東京・台東借地借家人組合1

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【判例】*幼稚園の園舎敷地の隣接地をその幼稚園の運動場として使用するためにした賃貸借が建物所有目的の土地賃貸借に当たらないとされた事例

2018年11月08日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

最高裁判例

幼稚園の園舎敷地の隣接地をその幼稚園の運動場として使用するためにした賃貸借が借地法1条の建物所有目的の土地賃貸借に当たらないとされた事例
(最高裁平成7年6月29日判決 判例時報1541号92頁)

 

       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を東京高等裁判所に差し戻す。


       理   由
 上告代理人西垣義明の上告理由第1及び第2について
1 本件訴訟は、被上告人(賃借人)が上告人(賃貸人)に対して原判決別紙物件目録記載の各土地(面積合計1695・86件土地」という。)につき賃借権を有することの確認を求め、上告人(賃貸人)が反訴請求として、本件土地の賃貸借の終了を理由にその明渡し等を求めるものであるが、原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

 ① 被上告人(賃借人)の代表者であるAは、本件土地の南側に隣接する同人の所有地(面積合計733・87㎡。以下「園舎敷地」という。)において幼稚園を経営していたところ、周辺に団地が造成されるなどして園児の増加が見込まれたため園舎を増設することとしたが、これにより右幼稚園の運動場がなくなるため、その用地として、上告人(賃貸人)の父である亡Bから本件土地を賃借した(以下、これを「本件賃貸借」という。)。本件賃貸借の契約締結の時期は、昭和41年5月ころ以降の日である。A(賃借人)は、右賃借後、自己の費用により本件土地を幼稚園の運動場として整備し、これを園舎敷地と一体的に使用してきた。

 その後、昭和48年に被上告人(賃借人)が設立されて本件土地の賃借権を承継し、昭和51年にBが死亡して上告人が賃貸人の地位を承継した。また、被上告人(賃借人)は、昭和48年3月、園舎敷地に鉄骨陸屋根2階建ての新園舎(床面積611・22㎡)を建築した。

 ② 本件賃貸借の成立に当たり、権利金等が授受された形跡はなく、B(賃貸人)とA(賃借人)との間において昭和44年3月26日に作成された土地賃貸借契約公正証書によれば、本件賃貸借の目的は運動場用敷地、期間は2年とされていた。その後、昭和49年3月29日、本件賃貸借の期間を昭和51年3月27日までとする土地賃貸借契約公正証書が作成され、さらに、昭和55年2月7日には右期間を昭和59年4月4日までとする調停が、昭和59年10月11日には右期間を平成元年3月31日までとする調停がそれぞれ成立し、これらにより本件賃貸借の更新がされた。なお、昭和55年2月7日の調停成立の際には、本件賃貸借の期間を昭和59年4月4日までと定めるものの、その時点で双方話合いの上更新することに異議がない旨の念書が被上告人(賃借人)に差し入れられた。

 ③ 被上告人(賃借人)の幼稚園の園児数は、昭和49年以後増加し、昭和52、3年ころまでは12クラス、980名であったが、その後減少し、平成2年当時は7クラスであった。文部省令等により定められている幼稚園設置の基準によれば、12クラスの場合に必要な運動場の面積は1120㎡、7クラスの場合は720㎡である。


 2 原審は、右事実関係の下において、本件賃貸借は、本件土地の上に建物を所有することを目的とするものではないが、隣接の園舎敷地における建物所有の目的を達するためにこれと不可分一体の関係にある幼稚園運動場として使用することを目的とするものであるから、借地法の趣旨に照らし、同法1条にいう「建物の所有を目的とする」ものというべきであるとし、本件賃貸借がされた当時、園舎は木造2階建ての建物であったから、その存続期間は同法2条1項により30年となるところ、原審の口頭弁論終結時までに右期間が満了していないことが明らかであるとして、被上告人(賃借人)の本訴請求を認容し、上告人(賃貸人)の反訴請求を棄却すべきものと判断した。


 3 しかし、原審の右判断は是認できない。その理由は次のとおりである。
 原審の確定した事実関係によれば、本件賃貸借の目的は運動場用敷地と定められていて、上告人(賃貸人)と被上告人(賃借人)との間には、被上告人(賃借人)は本件土地を幼稚園の運動場としてのみ使用する旨の合意が存在し、被上告人(賃借人)は現実にも、本件土地を右以外の目的に使用したことはなく、本件賃貸借は、当初その期間が1年と定められ、その後も、公正証書又は調停により、これを2年又は4年ないし5年と定めて更新されてきたというのであるから、右のような当事者間の合意等及び賃貸借の更新の経緯に照らすと、本件賃貸借は、借地法1条にいう建物の所有を目的とするものではない。なるほど、本件土地は、被上告人(賃借人)の経営する幼稚園の運動場として使用され、幼稚園経営の観点からすれば隣接の園舎敷地と不可分一体の関係にあるということができるが、原審の確定した事実関係によれば、園舎の所有それ自体のために使用されているものとはいえず、また、上告人(賃貸人)においてそのような使用を了承して賃貸していると認めるに足りる事情もうかかわれないから、本件賃貸借をもって園舎所有を目的とするものとはいえない。


   以上と異なる原審の判断には借地法1条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、上告人(賃貸人)のその余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れず、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。


 よって、民訴法407条項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


    最高裁裁判長裁判官三好 達、裁判官大堀誠一、同小野幹雄、同高橋久子、同遠藤光男

 


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