東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

原状回復特約に“否”の判断 (東京・台東) 

2005年05月21日 | 敷金・保証金・原状回復に関する判例等

      大阪高裁の敷金返還裁判
          消費者契約法で原状回復特約に“否”の判断

 経年変化による自然損耗や通常損耗は家賃によってカバーされるもので、特約で家賃以外の方法で負担させることは家賃の二重払いになる。従って自然損耗や通常損耗は原状回復の対象にならないというのが従来の判例の考え方である。

 2004年の12月17日及び2005年1月28日に大阪高裁で退去時に通常・自然損耗を含めた復旧費用を一方的に賃借人に負担させる原状回復特約は消費者契約法10条に反し無効とする判決があった。両裁判は敷金の全額が返還されるという賃借人全面勝訴の判決であり、賃貸業者・不動産業者に強い衝撃を与えるものであった。

 大阪高裁の二つの判決が画期的である点は、特約の成立を認定した上で、原状回復特約を消費者契約法10条によって不当条項として特約自体の違法性を認定したことである。

 従来の判例は原状回復特約に対して特約の成立条件に制限を設け、その要件を充たさない場合は特約の有効性を否定した。

 即ち特約が認められるのは
①特約の必要性、合理的理由が存在すること
②特約によって通常の義務を超えた修繕等の義務を負うことを認識していること
③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること、
以上の要件を具備していることが必要である。

 これらの三要件を充たしていない場合は特約は無効とされる。判例は特約成立の要件の不備を理由にして特約の効力を否定して多くの賃借人の救済を図って来た。これらの判例理論は国交省や東京都の「ガイドライン」に取入れられ、特約トラブルの歯止めとして活用されている。

 しかし最近では賃貸業者も判例や「ガイドライン」等を研究し、その裏を行く契約書を用い、特約の無効を回避する対策を実行している。

 例えば契約時に原状回復の説明書を契約書に添付して説明の随処に理解確認の署名・捺印欄を設ける。加えて別紙で復元基準表を添付して原状回復費の単価表を明示して具体的な費用が算定出来るようになっている。

 「入居の期間の長短を問わず通常の使用方法による汚れ(いわゆる自然損耗)のみの場合であっても、別紙復元基準表に沿って賃借人が原状回復の義務を負担することについて承諾した」等が初めから印刷されておりそこに署名・捺印欄があり、確認を求められる。

 それらによって契約時に
 ①特約の内容の説明を受けなかった
 ②費用負担の具体的な内容説明を受けていない
 ③原状回復義務の承諾の意思表示をしていない
 という賃借人からの反論を封じている。賃貸業者はこのような対抗策を採用して原状回復特約の不成立を防ぐ努力をしている。

 二つの裁判で敗訴した不動産管理会社は特約を盾にして敷金(20万円)返還を拒んでいた。一審の京都地裁で敗訴し、大阪高裁へ控訴して争われていたのが前記の裁判である。従来の判例理論では救済が難しいと思われた事例である。

 両裁判での争点は主に
①原状回復義務に関する特約の成否と
②原状回復特約の効力が中心に争われた。

 大阪高裁2004年12月17日判決では
①に関しては特約の成立を消極的に認める判断をしている。その上で
②に関して「本件原状回復特約、即ち、自然損耗等についての原状回復義務を賃借人が負担するとの合意部分は、民法の任意規定の適用による場合に比し、賃借人の義務を加重し、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害しており、消費者契約法10条に該当し、無効である」としている。

 一方、大阪高裁2005年1月28日判決では
①に関しては確認の署名・捺印などが有ることから、「本件特約が成立したことが認められると判断する」。その上で
②に関して「当裁判所も、本件特約は消費者契約法10条の適用により無効であると判断する」。

 両判決は原状回復特約が違法な特約であると認定している。

 これら大阪高裁の判決は、これからの敷金返還裁判や敷金返還の少額訴訟等に重大な影響を与えることは間違いない。特に重要なのは、消費者契約法施行(2001年4月1日)前に締結された契約でも、施行後に契約が更新された場合は消費者契約法が適用されると認定されたことである。

 東京都は原状回復トラブルを防止するために2004年10月1日より「賃貸住宅紛争防止条例」を施行している。だが条例の適用は施行後の新規契約に限られるとしている。施行後に結ばれた更新契約を何の根拠も無く一方的に条例の適用から除外しているが、東京都の姿勢は疑問である。

 

東京・台東借地借家人組合

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