して2軒ずつ建てられたほぼ同一構造の木造2階建ての家屋の2組から成る。
 1月30日の段階では,本件家屋に隣接する家屋(以下「隣接家屋」という。 )は,空き家となっていた。他の2軒のうち,1軒には訴外A氏が居住しており,1軒は空き家であった。

(3) 1月30日,被告Y2社の従業員Bが原告方を訪れ,本件家屋の明渡しを求めた。

(4) 2月2日,2月6日,2月16日,3月3日,3月24日に,A宅で,本件建物の明渡しを求めるBと,これを拒む原告及びAとの間で,協議が行われた。
 これらの協議には,被告Y2社側ではBに加えて被告Y2社代表者が同席することがあり,原告側ではケアマネージャーのC氏又は市会議員のD氏が同席した。

(5) 4月9日に,被告Y2社の依頼した解体業者が,空き家になっていた2戸の家屋の取壊し作業に着手したが,原告の抗議を受けて作業を終了し引き揚げた。当日は,Bも解体業者と同行していた。


争点及び当事者の主張
(1)被告Y2社の不法行為責任

〔原告〕
 被告Y2社は,B及び代表者の脅迫的言辞により原告を恐怖させ,困惑させた。また,空き家の取壊しにより,原告が通路を通行する権利,安全・安心に生活する権利を妨害し,四六時中更なる嫌がらせを受けるのではないかという不安に陥れ,もって本件家屋の明渡しを強要しようとした。これらの行為により,原告の平穏な生活を著しく侵害した。


〔被告ら〕
 原告の立退きの要請及びA宅における協議において,B又は被告Y2社代表者が脅迫的言辞を用いたことはない。また,隣接家屋の取壊し作業は相当な手順を踏んで平穏に行われていたにもかかわらず,原告がこれを中断させたものである。


(2) 被告Y1の不法行為責任

〔原告〕
 被告Y1は,被告Y2社の不法行為を放置し,原告が抗議をしても誠実に対応せず,被告Y2社の不法行為を黙認してきた。
〔被告ら〕
 争う。


(3) 損害額

〔原告〕
被告らの不法行為により原告が被った精神的損害に対する慰謝料の額は200万円が相当である。
〔被告ら〕
 争う。


第3  当裁判所の判断
 1 被告Y2社の不法行為責任
 (1) 脅迫的言辞について

ア 原告の供述(甲19,原告本人)によれば,1月30日の経緯は以下のとおりであると認められる。
① 原告は突然のBの来訪に困惑して退去を求めたが,Bはなかなか退去しようとしなかった。
② 原告が,夕方にAが帰宅した後にAと一緒に再度話を聞く旨を約束して初めて,Bは退去した。
③ 午後8時ころ,BはA宅を訪れ,Aに対して明渡し又は家賃の倍増を強い口調で求めた。原告に対しても,2月2日に再度訪問する旨を告げた。

 被告らは,Bは丁寧な口調で本件家屋の明渡しを求めたと主張し,Bもその旨供述するが(乙6,B証人 ,下記イのとおりの2月2日以降の協)議におけるBらの言辞からすれば,1月30日においても,相当強硬に明渡しを求めたものと推認されるところであり,被告らの主張は採用できない。

イ 2月2日以降の協議の録音テープ(甲10~13)によれば,これらの協議の席上,Bないし被告Y2社代表者は 「どんなことをしてでもあけてもらう」 「強硬手段でいかんなん」 「つぎの手をうつ。くさびを打ちに。がんと」 「おれとこかて力でいくで」等と発言したことが認められる。


ウ 上記ア,イに認定した事実からすれば,B及び被告Y2社代表者の言辞はいささか穏当を欠いていた。しかし,原告が本件家屋の明渡しに応じない意向であった以上,被告Y2社としては交渉の方法の一つとして強硬姿勢を示さざるを得なかったともいえる。そして,2月2日以降の協議においては,原告側の立場で前記C氏やD氏のような男性が立ち会っていたことも考慮すれば,B及び被告Y2社代表者の言辞が,不法行為を構成するに足るほどの違法性を帯びるとはいえない。

(2) 隣接家屋の取壊し作業について
ア 原告の供述(甲19,原告本人)及び写真(甲14,17)によれば,解体業者が行った隣接家屋の取壊し作業は,以下のような内容のものであったと認められる。そして,解体業者は被告Y2社の依頼を受けて作業を行っており,Bが実際の作業に立ち会っていたことからすれば,このような作業内容も被告Y2社の指示によると認められる。

① 本件家屋と隣接家屋は壁を接しているにもかかわらず,本件家屋の養生は全くなされていない。
② 具体的な作業内容は,2階屋根の中央に穴を開ける,窓枠や建具を破壊して通路に散乱させる,1階の軒の屋根瓦を通路に落とす,壁を引き剥がす,等であった。

 被告らは,取壊し作業は通常の解体の手順に従って丁寧に行っており,上記写真は作業直後の状況とは異なると主張し,Bもその旨供述する。しかし,原告側が写真を撮影するに当たってわざわざ建具等を破壊して散乱させるとは通常考えられないし,上記①②のような方法が解体作業の通常の手順であると認めるに足る証拠はない。

