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判例紹介
賃借人が建物修繕費を支出したことが、建物賃貸人からの賃料増額請求にあたり考慮すべき事項であるとはいえないとされた事例 (大阪地裁平成元年12月25日判決、判例タイムズ748号)
(事案)
家主は、複数の賃貸建物の借家人6人に対して、昭和63年6月1日以降の家賃増額を請求した。借家人等は、建物は戦前に築造され、現在では老朽化が進み、修繕を必要とする部分が各所にあり、それにもかかわらず、家主は本件建物を修繕しなかったので、借家人らが自分の費用で屋根、壁、塀等を修繕してきた。
だから、このことは賃料額決定に際して考慮されるべきである、と争った。なお、従前賃料と値上げの額がいくらかだったかは、掲載からは不明。
(判決要旨)
被告らは、原告が本件各建物の修繕を怠っていたので、被告らあ自らの出損で修繕してきたという事実を賃料額決定に際して考慮すべきである旨主張する。
本件各建物について修繕が必要な部分があることや、被告らが本件各建物を修繕してきたことの証拠はあるし、本件各建物がいずれも戦前に築造されたことは当事者間に争いがない。
しかしながら、仮に被告らが自らの支出で修繕をしたとしても、そのことは適正賃料の相当性の判断に影響を及ぼすべき特殊な事情に当たらない。
(説明)
賃料と修繕の関係については、いろいろな問題がある。
①家主の値上げ請求に対して、建物の修繕がされていないことを理由に値上げ額を争う場合。
②同じく、賃借人が修繕したことを理由に値上げ額を争う場合。
③同じく、賃借人が行った修繕の費用を逆請求をして争う場合。
④修繕をしない家主に対して、借家人が家賃の値下げ請求をして争う場合。
⑤家賃値上げの機会とは関係なく、賃借人が行った修繕費を家主に請求する場合。
⑥借家人行った修繕の費用を、賃料から差引いてしまう場合。
本件は②の場合であるが、本判決は、賃借人が修繕をしても家賃を安くする理由にはならないと判断した。修繕費は別途請求すればよいという考え方であり、裁判例の中では一般的なものである。
(1991.04.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
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給排気設備の機能障害を考慮して適正家賃が2%減額された事例 (東京地裁平成元年8月31日判決、判例時報1346号)
(事案)
地下3階地上10階建のビルの地下1階にある約90軒の店舗の1つ。借家人は昭和49年10月から賃借し衣料販売を経営してきた。家主は、それまで月26万円だった家賃を昭和61年1月分から28万6000円、平成元年7月分から29万5000円に、それぞれ増額してきた。
借家人(原告)は、本件店舗の給排気設備が使用不能の状態にあることなどを理由として、賃料増額は認められないと争った。
(判決)
給排気設備が使用不能の状態にあるのは集中構造配管の全般的な老朽化に伴うものであること、その修繕は商店街全体に関わるものであって、高額の費用がかかり、その工事自体も容易ではないこと、従って、本件店舗だけを所有しているだけに過ぎない原告(借家人)には現状では修繕は事実上ほとんど不可能であり、機能障害は一時的なものと認められる。
そして、本件店舗は通路側の間口も全部開け放して営業する構造になっているが、それでも、給排気設備が使えないため、特に夏場の冷房時には不快感を感ずる程度には影響があることを認めることができる。
ところで、借家法7条の賃料増減請求権は、固定資産税などの公租公課の負担の増減、敷地・建物の価格の昂低、比隣の建物の賃料と比較して不相当な額になったこと、これらの事由がある場合にそれに応じた客観的に相当な賃料額を形成できるようにする制度である。
このような趣旨目的からすると、本件店舗の給排気設備に右のように機能障害がありその修繕ができない事情があるとしても、それだけでは賃料増額請求権の行使自体を許さないということはできない。
しかし、右の機能障害は本件店舗の快適な使用に悪い影響を与えていないわけではなく、ひいては本件店舗の価値自体に消極的な影響を与えていないではないということができるから、この事実は、相当賃料額の認定に際して、幾分斟酌されるべき事情であるということができる。被告(家主)の主張はこの限りで理由がある。
斟酌の程度は、本件店舗賃貸借の目的、経過、右機能障害の内容及び程度並びに右障害の無い場合の当面の相当賃料の金額自体に鑑みると、機能障害がない場合に比較して、2%減額するのが相当である。
(短評)
家賃は、その建物に家主がどういう設備を施しているかに当然影響される。従って、その設備が悪くなれば、それが家賃の減額に反映されるのは理の当然である。なにも「使用に悪い影響を与えていないわけではなく」とか、「消極的な影響を与えていないではない」などともってまわった言い方をする必要はない。
本件は修繕不能の場合だが、可能の場合でも修繕するまでは同じ理屈が当て嵌まる。
(1990.08.)
