抵当権設定前に保存登記された建物を
取壊して再築した場合、借地権を土地の買受人に対抗できるか
(問) 7年前、地主の建替えの承諾を得て借地上の木造建物を取壊し、鉄骨4階建ての建物へ建替え、登記も済ませた。勿論、木造建物の時も登記はしていた。ところが建替えの3年前に地主は土地に抵当権をつけていた。その抵当権が実行され、第三者が競落した。その買受人が借地の明渡しを要求している。明渡さなければならないのか。
(答) 「借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することが出来る。」(借地借家10条1項)と規定し、建物登記がある場合に、借地権に対抗力を認めた。これにより、土地所有者が代わっても、新所有者に対して自分の借地権を主張でき、明渡しを求められることはない。
また、その登記した建物が焼失(滅失)した場合でも登記事項と再築の意思表示の掲示物を借地上の見やすい場所に掲示すれば、第三者に借地権の対抗力を維持できるとしている(借地借家10条2項)。
それでは、土地の抵当権実行による競売手続き開始後、借地人が抵当権設定登記前に保存登記をしていた借地上の建物を取壊して再築した場合、借地権を土地の買受人に対抗することができるのか。
今回の質問と殆ど同一の問題で争われた東京高裁の判決(2000(平成12)年5月11日 金融・商事判例198号27頁)がある。(同趣旨の判例、(東京高裁平成13年2月8日判決 判例タイムズ1058号272頁)
東京高裁平成12年5月11日判決の要旨は、
「民事執行法は、土地の買受人が借地権を引き受けるかどうかを、その借地権が抵当権者に対抗することができるかどうかによって決定している。すなわち、不動産競売では、対抗問題は、抵当権の設定時に生じ、買受人が不動産を競落するときに生じるのではない。・・・・不動産競売における買受人の所有権葉の取得は、抵当権者の有する換価権の実現に過ぎず、新たな物権変動ではない。そのために、競売の時点での対抗問題は生じないのであって、競売による所有権取得の場合には、借地権を買受人が引き受けるかどうかは、抵当権者に対抗できるかどうかで定まるのであり、そのことを民事執行法59条2項が確認しているのである」と判示している。
即ち、①不動産競売において対抗問題が生じるのは、抵当権設定時であって、不動産競売の買受人への売却時ではない。従って、不動産の競落時における対抗要件の存在は必要ではない。
そして、借地上建物の滅失と借地権の対抗に関しては、「抵当権設定登記が経由された時点において、土地の建物に所有権保存登記を経由していれば、借地人は借地権を抵当権者に対抗することができる。このようにして対抗力を取得した借地権は、その抵当権者との間では、その対抗力を維持するため、建物自体を維持したり、所有権保存登記を維持していなければならないわけではない。」と述べている。
即ち、②抵当権に対する借地権の対抗要件があるかどうかは、抵当権設定時に登記があったか否かだけで定まる。従って、借地権は、抵当権設定時に既に建物保存登記があれば、その後に建物が滅失しても、また対抗要件である登記抹消されても、抵当権者・買受人に対抗できる。抵当権設定後の建物の存在や登記の存在は、抵当権に対する対抗力の存否とは無関係である。借地権の対抗力の有無は、競売時ではなく、抵当権設定時点で決定される。
結論、質問者は木造建物を保存登記していたので、抵当権が設定された時点で借地権の対抗力がある。従って買受人の明渡し要求に応ずる必要はない。買受人を貸主として従前の契約内容で借地を続けることが出来る。
従来の判例では、抵当権が設定された借地での建替えは大変危険なもので、後日、抵当権が実行された場合、借地人は、建物を取壊して明渡さざるをえない恐れがあった。事実1審の横浜地裁(平成8年3月11日判決)では、借地人に建物収去、土地明渡しを命じた。
東京高裁の判決が確定したので、借地上建物の登記が抵当権設定前になされていれば、借地人は大幅な建物の増改築が安心して出来るということである。借地人にとっては刮目に値する重要な判決である。
東京・台東借地借家人組合
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