東京・台東借地借家人組合1

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【判例】 敷引特約は消費者契約法10条により無効(京都地方裁判所 H19.4.20判決)

2008年04月25日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

 判例紹介


事件番号    平成18年(レ)第79号
事件名      敷金返還請求控訴事件裁判
年月日        平成19年4月20日
裁判所名    京都地方裁判所
部          第2民事部
結果        原判決取消し,請求認容

(判示事項の要旨)
   控訴人が,被控訴人との間で締結した賃貸借契約には,賃貸借契約終了時に敷金の一部を返還しない旨のいわゆる敷引特約が付されており,被控訴人から敷金35万円のうち5万円しか返還されなかったことから,上記敷引特約が消費者契約法10条により全部無効であるとして,被控訴人に対し,敷金残金30万円などの返還を求めたところ,上記敷引特約は消費者契約法10条により無効であると判断された事例


 
主     文

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,30万円及びこれに対する平成16年10年2日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
4 この判決は,2項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 主文1ないし3項同旨
(2) 仮執行宣言

2 控訴の趣旨に対する答弁
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人の負担とする。


第2 事案の概要等
事案の概要
 本件は,控訴人が,被控訴人との間で締結した賃貸借契約に基づいて,被控訴人に敷金35万円を交付したが,同賃貸借契約には,賃貸借契約終了時に敷金の一部を返還しない旨のいわゆる敷引特約が付されており,被控訴人から敷金35万円のうち5万円しか返還されなかったことから,上記敷引特約が消費者契約法10条により全部無効である0として,被控訴人に対し,不当利得に基づき,敷金残金30万円及びこれに対する約定の敷金返還期日の翌日である平成16年10年2日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,敷引特約は有効であるとして,控訴人の請求を棄却したことから,控訴人がこれを不服として,控訴した。

当事者間に争いがない事実
( 1) 控訴人は,平成13年12月25日,被控訴人との間で,下記の約定で賃貸借契約を締結し (以下 「本件賃貸借契約」 という。),同日 , 被控訴人から,賃貸借物件の引渡しを受けた。

ア 賃貸借物件       不動産A
イ  所在地         京都府相楽郡 a 町b 番地のc
ウ 賃料           月額7万3000円
エ 賃貸期間          平成13年12月26日から平成15年12月25日まで
オ 敷金                     35万円
カ 敷金の返還時期    退去後1か月以内

(2) 控訴人は,本件賃貸借契約締結の際,被控訴人との間で,敷金35万円のうち30万円については解約引き金として控訴人に返還しない旨の合意をし(以下「本件敷引特約」という。) ,被控訴人に対し,敷金35万円を交付した。

(3) 控訴人は,平成16年9月1日,被控訴人に対し,上記賃貸借物件を明け渡した。

(4) 控訴人は,被控訴人から,敷金35万円のうち5万円の返還を受けた。


第3 争点
   本件敷引特約は,消費者契約法10条により,全部無効となるか。

第4 当事者の主張
  (原告の主張)
 本件敷引特約は,次のとおり,控訴人が本来有しているはずの敷金返還請求権を特約によって制限し,義務を加重する条項であって,信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるから,消費者契約法10条によって,特約全体が無効となる。

1 賃貸借契約は使用収益と賃料支払が対価関係に立つのであるから,使用収益させることにより当然に自然損耗が発生する。よって,賃料は当然に自然損耗についての修繕費用を包含するのであるから,自然損耗についての修繕費用を賃料以外の名目で回収する敷引特約は,賃料の二重取りとなる。

2 そもそも契約条項は賃貸人が決定しているのが通常であり,賃借人はそれに従うほかなく,条項の削除を申し入れても賃貸人に拒否されれば,それ以上の交渉が不可能なことは周知の事実である。このように,一般消費者たる控訴人が賃貸借契約締結時に敷引特約を削除して契約を締結することは事実上極めて困難である。

