判例紹介
営業用建物の賃貸借の更新拒絶につき、立退料の提供があってもその正当事由を補充し得ないとして賃貸人からの明渡請求を棄却した事例 (東京地裁昭和61年7月22日判決、判例タイムズ641号151頁)
(事案)
Xは整形外科医であって、昭和47年から大田区内で開業していたが、医院が手狭になったため、昭和50年、訴外A社から、Yを含む10数名の賃借人のいる本件建物(4階建店舗・事務所・居宅)を買受け、賃貸人の地位を承継した。
Yとの賃貸借契約は昭和54年6月、1階160㎡、期間を昭和57年12月までと改定した。ところが、Xは期間満了6ヶ月前、外来患者が増加するため本件建物を改築し病院として使用する必要があるとして契約の更新を拒絶した上、Yに対し明渡しを求める本訴を提起し、正当事由を補強するため、600万円を支払うとした。
これに対し、Yは、昭和37年以来、本件建物で医薬品等の販売業を営んでおり、年商2億円、顧客数5000名余、従業員10名であり、地域に深く根差した活動が好評を得て、顧客数も増加している現状にあって、廃業することはできず、他に転出する建物もないから、Xの更新拒絶には正当事由がないと反論した。
(判示)
「Xの診療所の患者が年々増加するとしても、診療所の存続ないし経営に支障があるとは認められず、Yに賃貸している建物部分を診療室に使用しなければ、その存在に重大な支障が生ずるとも認められない。Xは3年前にYとの間で賃貸借契約を改定した際、将来多数の入院患者を収容しうる病院に改装することが必要となる事情も当然予想しえた筈であったにもかかわらず、あえてYとの間で現状のように賃貸借契約を改定したのであるから、2年余にして右を理由に更新を拒絶するのは相当でないこと、身体の不事由な高齢者や車椅子使用者が2階の診療室に昇り降りするのは不便だが、階段をスロープにするとか、エレベーターを設置すること右不便の解消も不可能ではない」。
「一方、Yは本件賃借店舗の他に4店舗を有するに至っているが右賃借店舗は医薬品の販売で主たる地位を占める本店であり収益率も最も高いこと、Yが20年以上も継続してきた右店舗を立退いても他に適当な店舗がなく、廃業となれば莫大な損害を受けること」などを総合考慮し正当事由をを認めず「立退料の提供をもってしても右正当事由を補完しうるものではない」とし、Xの請求を棄却した。
(寸評)
正当事由の判断に当り、安昜に金銭による補完を認めず、双方の事情を総合考慮した判決として評価し得る。
(1987.10.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
東京・台東借地借家人組合
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