(東借連常任弁護団)
東京借地借家人新聞より
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東京簡易裁判所 平成19年12月10日判決言渡
東京簡易裁判所平成19年(少コ)第2729号 立替金等請求事件
少 額 訴 訟 判 決
主 文
1 被告は,原告に対し,19万8500円及びこれに対する平成17年7月8日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請 求
主文同旨
第2 事案の概要
原告は,Aマンション1002号室の所有者であったところ(甲2,3,乙2,3 ,平成16年9月14日に同マンション8階の802号室及び9階の)902号室に水漏れが発生した。同水漏れの原因は,同マンション1002号室の床下配水管(以下「本件配水管」という。 )からの水漏れが原因であることが判明した(甲3)本件配水管は,同マンションの共用部分に存在するので,被告に修繕義務があるにもかかわらず ,(甲1) 被告は修繕を行わないため,原告が被告のために本件配水管の修繕を行い,平成16年11月15日に修繕業者にその費用として金15万7000円(甲4)を,平成17年7月7日にその費用として金4万1500円(甲5)の合計19万8500円を支払った。よって,原告は,被告に対し,同費用合計19万8500円及びこれに対する平成17年7月8日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求める。
第3 主たる争点
本件配水管の亀裂が存した部分は,原告の専有部分であったか。共用部分であったか。
第4 理由の要旨
1 本件マンションの管理規約 使用細則( 甲1) 第7条2項(1) によれば 「天井, 床及び壁は, 躯体部分を除く部分を専有部分とする。」 と定められている。
2 本件配水管は,本件マンションの902号室の天井と1002号室の床下との間の空間に存在する配水管で,床下から約5cmのところに亀裂が入っていたことが原因とする水漏れであったものと認められる(甲6 )。
3 そこで判断するに,本件マンションの管理規約,使用細則第7条2項(1)では天井までが専有部分とされるが,天井裏は専有部分とは解されないこと,床は専有部分とされるが,床下は専有部分とは解されないところ,本件配水管の亀裂があった部分は,902号室の天井裏であり,かつ,1002号室の床下の空間であると認められることから,902号室及び1002号室のいずれの専有部分でもなかったと解される。本件マンションの管理規約,使用細則第8条によれば 「対象物件のうち共用部分の範囲は,専有部分を除く部分とする。 」と定められ,また,同第18条によれば「敷地及び共用部分等の管理については,管理組合が責任と負担においてこれを行うものとする。 」と定められていることからすると,本件配水管の亀裂した箇所は共用部分であり,その修繕義務は被告がこれを負担するものと認められる(なお,天井裏の排水管についてはその共同性から共用部分とした裁判例として,東京地判平成8年11月26日判例タイムズ954号151頁。天井裏の排水管の枝管について,これを上の階の部屋から点検,修理することが不可能であることなどを理由に,区分所有者全員の共有部分に当たるとした判例として,最高裁判平成12年3月21日判例タイムズ臨時増刊1065号56頁 参照)。
4 原告主張の請求原因事実は 関係各証拠及び弁論の全趣旨により認められる。
5 よって,原告の請求は理由があるので,主文のとおり判決する。
東京簡易裁判所民事第9室
裁 判 官 古 木 俊 秀
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平成16年04月23日 最高裁第二小法廷判決 平成14年(受)第248号 管理費等請求事件
(要旨)
マンション管理組合が組合員である区分所有者に対して有する管理費及び特別修繕費に係る債権が5年間の短期消滅時効を定める民法169条所定の定期給付債権に当たるとされた事例
(内容)
件名 管理費等請求事件 (最高裁判所 平成14年(受)第248号 平成16年04月23日 第二小法廷判決 破棄自判)
原審 東京高等裁判所 (平成13年(ネ)第3618号)
主 文
1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 上告人は,被上告人に対し,69万9720円及びこれに対する平成12年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被上告人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを5分し,その3を被上告人の負担とし,その余を上告人の負担とする。
理 由
上告代理人桑原昌宏の上告受理申立て理由について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,埼玉県草加市内にあるマンション「Aマンション」(以下「本件マンション」という。)の管理組合であり,建物の区分所有等に関する法律3条前段所定の本件マンションの区分所有者全員を構成員とする団体である。
(2) 上告人は,平成10年3月31日,株式会社Bから本件マンションの506号室の区分所有権を買い受け,同年5月1日,その旨の所有権移転登記手続を了した。
(3) 被上告人が定めた本件マンションの管理規約(以下「本件規約」という。)中には,管理費及び特別修繕費(以下,併せて「管理費等」という。)に関する定めとして,次のような規定がある。