次いで,隣接家屋の取壊し作業を被告Y2社が行ったことの目的について検討する。
 作業に先立つ3月24日の協議では,被告Y2社代表者及びBは 「そん,だけどうしても抵抗しはんねやったら,うちはうちのやり方でするさかい」 「それは力で出さなしゃあないやん」等と発言している(甲13-1) 。また,本件家屋を原告から明け渡してもらわない限り跡地の利用はできないこと,及び,本件家屋の明渡しを受けた後に2軒一緒に取り壊す方が作業も簡便で費用は相対的に少なくて済むはずであること,に照らすと,隣接家屋だけを先に取り壊すのは経済的にみて不合理である。これらの事情に,上記アのとおりの作業内容をあわせ考えれば,被告Y2社による隣接家屋の取壊し作業は,原告に対して心理的圧力をかける目的で行われたと推認することができる。

 この点につき,Bは,隣接家屋が老朽化していて危ないから取り壊してほしい,という被告Y1の意向に沿って取壊し作業を行ったと供述する。しかし,隣接家屋が建てられたのは本件家屋と同時であり,本件家屋は現に原告の居住に耐えているのであるから,隣接家屋が,すぐに取り壊さなければ危険なほどに老朽化していたとは考えられない。

ウ 上記ア,イに認定した事実からすれば,隣接家屋の取壊しは,社会的相当性を欠く方法及び目的によって行われたものであり,不法行為を構成するに足る違法性を帯びる。


被告Y1の不法行為責任
上記1(2)のとおり,隣接家屋の取壊し作業は,被告Y2社の不法行為を構成する。そして,取壊し作業の目的が上記1(2)イのとおりであった点については,被告Y1がこれを認識していたとまでは認められないが,本件家屋の明渡しを受けていないにもかかわらず隣接家屋だけを取り壊すのは経済的に不合
理であること等からすれば,被告Y2社の目的を認識しないで取壊し作業に承認を与えたことについて,被告Y1には少なくとも過失がある。
 したがって,被告Y1も隣接家屋の取壊し作業について不法行為責任を負う。


損害額

 上記(2)アのとおりの取壊し作業の内容及びその他本件証拠に顕れた一切の事情を考慮すると,原告の被った精神的損害は50万円と評価される。

4 以上の次第で,原告の請求は,50万円の損害賠償を求める限度で理由がある。

 よって,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条,65条を,仮執行の宣言について民事訴訟法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。


      京都地方裁判所第2民事部

                   裁判官    上 田  卓 哉

 

 

全国借地借家人新聞より

 

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【判例】 *占有の移転を伴わない買戻特約付売買契約は譲渡担保契約

2008年04月07日 | 建物明渡(借家)・立退料

 判例紹介


 平成18年02月07日 最高裁判所 第三小法廷判決 平成17年(受)第282号 建物明渡請求事件

(要旨)
 買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である

(内容)
件名
  建物明渡請求事件
     (最高裁判所 平成17年(受)第282号 平成18年02月07日 第三小法廷判決 破棄自判)
原審  福岡高等裁判所 (平成16年(ネ)第378号)

 

主    文

 1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
 2 被上告人の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。


理    由

 上告人らの上告受理申立て理由について
 1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

 (1) 上告人株式会社Y1(以下「上告会社」という。)は,平成13年12月13日当時,第1審判決別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)及びその敷地である同目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。

 (2) 平成12年11月13日,被上告人は,上告人Y2に対し,利息を月3分とする約定で,1000万円を貸し付け(以下「別件貸付け」という。),その担保として,有限会社Aとの間で,同社の所有する土地及び建物について譲渡担保契約を締結した(以下,この契約の契約書を「別件契約書」という。)。

 (3) 上告人Y2は,別件貸付けに係る利息ないし遅延損害金として,同年12月12日,平成13年2月5日,同年3月6日,同年5月8日,同年6月8日にそれぞれ30万円を支払ったのみで,それ以降の弁済をしなかった。そこで,被上告人は,別件貸付けに係る債権について,少なくとも利息を回収するため,上告人Y2が代表取締役を務める上告会社との間で,上告会社所有の本件土地建物について買戻特約付売買契約を締結することを考えた。

 (4) 平成13年12月13日,被上告人と上告会社とは,いったん,本件土地の売買代金を700万円,本件建物の売買代金を100万円,買戻期間を平成14年2月28日までとする買戻特約付売買契約を締結することに合意して契約書(以下「変更前契約書」という。)を作成し,司法書士に対し,登記手続を依頼した。

 (5) しかし,被上告人代表者は,司法書士が退去した後,売買代金は,合計800万円ではなく,合計750万円でなければ契約を締結することができないと言い出し,上告人Y2も,750万円の方が買戻しをしやすいとしてこれに応じたことから,被上告人と上告会社は,本件土地の売買代金を650万円,本件建物の売買代金を100万円とし,上告会社は平成14年3月12日までに上記売買代金相当額及び契約の費用を提供して本件土地建物を買い戻すことができる旨の内容の買戻特約付売買契約(以下「本件契約」という。)を締結し,変更前契約書の内容を改めた契約書(以下「本件契約書」という。)を作成した。

