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【Q&A】 供託者は5年の短期消滅時効した供託金を取戻することが出来るのか

2012年11月09日 | 弁済供託

(問) 建物の明渡請求をされ、供託所(法務局)に賃料15万円を20年間弁済供託をしています。ところで、供託金は民法169条の「定期給付債権の短期消滅時効」で5年間経過すれば消滅するということになっています。なので、貸主(被供託者)が20年間供託金の還付請求をしていなければ、時効消滅した供託金は供託者からの取戻請求で供託所から払渡しを受けられるのですか。


 (答) 「債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託をしなかったものとみなす」(民法496条1項)。

 被供託者が供託金の還付請求をしていなければ、供託者は取戻請求権を行使して払渡しを受けることが出来る。しかし、その場合は「供託をしなかったものとみなす」ということになり、賃料不払い状態になる。被供託者(賃貸人)と和解が成立し、取戻請求の了解が得られている場合でなければ、債務不履行を理由にした契約解除明渡請求の危険があるので、供託事由が消滅するまでは賃借人が取戻請求権を行使して供託金の払渡しを受けないのが通常である。

 この相談者への回答の参考になる判例がある。現在、長期間に亘って弁済供託している供託者には朗報で画期的な最高裁平成13年11月27日判決があるので、検討してみる。

 賃貸人が死亡し、その相続人等複数の人間から賃料請求を受けた賃借人は、過失なくして債権者を確知することができないとして賃料の供託をし、後にその取戻しを請求したところ、法務局から供託金取戻請求権は供託の時から10年の時効期間の経過により消滅したとして却下された。その処分を不服として法務局を相手に却下処分の取消を求めた事案である。この裁判では、「債権者不確知を理由にした弁済供託」における供託金取戻請求の消滅時効の起算点が問題になった。

事件の概要
 ① 賃借人は賃貸人A所有の建物を家賃1か月14万円で借りていた。家賃は前払いであった。
 ② Aは昭和52年10月に死亡した。
 ③ Aの相続人であると主張するBら3名と、Aから建物を贈与されたと主張するCから家賃の支払請求を受けた賃借人は、昭和52年12月以降、債権者不確知を理由に法務局へ弁済供託をした。
 ④ Bら3名とCとの紛争は昭和62年12月に裁判上の和解が成立した。その後、賃借人はBから平成7年1月、建物明渡請求を提起された。
 ⑤ 賃借人は平成7年8月に法務局に対して供託金の取戻請求をした。だが、法務局は昭和52年12月分から昭和60年8月分までの供託金については供託後10年が経過しおり、取戻請求権の消滅時効は完成しているとして、賃借人の請求を却下した。
 ⑥賃借人は却下処分を不服とし、法務局を相手に、その処分の取消を求めて提訴した。

裁判での賃借人の主張
 賃借人は「供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点は、供託の基礎となった債務について紛争解決などによってその不存在が確定するなど、供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時である」とした最高裁昭和45年7月15日判決を引用して、次のように主張した。

 Bが賃借人に建物明渡を提起した時(平成7年1月)が消滅時効の起算点になる。すなわち、賃借人が初めて賃料債務の消滅時効を援用することが可能となった時点が供託による免責の効果を受ける必要がなくなった時ということになり、供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点となる。

裁判での法務局の主張】 
 賃借人が引用した最高裁判決は、債権について争いのある事案を前提としたものである。債権者不確知を理由とした弁済供託の場合は、供託者が取戻請求権を行使したとしても、自己の主張を撤回したものと解されるおそれがないのであるから、本件には妥当しない。また、供託物の取戻請求権は供託者の自発的意思に基づき行使できるのであるから、その消滅時効は供託の時から進行する。

最高裁の判決の要旨
 弁済供託は、債務者の便宜を図り、これを保護するため、弁済の目的物を供託所に寄託することによりその債務を免れることができるようにする制度である。供託者が供託物取戻請求権を行使した場合には、供託をしなかったものとみなされるのであるから、供託の基礎となった債務につき免責の効果を受ける必要がある間は、供託者に供託物取戻請求権の行使を期待することはできない。「供託物取戻請求権の消滅時効が供託の時から進行すると解することは、上記供託制度の趣旨に反する結果となる。そうすると、弁済供託における供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点は、過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする弁済供託の場合を含め、供託の基礎となった債務について消滅時効が完成するなど、供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時と解するのが相当である」(最高裁昭和40年(行ツ)第100号 昭和45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁)。

 本件においては、各供託金取戻請求権の消滅時効の起算点は、その基礎となった賃料債務の各弁済期の翌日から民法169条所定の5年の時効期間が経過した時と解すべきであるから、これと同旨の見解に基づき、その時から10年が経過する前にされた供託に係る供託金取戻請求を却下した処分が違法である」(平成13年11月27日 最高裁判所第三小法廷判決)。

 

 この判決は「債権者不確知」に対するものであるが、最高裁の論旨は「受領拒絶」、「受領不能」等、弁済供託全般に当て嵌まるものであり、供託物の取戻請求権の消滅時効の統一判断を示している。供託実務への影響が大であり、重要な判例である。

 従来の実務では供託時から10年で時効消滅と解されていたものが、本来の賃料債務の5年間での時効消滅後さらに10年間は取戻請求権を行使できるということになる。即ち、供託者は、弁済供託時から、民法169条の定期給付債権の短期消滅時効の5年が経過すれば、供託金の時効消滅が完成する。消滅時効を援用して債務の消滅を主張することは必要である。これを行っていれば、取戻請求権を行使することに何の不都合はない。供託金を取戻しても「供託をしなかったものとみなす」(民法496条)ということにならない。債務不履行(賃料不払い)にならないということである。

 上記の裁判例で具体的に検討すれば、賃借人は平成7(1995)年8月に法務局へ取戻請求権を行使した。5年の短期消滅時効は平成2(1990)年8月に完成しているから、その時から10年遡る昭和55(1980)年8月までの供託金(昭和55年8月分~平成2年8月分の10年間分)は払渡しを受けられる。

 相談者の貸主が20年間供託金の還付請求をしていなければ、民法169条の「定期給付債権の短期消滅時効」によって借主は5年が経過すれば、供託金を法務局から問題なく取り戻すことが出来る。5年間の短期消滅時効後、10年以内に取戻請求権を行使して時効消滅した分の供託金を供託所(法務局)の窓口で払渡しを受けられるということである。

 結論、例えば、相談者が平成24(2012)年11月に法務局に取戻請求を行使すれば、民法169条の「5年の短期消滅時効」が平成19(2007)年11月で完成する。そこから10年間は取戻請求が行使することが出来るので、平成9(1997)年11月~平成19(2007)年11月の10年間分の供託金(15万円×12か月×10年=1800万円)が取戻せる。しかし、平成9(1997)年11月以前の供託金は時効消滅しているので取戻請求は出来ない。

 5年を経過した供託金は、次々と民法169条の「5年の短期消滅時効」によって毎月順繰りに時効消滅してゆくことになる。平成24年12月になれば、5年前の平成19年12月分の供託分が取戻請求ができる。このように毎月、5年の短期消滅時効で時効消滅した供託金が取戻せることになる。

 従って、平成24年12月分の供託をする場合、時効消滅した供託金(平成19年12月分)の取戻請求をして戻された供託金(日本銀行発行の小切手で払渡される)を平成24年12月分に充当するという奇策も可能である。貸主が還付請求をしてこなければ、このようなことを毎月繰り返すことが出来る。取戻す手続きの手間と時間を考えると余り薦められる方法ではないが、こんな遣り方もあるということで紹介した。

 

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