組合員である区分所有者は,敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため,管理費等を被上告人に納入しなければならず,その額については,各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出し,毎会計年度の収支予算案により,総会の承認を受けるものとする(25条)。特別修繕費は修繕積立金として積み立てるものとする(28条1項)。被上告人は,管理費等について,組合員が各自開設する預金口座からの自動振替の方法等により翌月分を毎月末日までに一括して受け入れる方法により徴収するものとする(58条1項)。管理費等の額,賦課徴収方法等については,総会の決議を経なければならない(47条)。
(4) 株式会社Bは,平成4年1月分から平成10年4月分までの管理費等を滞納しており,その合計額は173万9920円である(内訳は別紙「滞納額の内訳」のとおりである。以下,この管理費等を「本件管理費等」という。)。
(5) 被上告人は,本件管理費等の支払義務は上告人に承継されたとして(建物の区分所有等に関する法律8条),平成12年12月4日,上告人に対し,本件管理費等の支払を求める旨の支払督促を越谷簡易裁判所に申し立てた。この督促事件は,上告人が督促異議の申立てをしたことにより本件訴訟に移行した。
(6) 上告人は,本件訴訟において,本件の管理費等の債権は民法169条所定の債権に該当し,同条所定の5年間の短期消滅時効により消滅する旨主張して,本件管理費等のうち支払期限から5年を経過した平成7年12月分までのもの(合計104万0200円)につき消滅時効を援用した。
2 原審は,次のとおり判断し,上告人の上記消滅時効の抗弁を排斥して,被上告人の請求を認容すべきものとした。
本件の管理費等は,原則的には毎月一定額を支払う形になってはいるものの,共用部分の管理の必要に応じて,総会の決議によりその額が決定され,毎年要する経費の変化に応じて年単位でその増額,減額等がされることが予定されているものであって,その年額が毎年一定となるものではない。したがって,被上告人が区分所有者に対して管理費等の納入を求めることができる権利は,基本権たる定期金債権の性質を有するものではなく,本件の管理費等の債権についても,基本権たる定期金債権から発生する支分権としての性質を有するものとはいえず,民法169条所定の定期給付債権には該当しないから,同条所定の短期消滅時効の適用はないと解すべきである。
3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
本件の管理費等の債権は,前記のとおり,管理規約の規定に基づいて,区分所有者に対して発生するものであり,その具体的な額は総会の決議によって確定し,月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は,基本権たる定期金債権から派生する支分権として,民法169条所定の債権に当たるものというべきである。その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い,総会の決議により増減することがあるとしても,そのことは,上記の結論を左右するものではない。
そうすると,本件管理費等のうち平成4年1月分から平成7年12月分までのもの(合計104万0200円)については,消滅時効が完成していることになるから,被上告人の請求は,上記時効完成分を除いた69万9720円及びこれに対する支払督促の送達の日の翌日である平成12年12月13日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきである。
これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決を主文第1項のとおり変更するのが相当である。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官福田博の補足意見がある。 裁判官福田博の補足意見は,次のとおりである。
論旨は,管理費及び特別修繕費の双方について実体的に一体のものとして民法169条に基づく短期消滅時効を主張しており,現行法の解釈としては,法廷意見が述べるとおり,これを首肯せざるを得ない。
しかし,マンション等の区分所有建物においては,経常的な経費を賄うために徴収される通常の管理費とは別に,共用部分の経年劣化等に対処するための修繕費用は必ず必要となるものであって,これを区分所有者全員で負担しなければならないことはいうまでもない。そのために要する費用は往々にして多額に上ることから,これを修繕を行う際に一度に徴収することは実際的とはいい難い。そこで,管理組合が長期的な収支見通しの下で計画的な積立てを行ってこれに備えるのが修繕積立金と呼ばれるものであり,将来への備えとして,このような対応が必要となることは当然のことというべきである。このような修繕積立金は,区分所有建物の資産価値を維持保全するためのものであり,究極的には個々の区分所有者の利益に還元されるのであり,また,区分所有関係を維持していくために必要不可欠の負担ということもできる。修繕積立金のこのような性質にかんがみると,短期消滅時効の適用により,不誠実な一部の滞納者がその納付義務を容易に免れる結果とならないようにするための適切な方策が,立法措置を含め十分に検討されるべきものと考える。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田 博 裁判官 滝井繁男)
............................................................................................................................................................................................