 (6) 被上告人は,本件契約日に,上告会社に対し,売買代金750万円のうち400万円を支払うこととしたが,上告会社の了承の下,400万円から,買戻権付与の対価として67万5000円,別件貸付けの利息9か月分として270万円,登記手続費用等の支払に充てるべく司法書士に預託した41万円,以上合計378万5000円を控除し,21万5000円を上告会社に交付した。

 別件貸付けの利息として支払われた270万円の領収証には,そのただし書欄に「利息」と明記されているのに対し,買戻権付与の対価として支払われた67万5000円の領収証にはその記載がない。

 (7) 本件契約日の翌日,被上告人は,司法書士が本件土地建物について変更前契約書の内容で登記手続を完了したことを確認し,上告会社に対し,売買代金の残金350万円を支払った。

 (8) 上告会社は,平成14年3月12日までに本件契約に基づく買戻しをしなかった。

 (9) 本件契約には,買戻期間内に本件土地建物を上告会社から被上告人に引き渡す旨の約定はなく,本件建物は本件契約日以降も上告人らが共同して占有している。

 (10) 本件訴訟は,被上告人が上告人らに対し,本件契約は民法の買戻しの規定が適用される買戻特約付売買契約(以下「真正な買戻特約付売買契約」という。)であり,被上告人は本件契約によって本件建物の所有権を取得したと主張して,所有権に基づき本件建物の明渡しを求めるものであり,上告人らは,本件契約は譲渡担保契約であるから被上告人は本件建物の所有権を取得していないと主張して,これを争っている。


 2 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,被上告人の請求をいずれも認容すべきものとした。

 (1) 別件契約書には,「買戻約款付譲渡担保契約書」という標題が付されているが,変更前契約書にも,本件契約書にも, 「買戻約款付土地建物売買契約書」 という標題が付されている。

 (2) 上告人らは,被上告人が控除した67万5000円は本件契約による貸付けに係る3か月分の利息であると主張するが,別件貸付けの利息として支払われた270万円の領収証にはそのただし書欄に「利息」と明記されているのに対し,買戻権付与の対価として支払われた67万5000円の領収証にはその記載がないので,これを認めることはできない。

 (3) 上告人らは,上告会社は被上告人から371万5000円しか受け取っておらず,このような少額の代金で上告会社が時価1800万円を下らない本件土地建物を売却するはずはないと主張するが,上告会社が371万5000円しか受け取ることができなかったのは,買戻権付与の対価,別件貸付けに係る利息,登記手続費用の合計378万5000円が控除されたからにほかならず,本件土地建物は飽くまで750万円と評価されているし,本件土地建物の時価が1800万円を下らないと認めるに足りる証拠もない。

 (4) したがって,本件契約は,譲渡担保契約ではなく,真正な買戻特約付売買契約と認められる。


 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 真正な買戻特約付売買契約においては,売主は,買戻しの期間内に買主が支払った代金及び契約の費用を返還することができなければ,目的不動産を取り戻すことができなくなり,目的不動産の価額(目的不動産を適正に評価した金額)が買主が支払った代金及び契約の費用を上回る場合も,買主は,譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務(最高裁昭和42年(オ)第1279号同46年3月25日第一小法廷判決・民集25巻2号208頁参照)を負わない(民法579条前段,580条,583条1項)。このような効果は,当該契約が債権担保の目的を有する場合には認めることができず,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は,譲渡担保契約と解するのが相当である。

 そして,真正な買戻特約付売買契約であれば,売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり,民法も,これを前提に,売主が売買契約を解除した場合,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなしている(579条後段)。そうすると,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である。

 (2) 前記事実関係によれば,本件契約は,目的不動産である本件建物の占有の移転を伴わないものであることが明らかであり,しかも,債権担保の目的を有することの推認を覆すような特段の事情の存在がうかがわれないだけでなく,かえって,① 被上告人が本件契約を締結した主たる動機は,別件貸付けの利息を回収することにあり,実際にも,別件貸付けの元金1000万円に対する月3分の利息9か月分に相当する270万円を代金から控除していること,② 真正な買戻特約付売買契約においては,買戻しの代金は,買主の支払った代金及び契約の費用を超えることが許されないが(民法579条前段),被上告人は,買戻権付与の対価として,67万5000円(代金額750万円に対する買戻期間3か月分の月3分の利息金額と一致する。)を代金から控除しており,上告会社はこの金額も支払わなければ買戻しができないことになることなど,本件契約が債権担保の目的を有することをうかがわせる事情が存在することが明らかである。

 したがって,本件契約は,真正な買戻特約付売買契約ではなく,譲渡担保契約と解すべきであるから,真正な買戻特約付売買契約を本件建物の所有権取得原因とする被上告人の上告人らに対する請求はいずれも理由がない。


 4 以上によれば,本件契約を真正な買戻特約付売買契約と解し,被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は,上記の趣旨をいうものとして理由がある。したがって,原判決を破棄し,被上告人の請求を認容した第1審判決を取り消した上,被上告人の請求をいずれも棄却することとする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


 (裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)

 


 

 

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【判例紹介】 *所在地番及び床面積が実際と異なる建物が登記されている建物に当たるとされた事例