3 京滋地区において敷引特約が出回り始めたのは,ここ数年のことであり,商慣習と呼べるほど成熟・定着しているものではない。4 本件敷引特約は,被控訴人の損害の有無及び契約期間の長短に関わらず,敷金の85%を超える金額を控除して返還するものであり,控訴人にとって不当に不利である。


 (被告の主張)
 本件敷引特約は,次のとおり,消費者契約法10条に反するものではない。

1 自然損耗についての修繕費用を賃料という名目で回収するか,敷引金という名目によって回収するかは,原則として賃貸人の自由に委ねられている事柄である。そして,賃貸人が契約締結時に自然損耗の修繕費を含めた適正な賃料を設定することは,その時点で将来にわたる賃貸借の期間が不明である以上,現実的には不可能であるから,自然損耗についての修繕費用を敷引金という名目によって回収する本件敷引特約には合理性がある。

 このように,賃貸人が自然損耗についての修繕費用を賃料名目ではなく敷引金名目で回収しようと考えて賃料を設定している場合には,目的物の通常の使用に伴う自然損耗に要する修繕費用が考慮された上で賃料が算定されているとはいえないのであるから,賃料の二重取りには当たらない。


2 賃貸人が,次の入居者を獲得するためには,入居しようとする者に,前借主の生活臭を感じさせない程度にリフォーム(自然損耗の修繕)を行う必要があり,そのリフォームの程度は,賃貸借期間の長短とは直接の関係はなく,1年程度の短期間の賃貸借であっても,相当程度のリフォームは必要である。 そして,賃貸人は,賃貸借の期間がどの程度継続するか予測し難いため,リフォーム費用を含めた適正な賃料額を設定することは困難であるから,リフォーム代を賃料とは別の名目で回収することには,一定の合理性がある。


3 建物の賃貸借は,賃貸人が建物を貸し,賃借人が賃料を支払って借りるという,単純な契約関係にすぎず,賃貸人と賃借人との間に情報の格差というものは特にはない。また,代替性のある賃貸物件は多数存在するから,消費者は敷引を望まないのであれば,敷引がなされない賃貸物件を選択すればよいのであって,交渉力の格差というものも存在しない。


4  消費者契約法10条にある「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」とは任意規定を指すところ,敷引特約は少なくとも関西地方においては事実たる慣習と認められるから,民法92条により,敷引特約は任意規定と同様に扱われるべきこととなる。そして,敷引特約は,賃借人の負担すべき原状回復費用を予定し,あるいは通常の損耗に対する修理費用を賃借人の負担とする趣旨で定められているものであり,契約締結時に,敷引特約の存在と敷引金額が明示されている限り,賃借人の信頼や期待を裏切るものではないから,直ちに信義誠実の原則に反するものであるとは到底認められない。また,敷引特約が事実たる慣習として成立すること自体,それなりの制度としての合理性が認められる


5  本件敷引特約においては,敷引額が敷金の85%を超える金額であるが,本件敷引特約は,自然損耗についての修繕費用を賃借人の負担とする趣旨であるから,敷金と敷引額の割合を問題とするのは無意味であり,敷引額が自然損耗についての修繕費用として相当な金額であるかどうかこそが問われるべきであるところ,本件建物の間取り,専有面積及び賃貸借期間からみて,自然損耗についての修繕費用を30万円と定め,これを敷金から差し引くことは特に不当とはいえない。


第5  当裁判所の判断
1  本件敷引特約が消費者契約法10条により無効となるには,①本件敷引特約が,民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重するものであること,及び②民法1条2項に規定する基本原理である信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることが必要である。