別紙
滞納額の内訳
管 理 費 | 特別修繕費 (修繕積立金) |
小 計 | |
平成4年1月分 | 1万5340円(不足分) | 2210円 | 1万7550円 |
平成4年2月分 ~ 平成5年8月分 |
月額1万5700円 ×19か月 =29万8300円 |
月額2210円 ×19か月 =4万1990円 |
34万0290円 |
平成5年9月分 ~ 平成7年12月分 |
月額1万5700円 ×28か月 =43万9600円 |
月額8670円 ×28か月 =24万2760円 |
68万2360円 |
平成8年1月分 ~ 平成9年12月分 |
月額1万5700円 ×24か月 =37万6800円 |
月額8670円 ×24か月 =20万8080円 |
58万4880円 |
平成10年1月分 ~ 平成10年4月分 |
月額1万5700円 ×4か月 =6万2800円 |
月額1万3010円 ×4か月 =5万2040円 |
11万4840円 |
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店舗賃貸借契約の特約条項に違反して無断で改装工事をしたことが、背信的かつ重大な義務違反に当らず、解除が無効とされた事例 (東京地裁平成5年9月27日判決)
(事案)
Y(賃借人)はX(賃貸人)から地下ショッピングセンター街の1部を賃借し(①)(②)(③)の3店舗を経営していたが、右賃貸借契約の特約条項(ショッピングセンター街の多数の賃借人を集団的に規律するための手続条項)に違反して無断で改装工事をしたため、Xは特約条項違反を理由に賃貸借契約を解除し店舗の明渡を求めた。
裁判所は、無断改装工事が特約条項に違反することは認めたが、右義務違反の内容・程度は背信的かつ重大なものとは言えないとしてX(賃貸人)の請求を棄却した。
(判決)
本判決は、
先ず、①賃借人が特約条項に違反したとして契約の解除を認めるためには、当該業務違反が背信的かつ重大なもので、地下ショッピングセンターの店舗という特殊性を正当に考慮したうえで賃貸人と賃借人との信頼関係を破壊するものでなければならず、単なる集団的規律のための手続条項違反では直ちに契約を解除することはできないとし、
さらに、②本件の賃料及び諸経費が高額で、解除に伴って生じる経済的効果も大きいから、解除原因となりうる義務違反の程度もそれに相応した重大なものでなければならないとしたうえで、本件について次のように判断した。
①(①)の店舗の内装工事はラーメン店を同一系列の飲食店である中華料理店としての内装にふさわしいものに変更したにすぎないこと、
②右内装工事の着工後とはいえ、YはXの求めに応じて(1)(2)の店舗につき改装工事の承認申請書を提出し、Xも条件付ながら一旦は承認しており、内装工事自体に承認を拒否する合理的な理由はなかったと考えられること、
③Yは右条件を履行していないが、条件を迫るXの態度は性急で強引であること、
④(3)の店舗の改装工事は美観その他の点で格別の問題は生ぜず、予め承認申請していればXが拒絶すべき合理的理由はないこと、
⑤その他の無届休業・「防火管理確認標」の提出懈怠・店長会議への欠席などは賃貸借契約にとっては必ずしも重大な義務違反とはいえないこと等に照らすと、
Y(賃借人)の義務違反の内容・程度は、賃貸借契約の解除原因を構成するする程度には背信的かつ重大なものとは言えない。
(寸評)
建物賃貸借契約において無断改装などの契約違反があっても、それが背信行為に当らない場合には契約解除は認められないとするのが確定した判例である
本判決はショッピングセンターの賃貸借についても2つの法理が適用されることを確認するとともに、その背任性の存否についての詳細な認定は、通常の建物賃貸借における背信性の程度を判断するにあたって参考になるものである。
(1994.09.)
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台東区に住む山田さんは水道局の検査で借家の水道管が漏水していることが判明した。漏水箇所は床下。水道工事店に見積をしてもらった。自己負担で修繕するには費用が過重である。
契約書に「修繕は借主の費用負担で行う」と書かれている。
現在家主から家屋の明渡請求を通告され、家賃は供託している。こんな状況で、家主に修繕を要求しても無視されるのは自明である。
如何にすればよいか、借地借家人組合に相談した。組合の回答は「修理特約があっても、その範囲は小修理に限られる。当然修理義務は家主にあり、その費用は勿論家主が負担する」というものだった。
組合の対処方法は(1)業者の見積り金額を書き、家主に修理依頼の配達証明付き内容証明を送付する(2)内容は指定した日までに工事が着工されない場合、自費で修繕するが、その費用は供託家賃と相殺する旨を通告する。
実践の結果、指定日に家主から工事費を全額支払うと連絡があった。
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葛飾区内で美容業を営んでいるAさんは、1年前より雨漏りの修繕工事を貸主に要求してきた。
1階は雨が壁を伝わり、2階はポトリポトリと数箇所において桶をいくつか置く始末。畳は使い物にならず、再三貸主に修繕を要求したが工事は始まらない。リフォームの工事業者が見積もりをしても家主と金額で合意できず、一向に工事を実行に移す事はなく畳のカビに悩まされ、2階は使用不能。
この間現家賃8万5000円を支払うことに納得できず、再度期日までに雨漏りストップの工事を完了しない場合には賃料を2分の1とする旨を文書で通知した。家主はこれに対し無視の態度をとった。
Aさんは貸主代理人に賃料の半額を持参。代理人はしぶしぶ受領した。その後半年家主より何の反応もない。半額の賃料提供については争ってもよいと心に決めた賃借人の実力行使である。