2008年04月04日 | 登記

 判例紹介


 平成18年01月19日 最高裁判所 第一小法廷判決 平成17年(オ)第48号、平成17年(受)第57号 建物収去土地明渡等請求事件


(要旨)
 登記に表示された所在地番及び床面積が実際と異なる建物が借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に当たるとされた事例


(内容)
件名   建物収去土地明渡等請求事件
      (最高裁判所 平成17年(オ)第48号、平成17年(受)第57号 平成18年01月19日 第一小法廷判決 破棄差戻し)
原審   高松高等裁判所 (平成16年(ネ)第267号)

 

主    文

 原判決のうち上告人に関する部分を破棄する。
 上記部分につき本件を高松高等裁判所に差し戻す。


理    由

 第1 事案の概要
 1 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 第1審判決別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)のうちの東側部分(同目録3記載の土地,以下「東側土地部分」という。)には,住宅営団が昭和22年ころに新築した建物(以下「本件建物」という。)が存在したところ,昭和24年,本件建物につき床面積を8坪(後に26.44㎡と書替え)とする表示の登記及び住宅営団を所有者とする所有権保存登記がされた。

 (2) 住宅営団は,本件建物をAに売却し,昭和24年,Aはその旨の所有権移転登記を了した。Aは,その後本件建物を約13.32㎡分増築した上,昭和34年4月,これを上告人の夫の母であるBに売却し,Bは本件建物につきその旨の所有権移転登記を了した。

 (3) Bは,昭和43年ころ本件建物を約16.18㎡分増築するとともに,昭和44年ころ,本件建物に隣接して床面積約4.06㎡の物置を新築したが,登記上の床面積の表示の変更及び附属建物の新築の登記はされなかった(以下,本件建物と上記物置とを併せて「本件建物等」という。)。

 (4) Bは,平成2年6月に死亡し,その孫であり上告人の子であるC及びD(以下,両名を併せて「Cら」という。)が代襲相続によって本件建物等の所有権を取得した。Cらは,平成15年ころ,本件建物を8.45㎡分増築したが,登記上の床面積の表示の変更はされなかった。

 (5) 被上告人は,平成15年10月28日,競売により本件土地の所有権を取得し,同月29日,その旨の所有権移転登記を了した。

 (6) 本件建物の敷地の所在及び地番は,昭和39年の所在及び地番の変更並びに昭和61年の分筆を経て,「a市b町1丁目24番1」(本件土地)となっていたが,本件建物の登記においては,その後も建物の所在地番が「a市b町1丁目65番地」と誤って表示されており,本来の所在地番とは相違していた上に,床面積の表示も26.44㎡のままであった(以下,この登記を「本件登記」という。)。そのため,上記競売手続における執行官の現況調査報告書には,本件建物等は未登記である旨記載されており,物件明細書には,東側土地部分に係る賃借権は対抗力を有しない旨が記載されていた。

 (7) 本件建物については,平成16年5月,平成2年6月相続を原因とするCらに対する所有権移転登記がされた。また,平成16年6月,Cらの申請により,本件登記につき,所在地番を「a市b町1丁目24番地1」,主たる建物の床面積を64.39㎡とする表示変更及び表示更正登記がされるとともに,附属建物について床面積を4.06㎡とする新築の登記がされた。


 2 本件は,被上告人が,本件建物に居住して東側土地部分を占有する上告人に対し,本件土地の所有権に基づき,本件建物等を収去して東側土地部分を明け渡すことを求める事案である。これに対し,上告人は,(1) 本件建物等の所有者は上告人ではなく,Cらである,(2) Bは,東側土地部分につき建物所有を目的とする賃借権を有しており,同人が本件登記のされている本件建物を所有することによって上記賃借権は対抗力を有していたところ,Cらが相続によって本件建物及び上記賃借権を取得した,と主張してこれを争っている。


 第2 上告代理人西嶋吉光,同山口直樹の上告理由について
 上告人に対し本件建物等の収去を命じるためには,その所有者が上告人であることを要するところ,原審は,前記事実関係のとおり,Cらが相続により本件建物等の所有権を取得した事実を認定しながら,他方で,上告人が東側土地部分に本件建物等を所有している旨の第1審判決の説示を引用の上,上告人に対し本件建物等の収去を求める被上告人の請求を認容すべきものとしている。そうすると,本件建物等の所有者に関する原判決の理由の記載は矛盾しており,原判決には,上告人に対し本件建物等の収去を命じる部分につき理由に食違いがあるというべきである。論旨は理由がある。


 第3 上告代理人西嶋吉光,同山口直樹の上告受理申立て理由について
 1 原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断し,本件登記は東側土地部分の借地権の対抗要件としての効力を有しないとして,被上告人の上告人に対する請求を認容すべきものとした。

 (1) 賃借権の設定された土地の上の建物についてされた登記が,錯誤又は遺漏により,建物の所在地番の表示において実際と相違していても,建物の種類,構造,床面積等の記載とあいまち,その登記の表示全体において,当該建物の同一性を認識できる程度の軽微な相違である場合には,当該建物は,建物保護に関する法律1条にいう登記した建物に当たると解すべきである。