2  そこで,まず,前者の要件について検討するに,敷金は,賃料その他の賃借人の債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に対して交付される金員であり,賃貸借目的物の明渡し時に,賃借人に債務不履行がなければ全額が,債務不履行があればその損害額を控除した残額が,賃借人に返還されることが予定されている。そして,賃貸借は,一方の当事者が相手方にある物を使用・収益させることを約し,相手方がこれに対して賃料を支払うことを約することによって成立する契約であるから,目的物を使用収益させる義務と賃料支払義務が対価関係に立つものであり,賃借人に債務不履行があるような場合を除き,賃借人が賃料以外の金銭の支払を負担することは法律上予定されていない。また,本件各証拠を検討しても,関西地方において敷引特約が事実たる慣習として成立していることを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件敷引特約は,上記第2の2(2)のとおり,敷金の一部を返還しないとするものであるから,民法の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者である賃借人の権利を制限するものというべきである。

3  次いで,本件敷引特約が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるかについて検討するに,上記2説示のとおり,賃貸借契約は,賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり,賃借物件の損耗の発生は,賃貸借という契約の性質上当然に予定されているから,建物の賃貸借においては,賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生じる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する自然損耗に係る投下資本の回収は,通常,修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。したがって,自然損耗についての必要費を賃料により賃借人から回収しながら,更に敷引特約によりこれを回収することは,契約締結時に,敷引特約の存在と敷引金額が明示されていたとしても,賃借人に二重の負担を課すことになる。これに対し,被控訴人は,自然損耗についての修繕費用を賃料という名目で回収するか,敷引金という名目によって回収するかは,原則として賃貸人の自由に委ねられている事柄であり,本件においては,自然損耗についての修繕費用を敷引金という名目によって回収することにつき合理的理由があると主張するところ,確かに,自然損耗についての必要費の回収をどのような方法で行うかは,投資者たる賃貸人の自由に委ねられているから,賃貸人が,賃料には自然損耗についての必要経費を算入せず,低額に抑えた上で, 自然損耗についての必要費を敷引金という名目によって回収したとしても,信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するとはいえない。しかし,本件各証拠を検討しても,控訴人及び被控訴人が,本件賃貸借契約締結時に,自然損耗についての必要経費を賃料に算入しないで低額に抑え,敷引金にこれを含ませることを合意したことを認めるに足りる証拠はないから,被控訴人の同主張は理由がない。

  また,証拠(甲8)及び弁論の全趣旨によれば,敷引特約は,事実たる慣習とまではいえないものの,関西地区における不動産賃貸借において付加されることが相当数あり,賃借人が交渉によりこれを排除することは困難であって,消費者が敷引特約を望まないのであれば,敷引特約がなされない賃貸物件を選択すればよいとは当然にはいえない状況にあることが認められ,これに,上記第2の2(2)及び(4)のとおり,本件敷引特約は敷金の85%を超える金額を控除するもので,控訴人に大きな負担を強いるものであることを総合すると,本件敷引特約は,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであると判断するのが相当である。これに対し,被控訴人は次の入居者を獲得するためのリフォーム代を敷引金名目で回収することは,一定の合理性を持つ旨主張するが,新規入居者獲得のための費用は,新規入居者の獲得を目指す賃貸人が負担すべき性質のものであって,敷引金名目で賃借人に転嫁させることに合理性を見いだすことはできない。また,被控訴人は,建物の賃貸借は,単純な契約関係にすぎず,賃貸人と賃借人との間に情報の格差が特にはないと主張するが,一消費者である賃借人と事業者である賃貸人との間では情報力や交渉力に格差があるのが通常であって,このことは被控訴人が事業者である本件においても同様であるから,被控訴人の同主張も理由がない。


4  以上によれば,本件敷引特約は,消費者契約法10条により,特約全体が無効であると認められるから,控訴人の本件請求は理由があり,これを棄却した原判決は相当でなく,本件控訴は理由がある。そこで,原判決を取り消して,本件請求を認容することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法67条2項本文,61条を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。


 京都地方裁判所第2民事部

  裁判長裁判官    山 下     寛

      裁判官     森 里     紀 之

            裁判官  衣斐  瑞穂は,転補につき,署名押印することができない。

                                       裁判長裁判官   山 下     寛

 


 

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