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建物賃借人が行った大幅な改修工事が建物賃貸借に違反するが、工事の必要性・合理性等に鑑みると、いまだ信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるとして、契約解除が否定された事例 (東京地裁平成6年12月16日判決、判例時報1554号69頁)
(事実関係の概要)
賃貸人Xと賃借人Yとの建物賃貸借契約は、昭和38年から開始され昭和49年には家賃の倍増が行われた。そして裁判上の和解や更新が繰り返されてきたが、最後の合意更新は昭和62年に行われ、その中で、Yは建物の模様替え又は造作、その他の工作をする時は内装変更及び簡単な造作変更を除いて、事前にXの書面による承諾を受けることとされた。
Yは平成2年1月から、新たに外壁を築造して、シャターの4基を設置すると共に、事務所部分について壁面の一部、天井を撤去して、新たにこれらを築造し直した上、事務所部分の一部を建物の外部とし、階段を移動させるなど大幅な改修工事を行った。その費用は約400万円であった。
Xは、Yの工事は書面によるXの事前の承諾を得ていないのであるから契約違反であるとし、賃貸借契約を解除して建物の明渡しを求めた。
(判決要旨)
(1)Yの工事は契約に違反する工事であり、原則として契約の解除原因になる。しかしその工事が賃貸借契約が賃貸借契約の当事者の信頼関係を破壊するに足りないと認められる特段の事情があれば、賃貸借契約の解除は認められないと解するのが相当である。
特段の事情を判断するに当っては、工事の規模、程度、復旧の難易、建物の用途、目的、賃貸人の制止、これに対する賃借人の言動、従前の経緯、賃借人の主観的事情など諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。
(2)①本件工事は、鉄扉が転倒して通行人当に危害を及ぼす危険が現実に具体化した段階において、その危険を除去する必要が生じたことを契機に、従前からの壁面からの雨漏りを防止し、また事務所部分における接客環境を改善する目的で行われたものであり、Xがこれらの適切な改修を行うなどの措置を講じた形跡がうかがわれないら、その必要性及び合理性があった。
②本件工事によって設置された外壁及びシャター等の撤去は可能であるし、事務所部分の原状回復についてもXの負担が増加したとはいえない。
③建物の用途、目的に変更が生じたもの出ではない。
④本件工事以前にYが行った工事についてXは一度も異議を述べたことがなった。
⑤Xの本件工事中止の要請にもかかわらずYがこれを継続したのは①の必要性からすれば強く非難できない。
⑥本件工事によって建物の価値が増し、Xもその利益を受ける。よって、本件工事には、前記の特段の事情があり、Xの契約解除は無効である。
(寸評)
完璧な判決、よっていうこともなし!
(1996.05.)
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店舗の賃借人が、賃貸人のクーラー等の設備の修繕義務違反を理由に賃料支払を拒むことは許されないとして、賃料不払を理由とする解除が認められた事例 (東京地裁平成5年11月8日判決、判例時報1501号115頁)
(事案)
クーラー、換気扇の設備のなされている店舗をスナック営業の目的で賃借したYは、賃料を9か月分払わなかった。そこで賃貸人Xは賃貸借契約を解除し、Yに店舗の明渡しを求めた。
これに対しYは、入店当初からクーラー、換気扇の故障により休業を余儀なくされた上、数度にわたる換気扇の増設、交換等の修理の結果、飲食店としての営業が不可能になるほどの騒音、温度差という新たなトラブルが生じた。このように当初から機器の性能に難があってYは本件店舗をスナック営業という本来用途に従って使用収益できなかったのであるから、使用収益が可能になるまで賃料の全部又は一部の支払を免れると主張してXの明渡請を求争った。
(判旨)
賃貸人は賃借人に対し、賃貸目的物の使用収益に必要な修繕をする義務を負い(民法606条)、賃貸人が右修繕義務を怠り、その結果、賃借人が目的物の使用収益を全くできなかった場合には、賃借人は、右使用収益ができなかった期間の賃料支払義務を免れると解されるか、右修繕義務の不履行が賃借人の使用収益に及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には、賃借人は、当然には賃料支払義務を右一部についても免れないというべきである」
これを本件についてみると、証拠上は、エアコンと換気扇の機能障害は、スナック営業を全く不能ならしめる程度にまでは至っていないし、換気扇増設後の騒音についても同様である。したがってYは、その間本件店舗で営業活動をしていると否とを問わず、店舗を占有する以上、その期間中の賃料支払義務を当然に免れるものではない。よって、Yの主張は理由がなく、Xの契約解除は有効である。
(寸評)
賃貸人の修繕義務不履行に対して、賃借人はいかなる対抗措置がとれるか。まず、修繕義務不履行を理由とする損害賠償の請求ができ、これと賃料との相殺が可能である。更に、賃借人自らが修繕して、その修繕費の償還(民法608条1項)もしくは賃料との相殺を請求することができる。あるいはまた、使用収益の不完全な割合に応じて賃料の減額請求権を取得する。
この本件の賃借人Yは、右のいずれとも違い、賃料全額の支払をストップしてしまった。最も危険なやり方であったといわねばならない。
修繕義務の不履行に対しては、いずれの方法が実践的に有効であるかは、事案毎に慎重に検討する必要がある。
(1994.11.)