 (2) 本件建物等の本来の所在地番は「a市b町1丁目24番地1」であるのに対し,本件登記上の所在地番は「a市b町1丁目65番地」であって,その間に大きな相違がある上に,本件登記上に表示された建物の床面積も昭和22年に新築された当時の26.44㎡のままであり,本件建物等のうちの大部分は本件登記に反映されていない。また,執行官の現況調査報告書にも本件建物等は未登記である旨記載されており,このような場合にまで賃借人を保護するときには,その土地を買い受けようとする第三者を不当に害することになりかねない。したがって,上記の所在地番や床面積の相違は,建物の同一性を認識するのに支障がない程度に軽微であるとは認められず,本件建物等を建物保護に関する法律1条にいう登記した建物ということはできない。そして,被上告人が本件土地を取得した後に本件登記につき現況と合致するように更正登記等がされたとしても,かかる登記の効力は遡及しないと解すべきであるから,上記結論に影響しない。


 2 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 記録によれば,①Bが本件建物を取得した昭和34年当時の同建物の敷地の所在及び地番はa市c町1丁目65番であり,同人が本件建物につき所有権移転登記を了した時点では,本件建物の登記上の所在地番は「a市c町1丁目65番地」と正しく表示されていたこと,②本件建物の敷地の所在及び地番は,昭和39年にa市b町1丁目24番に変更になり,土地登記簿については職権でその旨の変更登記がされたこと,③上記敷地の所在及び地番の変更に伴い,昭和39年に職権で本件建物の登記の所在欄のうち地番以外の部分が「a市c町1丁目」から「a市b町1丁目」に変更されたが,地番は65番地のまま変更されなかったこと,④昭和61年にa市b町1丁目24番の土地から本件土地が分筆されたが,本件建物の登記における所在地番の表示は変更されなかったこと,⑤本件土地の競売による売却によって消滅した担保権のうち最も古いものの設定登記は昭和62年にされていること,以上の事実がうかがわれる。

 以上によれば,本件建物の登記における所在地番の表示は,Bが本件建物を取得した昭和34年当時は正しく登記されていたが,その後登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤ったため,競売の基礎となった担保権の設定時までに実際の地番と異なるものとなった可能性が高いというべきである。

 (2) ところで,建物保護に関する法律1条は,借地権者が借地上に登記した建物を有するときに当該借地権の対抗力を認めていたが,借地借家法(平成3年法律第90号)10条1項に建物保護に関する法律1条と同内容の規定が設けられ,同法は借地借家法附則2条により廃止された。そして,同附則4条本文によれば,本件にも同法10条1項が適用されるところ,同項は,建物の所有を目的とする土地の借地権者が,その土地の上に登記した建物を有するときは,当該借地権の登記がなくともその借地権を第三者に対抗することができるものとすることによって,借地権者を保護しようとする規定である。この趣旨に照らせば,借地上の建物について,当初は所在地番が正しく登記されていたにもかかわらず,登記官が職権で表示の変更の登記をするに際し地番の表示を誤った結果,所在地番の表示が実際の地番と相違することとなった場合には,そのことゆえに借地人を不利益に取り扱うことは相当ではないというべきである。また,当初から誤った所在地番で登記がされた場合とは異なり,登記官が職権で所在地番を変更するに際し誤った表示をしたにすぎない場合には,上記変更の前後における建物の同一性は登記簿上明らかであって,上記の誤りは更正登記によって容易に是正し得るものと考えられる。そうすると,このような建物登記については,建物の構造,床面積等他の記載とあいまって建物の同一性を認めることが困難であるような事情がない限り,更正がされる前であっても借地借家法10条1項の対抗力を否定すべき理由はないと考えられる。

 (3) これを本件についてみると,前記のとおり,①Bが本件建物を取得した当時の本件建物登記の所在地番は正しく表示されていたこと,②本件登記における所在地番の相違は,その後の職権による表示の変更の登記に際し登記官の過誤により生じた可能性が高いことがうかがわれるのであり,また,本件登記における建物の床面積の表示は,新築当時の26.44㎡のままであって,実際と相違していたが,前記事実関係に照らせば,この相違は本件登記に表示された建物と本件建物等との間の同一性を否定するようなものではないというべきである。そして,現に,本件登記については,その表示を現況に合致させるための表示変更及び表示更正登記がされたというのである。

 そうすると,Bが,本件土地の競売の基礎となった担保権の設定時である昭和62年までに東側土地部分につき借地権を取得していたとすれば,本件建物等は,借地借家法10条1項にいう「登記されている建物」に該当する余地が十分にあるというべきである。

 (4) 以上の点に照らせば,本件登記における建物の所在地番の表示が実際と相違するに至った経緯等について十分に審理することなく,本件登記における建物の表示が実際と大きく異なるとして直ちに上告人の主張する借地権の対抗力を否定した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は理由がある。


 第4 結論
 以上によれば,原判決のうち上告人に関する部分は破棄を免れない。そして,本件については,本件建物等の所有者,本件登記の所在地番の表示が実際と相違するに至った経緯,東側土地部分についての借地権の有無等について更に審理を尽くさせる必要があるから,上記部分を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官泉治の補足意見がある。
 裁判官泉治の補足意見は,次のとおりである。