(東借連常任弁護団)
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判例紹介
①賃料の自動改定の特約の効力を制限した事例 ②ビルの管理・修繕の不備を理由に賃料の減額を認めた事例 ③賃貸借契約の連帯保証契約の解約を認めた事例 (東京地裁平成9年1月31日判決、判例タイムズ952号220頁以下)
(事案)
Y①はXから飲食店経営の目的でビルの一室を賃借していた。このビルの管理状態が悪いため、建物の使用に一部支障を来たす状況であった。Y①は、これを理由に賃料の減額請求をした。この店舗の契約には3年毎に家賃を15%増額する特約があったため、XとY①間で紛争となり、Y①は家賃の支払を一部拒絶した。
Xはこれに対し、契約解除の通知をし、Y①に対し店舗の明渡しを求め、Y①とその連帯保証人Y②に対し、未払い金及び損害金の支払を求めた事案。
判決はXの一部勝訴(建物の明渡し、減額賃料の支払を認容。Y②に対する請求棄却)。
(判旨)
①「賃料を一定年数毎に定率で自動的に増額する条項は、相手側からそれによるのを不相当とすると特段の事情の存在に関する主張、立証のない場合を除き、一定年数経過時に約定どおり賃料を自動的に増額させる趣旨の契約であると解すべきであり、また、その反面として、相手方から、その条項による賃料の増額を不相当とする特別の事情の主張、立証があった場合には、その条項の効力は失われるものと解すべきものである」
②「本件店舗については、少なくても昭和63年5月以降、貸主に求められる管理、修繕の義務を尽くしたものとは認めがたく、これによる本件店舗の使用上の不都合は重大なものがあり、本件店舗は、本件賃貸借契約が想定した通常の賃貸店舗からみて、少なくともその効用の25%が失われていたものと認めるべきである。従って、本件店舗の賃料は平成元年10月内にXに到着したY①の意思表示により、同年11月分以降、約定賃料を25%減じた額……に減額されたものと認めるのが相当である」
③「このようなXの姿勢によるXとY①との間の本件店舗の明渡しをめぐる紛争の長期化は、Y②の予期しないところであり、……のような事情からY①の連帯保証人となったY②に対し、平成8年3月6日以降になっても、なおY①の明渡し遅滞による責を負わせるのは酷に失し、正義の観念に反する。従ってY②については、信義則上右時点で解約を認め、Y①の連帯保証人としての地位から離脱を認めるべきである」
(評論)
①の判旨は、定率自動改定条項の効力について、有効性を認めつつ特段の事情による効力の否定を認めるもので同種の特約の解釈について参考になる判例といえる。
②については、法律的に特別な意味はないが、修繕義務を尽くさない貸主に対し、減額請求で争うこともあり得るのであえて紹介した。
③については、貸主側の不誠実な態度が紛争の要因となっている特別の場合には、信義則による連帯保証契約の特別解約権を認めた事例である。
(1998.06.)
(東借連常任弁護団)
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判例紹介
アパートの貸主の妨害によって借主が部屋を使用することができなくなったことにつき、貸主に損害賠償責任が認められた事例 (東京地裁平成3年6月24日判決。判例時報1412号121頁)
(事案)
Xはアパートの一室を賃借していたが、このアパートを取得して貸主となったYは、アパートの改修工事を行う必要があるとして、電気・水道の供給を停止し、共用のトイレを破壊する等の行為をした。その結果、Xは貸室に居住し続けることができず、荷物を貸室に置いたまま、友人宅などに宿泊せざるをえなくなった。
またXは、Yに対し電気、水道の供給の停止その他のXの貸室使用を妨害する一切の行為を禁止し電気等の供給を命ずる仮処分の申請を裁判所に行い、その決定が出されたがYはこれに一切従わなかった。そこで、XはYに対して、貸室の賃借権の確認と損害の賠償を求めて、裁判を提起した。
(判決)
判決は、「本件建物の改修工事を行う場合、それが、貸主としての修理義務の履行としての工事の範囲である場合は格別、本件工事のごとく、賃貸借の対象物件の現状を大きく変更し、また、工事期間中貸室の使用が事実上不可能になるようなときは、借主の意向を無視して一方的に行うことが許されるものではない。このような工事を行うことは、本件賃貸借契約の内容の変更を生じさせ、契約上の目的物を使用させるという貸主の債務の不履行を含むことになるため、賃借人の同意・承諾が不可欠である。‥‥‥(本件建物の改修工事をおこなう)必要性がある場合、借家法の適用のある本件賃貸借契約について、解約申入れを行う等の手順が必要とさせるところである」として、事実経過やYの妨害行為を認定した上で、「Yの本件妨害行為により、Xは本件貸室を退去するの止むなきに至ったのであり、しかもこの行為は、法により保護されているXの賃借権を違法に侵害するものである」と判示し、Xに貸室の賃借権が存在することを認め、Yに対してXがこうむった損害を支払うよう命じた。なお、損害として判決は、和解による訴訟の早期決着の見込みがなくなった時点後は別の賃貸物件を物色してそこへ移るべきだとして、①右時点後1か月間(別の賃借物件を物色する期間)のホテル等の宿泊等の実費②その後の家賃相当金及び別の賃貸物件の敷金・権利金・仲介手数料(いずれも裁判所が独自に認定)を認定し、これに③慰謝料20万円を加えた金額を支払うようYに命じている。
(寸評)
家主が土地建物の有効利用を図ろうとして借家法や賃貸借契約を無視して、強硬に実力行使をしあるいは嫌がらせをして借家の使用を妨害する事例が増えている。本判決は、その違法性を正面から認め家主に損害賠償を命じたもので、同じ境遇におかれている借家人にとって1つの大きな支えとなる者である。また、損害の算定方法についても参考になると思われる。
(1992.08.)
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判例紹介
小修繕は借家人が自らの費用で行うとの特約がある場合に、家主に屋根等の修繕義務が認められた事例 (東京地裁平成3年5月29日判決、判例時報1408号89頁)
(事案)
この事件は築後約24年を経た建物(居宅)の借家人が原告となり、家主に対し屋根、壁、雨戸など14箇所の修繕を求めたものである。これに対し家主は借家人の要求する修繕は新築同様又は賃料の3年分の費用がかかり経済的に修繕不能であり、借家人の要求は権利の濫用であると争った。
(判決要旨)
第1点、「特約」との関係。
建物の部分的な小修繕は借家人が自らの費用を負担して行う旨の特約がある場合は、家主の修繕義務を負う部分と借家人が自己の費用をもって修繕すべき部分との調整が必要である。
第2点、修繕義務の負担。
小修繕に当たるものの修繕について家主に修繕義務はないが、建物の改造、造作、模様替え等建物の基本構造に影響すべき現状を変更する修繕部分は家主の負担すべき義務の範囲に属する。
第3点、家主の修繕義務の程度。
① 築後相応の建物としての使用継続に支障が生じない程度でよい。新築同様の程度まで修繕すべき義務はない。
② 修繕に多額の費用を要するもののうち、現状のままでも借家人側の受ける損失が小さいものにあっては、借家人において現状を甘受すべきであり、家主に修繕義務はない。
③ 借家人側に原因のある部分についても家主には修繕義務はない。
④ 本件においては、2階屋根のセメント瓦のずれないし割れの部分、1階便所等の上のさしかけ鉄板葺屋根の部分、南側外壁のひび割れ部分、雨樋の損傷破損部分、2階和室天井板の剥離・割れの部分など6箇所について、従前と同品質又は同程度の材料と交換したりして修繕する義務が家主にある。
⑤ 右の家主の修繕は、少なく見積もっても賃料の数か月分を超える費用が必要だが、この程度では修理不能の域に達しているとは認められず、さらに、家主は本件建物新築以来修繕費も支出したことがないというのであるから、今回の支出がある程度の額となっても、それをもって賃料との均衡を欠くものということはできない(賃料との均衡を失するというのであれば、未だ建直しの時期が到来していない本件建物にあっては賃料の増額方法によって調整されるべきである)。
(短評)
小修繕は借家人が行うとの特約がある場合、それを超える修繕は家主の義務であるが(民法606条1項)、その限界は微妙な場合が多い。また、老朽化の程度によっては物理的にも修繕が不可能だったり、物理的には可能だが賃料に比してあまりにも多額の費用を要するときは経済的に修繕不能とされ、家主の修繕義務はそれだけ軽減又は免除される。事案毎に具体的に判断するほかないが、その1つの判断基準が比較的詳細に示された先例として、この判決の意義がある。
(1992.06.)