 原判決は,「当裁判所の判断」として,「次のとおり補正するほかは,原判決の『事実及び理由』中,『当裁判所の判断』記載のとおりであるから,これを引用する。」と記載し,第1審判決書の理由のうち「上告人が東側土地部分上に本件建物等を所有して東側土地部分を占有している」との部分を引用箇所として残したまま,独自に「上告人らの子であるCらが代襲相続によって本件建物等の所有権を取得した」との判断を付加し,相矛盾する事実の認定をすることになった。

 原判決は,控訴審の判決書における事実及び理由の記載は第1審の判決書を引用してすることができるとの民訴規則184条の規定に基づき,第1審判決書の「当事者の主張」の記載を引用すると表示しつつ,これに追加の主張を1箇所付加し,また,第1審判決書の「当裁判所の判断」の記載を引用すると表示しつつ,そのうちの3箇所の部分を原審独自の判断と差し替えている。

 民訴規則184条の規定に基づく第1審判決書の引用は,第1審判決書の記載そのままを引用することを要するものではなく,これに付加し又は訂正し,あるいは削除して引用することも妨げるものではない(最高裁昭和36年(オ)第1351号同37年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事59号89頁参照)。しかしながら,原判決の上記のような継ぎはぎ的引用には,往々にして,矛盾した認定,論理的構成の中の一部要件の欠落,時系列的流れの中の一部期間の空白などを招くおそれが伴う。原判決は,そのおそれが顕在化した1事例である。この点において,継ぎはぎ的な引用はできるだけ避けるのが賢明である。

 また,第1審判決書の記載を大きなまとまりをもって引用する場合はともかく,継ぎはぎ的に引用する場合は,控訴審判決書だけを読んでもその趣旨を理解することができず,訴訟関係者に対し,控訴審判決書に第1審判決書の記載の引用部分を書き込んだ上で読むことを強いるものである。継ぎはぎ的引用の判決書は,国民にわかりやすい裁判の実現という観点からして,決して望ましいものではない。

 さらに,民訴規則184条は,第1審判決書の引用を認めて,迅速な判決の言渡しができるようにするための規定であるが,当該事件が上告された場合には,上告審の訴訟関係者や裁判官等は,控訴審判決書に第1審判決書の記載の引用部分を書き込むという機械的作業のために少なからざる時間を奪われることになり,全体的に見れば,第1審判決書の引用は,決して裁判の迅速化に資するものではない。

 判決書の作成にコンピュータの利用が導入された現在では,第1審判決書の引用部分をコンピュータで取り込んで,完結した形の控訴審の判決書を作成することが極めて容易になった。現に,「以下,原判決『事実及び理由』中の『事案の概要』及び『当裁判所の判断』の部分を引用した上で,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所をゴシック体太字で記載し,それ以外の字句の訂正,部分的削除については,特に指摘しない。」,あるいは「以下,控訴人を『原告』,被控訴人を『被告』という。なお,原判決と異なる部分(ただし,細かな表現についての訂正等を除く。)については,ゴシック体で表記する。」等の断り書きを付して,控訴審判決書の中に引用部分をとけ込ませ,自己完結的な控訴審判決書を作成している裁判体もある。このような自己完結型の控訴審判決書が,国民にわかりやすい裁判の実現,裁判の迅速化という観点において,継ぎはぎ的な引用判決よりもはるかに優れていることは,多言を要しないところである。本件の原審がこのような自己完結型の判決書を作成しておれば,前記のような誤りを容易に防ぐことができたものと考えられる。


 (裁判長裁判官 泉 治 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴)

 


 

 

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更新料の話し合い中に地主が明渡し訴訟 (東京・豊島区)

2008年04月03日 | 更新料(借地)

 豊島区西池袋に住むAさんは、養子縁組で実の父の親からこの土地の借地権を相続した。更新に時期になり、地主の代理人の弁護士から更新料の請求がなされた。

 その弁護士と話合いをしている最中に洗濯干し場の老朽化を理由に明渡し請求の裁判をおこされた。当初、知合いの弁護士に依頼していたが、更新料や明渡し問題で妥協するよう求められ納得できずに組合に相談した。組合は顧問の弁護士を紹介するとともに正当事由のない明渡しと合意のない更新料の支払いには応じる必要がないので頑張るように話した。

 

東京借地借家人新聞より

 

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【判例】 *賃料自動改定特約のある建物賃貸借契約の賃借人から賃料減額請求

2008年04月02日 | 家賃の減額(増額)

 判例紹介


事件番号        平成18(受)192
事件名      賃料減額確認請求本訴,同反訴事件
裁判年月日   平成20年02月29日
法廷名      最高裁判所第二小法廷
裁判種別     判決
結果         破棄差戻し

原審裁判所名       大阪高等裁判所  
原審事件番号       平成16(ネ)3454
原審裁判年月日    平成17年10月25日

(判示事項)
 裁判要旨賃料自動改定特約のある建物賃貸借契約の賃借人から賃料減額請求がされた場合において,当事者が現実に合意した直近の賃料を基にすることなく,上記特約によって増額された賃料を基にして,増額された日から当該請求の日までの間に限定して経済事情の変動等を考慮した原審の判断に違法があるとされた事例


主    文

     原判決中,上告人の本訴請求に関する部分を破棄する。
     前項の部分につき,本件を大阪高等裁判所に差し戻す。


理    由

 上告代理人四宮章夫,同松丸知津の上告受理申立て理由について
 1 本件本訴請求は,被上告人の所有に係る建物を賃借した上告人が,賃貸人である被上告人に対し,賃料減額請求により減額された賃料の額の確認を求めるものである。本件反訴請求について,その一部を却下し,その余を棄却した原判決に対する不服申立てはない。

 2 原審の確定した事実関係の概要は次のとおりである。
 (1) 上告人,被上告人,A,B及びCは,平成3年12月24日,被上告人の所有地に,上告人が指定した仕様に基づく施設及び駐車場を建設し,レジャー,スポーツ及びリゾートを中心とした15年間の継続事業を展開することを内容とする協定を結んだ。

 (2) 上告人と被上告人は,平成4年12月1日,前記(1)の協定を実施するため,被上告人が上告人に対し第1審判決別紙物件目録記載1~3の各建物(ただし,被上告人がその所有地に工事代金4億5880万円で建築したもの。以下,これらを「本件建物」と総称し,各建物を同目録の番号により「建物1」などという。)を賃貸する旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,被上告人は,そのころ,上告人に対し本件建物を引き渡した。本件賃貸借契約の内容は次のとおりであり,一定期間経過後は純賃料額を一定の金額に自動的に増額する旨の賃料自動増額特約(イ(ア)記載のもの。以下「本件自動増額特約」という。)が含まれている。

 ア 期間  平成4年12月1日から15年間
 イ 賃料  次の(ア)の約定純賃料及び(イ)の償却賃料の合計額を月額賃料とする。

 (ア) 約定純賃料(月額)
a  平成  4年12月1日~ 平成  7年11月30日            360万円
b  平成  7年12月1日~ 平成  9年11月30日            369万円
c  平成  9年12月1日~ 平成14年11月30日   441万4500円
d  平成14年12月1日~ 平成19年11月30日   451万9500円

 (イ) 償却賃料
a  建物2及び3に係る各該当年度の不動産取得税,固定資産税及び都市計画税の合計額の12分の1の相当額
b 上告人が被上告人に対し無利息で預託する後記ウの建設協力金相当額

  ウ上告人は,被上告人に対し,本件建物の建設協力金として,建物1につき7500万円,建物2及び3につき3億2760万円を預託する。
 被上告人は,上告人に対し,建物1の建設協力金7500万円につき,3年間据え置いた後,20%相当額を控除した金額を平成7年12月から144回に分割して返還し,建物2及び3の建設協力金3億2760万円については,6か月間据え置いた後,平成5年6月から174回に分割して返還する。

 エ 賃料の改定
消費者物価指数の変動及び経済情勢の変動が予期せざる程度に及び,本件建物の
約定純賃料が著しく不相当となった場合は,上告人及び被上告人で協議の上,これを改定することができる。

(3) 本件賃貸借契約後,本件建物の所在する大阪府下の不動産市況は下降をたどり,不動産の価格も下落し続けている。

(4) ア 上告人は,平成9年6月27日ころ,被上告人に対し,同年7月1日をもって本件建物の約定純賃料を減額する旨の意思表示をした(以下「第1減額請求」という。)。
   イ上告人は,平成13年11月26日,被上告人に対し,同年12月1日をもって本件建物の約定純賃料を減額する旨の意思表示をした(以下「第2減額請求」といい,第1減額請求を併せて「本件各減額請求」という。)。

3 原審は,次のとおり判示して,上告人の請求を棄却すべきものとした。
事情の変更があるときに,当事者の一方の請求により約定賃料額の増減を認めることとする借地借家法32条の法意からすれば,ここにいう事情の変更とは,増減を求められた額の賃料の授受が開始された時から請求の時までに発生したものに限定すべきことは,事の性質上,当然である。

  また,本件においては,経済事情の変動等のほか,本件自動増額特約が,15年間にわたる将来の経済変動をある程度予測した上で定められたものであり,上告人と被上告人との共同事業の中核として当事者に対する拘束性の強いものと評価されるという特別の事情を,本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額の算定においてしんしゃくすべきである。

 平成9年6月27日ころにされた第1減額請求については,請求時の賃料額である月額369万円の約定純賃料の授受が開始された平成7年12月1日から第1減額請求の日ころまでに発生した経済事情の変動等を考慮すべきであるが,この期間における経済事情の変動等のほか,前記特別の事情にもかんがみると,第1減額請求の時の約定純賃料額369万円が不相当になったということはできない。

 また,平成13年11月26日にされた第2減額請求については,請求時の賃料額である月額441万4500円の約定純賃料の授受が開始された平成9年12月1日から第2減額請求の日までに発生した経済事情の変動等を考慮すべきところ,この期間における経済事情の変動等のほか,前記特別の事情にもかんがみると,第2減額請求の時の約定純賃料額441万4500円が不相当になったということはできない。

 4 論旨は,原審は借地借家法32条1項の規定の解釈を誤ったというものであるので,この点について判断する。
 借地借家法32条1項の規定は,強行法規であり,賃料自動改定特約によってその適用を排除することはできないものである(最高裁昭和28年(オ)第861号同31年5月15日第三小法廷判決・民集10巻5号496頁,最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日第二小法廷判決・民集35巻3号656頁,最高裁平成14年(受)第689号同15年6月12日第一小法廷判決・民集57巻6号595頁参照)。そして,同項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(以下,この賃料を「直近合意賃料」という。)を基にして,同賃料が合意された日以降の同項所定の経済事情の変動等のほか,諸般の事情を総合的に考慮すべきであり,賃料自動改定特約が存在したとしても,上記判断に当たっては,同特約に拘束されることはなく,上記諸般の事情の一つとして,同特約の存在や,同特約が定められるに至った経緯等が考慮の対象となるにすぎないというべきである。

 したがって,本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額は,本件各減額請求の直近合意賃料である本件賃貸借契約締結時の純賃料を基にして,同純賃料が合意された日から本件各減額請求の日までの間の経済事情の変動等を考慮して判断されなければならず,その際,本件自動増額特約の存在及びこれが定められるに至った経緯等も重要な考慮事情になるとしても,本件自動増額特約によって増額された純賃料を基にして,増額前の経済事情の変動等を考慮の対象から除外し,増額された日から減額請求の日までの間に限定して,その間の経済事情の変動等を考慮して判断することは許されないものといわなければならない。本件自動増額特約によって増額された純賃料は,本件賃貸契約締結時における将来の経済事情等の予測に基づくものであり,自動増額時の経済事情等の下での相当な純賃料として当事者が現実に合意したものではないから,本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額を判断する際の基準となる直近合意賃料と認めることはできない。

 しかるに,原審は,第1減額請求については,本件自動増額特約によって平成7年12月1日に増額された純賃料を基にして,同日以降の経済事情の変動等を考慮してその当否を判断し,第2減額請求については,本件自動増額特約によって平成9年12月1日に増額された純賃料を基にして,同日以降の経済事情の変動等を考慮してその当否を判断したものであるから,原審の判断には,法令の解釈を誤った違法があり,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

 5 以上によれば,上記と同旨をいう論旨は理由があり,原判決中,上告人の本
訴請求に関する部分は破棄を免れない。そこで,本件各減額請求の当否等について
更に審理を尽くさせるため,上記の部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

    (裁判長裁判官 中川了滋  裁判官 津野修  裁判官 今井功  裁判官 古田佑紀)

 


 

 

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【判例】 *弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効の起算点

2008年04月01日 | 弁済供託

 判例紹介


平成13年11月27日 最高裁判所第三小法廷判決 平成10(行ツ)22 供託金取戻却下決定取消請求事件(第55巻6号1334頁)

(判示事項)
 1 弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効の起算点
 2 債権者不確知を原因とする弁済供託に係る供託金取戻請求の却下処分が違法とされた事例

(要旨)
 1 弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効は,過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする弁済供託の場合を含め,供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時から進行する。

 2 過失なくして債権者を確知することができないことを原因として賃料債務についてされた弁済供託につき,同債務の各弁済期の翌日から民法169条所定の5年の時効期間が経過した時から更に10年が経過する前にされた供託金取戻請求に対し,同取戻請求権の消滅時効が完成したとしてこれを却下した処分は,違法である。

(参照法条)
供託法8条2項,民法166条1項,民法167条1項,民法169条,民法496条1項

(内容)
件名  供託金取戻却下決定取消請求事件
      (最高裁判所 平成10(行ツ)22 第三小法廷・判決 棄却)
原審  平成9年8月25日 東京高等裁判所 (平成9(行コ)33)

 


主    文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。


理    由

 上告代理人細川清,同富田善範,同野伸,同久留島群一,同小笠原正喜,同大竹たかし,同浜秀樹,同小濱浩庸,同高田秀子,同福本修也,同冨永環,同森和雄,同伊藤泰久の上告理由について

 本件は,被上告人が,賃借していた建物の賃貸人が死亡した後にその相続人であるなどと主張する複数の者から賃料の支払請求を受けたため,過失なくして債権者を確知することができないことを原因として供託をした後,その取戻しを請求したところ,供託金取戻請求権は各供託の時から10年の時効期間の経過により消滅したとしてこれを却下されたため,その取消しを求めている事案である。

 弁済供託は,債務者の便宜を図り,これを保護するため,弁済の目的物を供託所に寄託することによりその債務を免れることができるようにする制度であるところ,供託者が供託物取戻請求権を行使した場合には,供託をしなかったものとみなされるのであるから,供託の基礎となった債務につき免責の効果を受ける必要がある間は,供託者に供託物取戻請求権の行使を期待することはできず,供託物取戻請求権の消滅時効が供託の時から進行すると解することは,上記供託制度の趣旨に反する結果となる。そうすると,【要旨1】弁済供託における供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点は,過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする弁済供託の場合を含め,供託の基礎となった債務について消滅時効が完成するなど,供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時と解するのが相当である(最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁参照)。

 【要旨2】本件においては,各供託金取戻請求権の消滅時効の起算点は,その基礎となった賃料債務の各弁済期の翌日から民法169条所定の5年の時効期間が経過した時と解すべきであるから,これと同旨の見解に基づき,その時から10年が経過する前にされた供託に係る供託金取戻請求を却下した処分が違法であるとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


 (裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田昌道 裁判官 濱田邦夫)

 


 

 

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