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修理請求は回答せず、更に水道代を3倍値上げ
仲村さんは、豊島区大塚のマンションに住んで、10数年経過した。入居当時から、不動産業者の重要事項の説明では、取り付けてあるはずのテレビのアンテナ配線がない、風呂場にシャワーがついていないなどのトラブルがあり、管理人を通して通知していた。
一向にらちがあかないので、自費でもってケーブルテレビの配線をし、シャワー口の取り付けをするなどをしていた。しかしここに来て、水道代がそれ以前より、2倍から3倍の請求があるなど問題が多発し、管理人を通して話合いの請求をしていたが、納得できる回答がないまま過ぎてしまった。
誠意ある回答がないので、家賃の不払いで対抗してきたが、家主の会社が倒産し、清算人に移行しているという話が浮上し、心配になって組合に相談した。
組合では、仲村さんと相談し、「(1)家賃の未払いは明渡しの要因になるのですぐに支払いをする。(2)その上で、この間の経過を内容証明書で相手方に送付する」ことにした。抵当権が設定される前に入居しているのでじっくりと交渉することにした。
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マンション備付けのガス給湯器が故障
家主が修繕を拒否した場合の対策
(問) 私は2DKのマンションを借りている。マンションに入居時から備え付けのガス給湯器が故障した。家主に何度も修理の依頼をしたが、黙殺された。家主に修理をさせ、その費用を支払わせる方法はないものか。
(答) 民法606条は賃貸人の修繕義務を定めている。即ち「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要なる修繕をする義務を負う」と規定されている。賃貸物の保存のための修繕義務は家主にあることが明確に規定されている。
家主がこの法律の規定する義務を免れるためには、予め契約で「ガス給湯器の修繕は借家人の負担とする」との特約(特約とは法律の定めに反する約定)を結ぶ必要がある。
しかし特約が認められるには「賃貸借契約書の条項に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要である」(最高裁2005年12月16日判決)と特約の成立に厳しい制限加えている。特約があるからといって無条件で認められる訳ではない。相談者の場合は修繕特約がないので修繕義務は家主にある。
①民法615条で賃借物に修繕が必要な場合は賃借人が遅滞なく賃貸人にその旨を通知する義務があると「賃借人の通知義務」を規定している。
②同じく民法608条では「賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる」と「賃借人による費用の償還請求」が規定されている。
従って、これらに基づいて以下、家主の費用負担で修繕をさせる方法である。
先ず配達証明付内容証明郵便で家主に対して修繕請求をする。以下がその内容である。
「ガス給湯器が故障し、現在使用不能です(註)。業者の修理見積では*万円ということです(なお、修理不能の場合は新品と交換になる。その場合は交換工事費込みで*万円です(註2))。本書到達後10日以内に修理して下さい。もし期日までに修理して戴けない場合は、当方が業者に依頼して修理します。立替払いした修理費用は後日請求しますのでお支払い下さい。万一お支払いがない場合は、月々の家賃と修理費用を相殺することをご承知措き下さい」という趣旨のものである。
この通知を出しても、家主が修理を履行しない場合は、その内容の通りに実行する。修理費用が月額家賃分以上になる場合は、数回に分割して立替払いした修理費用を全額回収する。
ここで、内容証明郵便を出す段取りを省略して、修繕費を家賃から差し引くと家賃の一部不払いとして契約解除の原因にされる恐れがあるので注意が必要だ。
借家の修繕問題の解決法には別の方法もある。それは、家主は完全な物を貸す義務があるから、ガス給湯器の故障という不完全な度合いに応じて家賃を減額して支払う。ガス給湯器が直った時点で家賃を元に戻す方法である。しかし、これではいつ家主が修繕するか分からず、前者の方が現実的である。
(註1) 後日、家主から言い掛かりや難癖をつけられないように故障しているガス給湯器の状態を写真撮影して置く。また部品交換など修理の状況、或いは、商品の交換工事の状況を写真に撮って置くと家主とのトラブルを回避できる。
(註2) ①家主との代金トラブルを回避するためにも修理業者は出来る限り製造メーカーのサービス・ステーションに依頼する。
②見積費が発生した場合は勿論のことで修理代金と一緒に費用回収する。写真代、配達証明付内容証明郵便代金等修理修繕に関係したすべての代金は総て回収する。
③ガス給湯器が故障して、入浴できずに銭湯を使用した場合は、その代金を請求する。近くに銭湯がなく交通費を使って通った場合はその交通費も請求できる。
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判例紹介
賃貸人の修繕義務不履行により建物の一部が使用できなくなった場合、賃借人は家賃の減額請求権を有する (名古屋地裁昭和62年1月30日判決。判例時報1251号)
(事案の概要)
1 Yは昭和55年6月1日、Xから2階部分を居宅、1階部分をお好み焼屋店舗として使用する目的で本件建物を賃料月額10万円で賃借した。
2 2階部分には3つの居室があったが、56年9月前からいずれの部屋にも雨漏りがし、特に南側と真中の部屋の雨漏りは、雨天の場合バケツで受けきれず、畳を上げて洗面器等の容器を並べ、Yらが椅子の上に立って、シーツやタオルで天井の雨漏り部分を押さえざるを得ない程であり、押入に入れたふとんが使用不能になったこともあり、本件建物2階部分は、同年9月以前からその少なくとも3分の2以上が使用不能となった。
3 YはXに対し、しばしば雨漏りの修繕を求めたが、Xはこれに応じず、右の使用不能状態は、Yが本件建物を明渡した昭和58年7月31日まで続いた。なお、1階店舗部分は、右の雨漏りにより使用不能となることはなかった。
4 これに対し、Yは56年9月分から賃料の支払を拒絶し、Xに対し、右使用不能部分の割合に応じて賃料を減額する旨意思表示した。
5 しかし、Xは減額に応じず、Yに対し、56年9月分から明渡し済みの58年7月分までの賃料230万円の支払を求めた。
(判決)
本件建物の2階部分の少なくとも3分の2が56年9月1日以降58年7月末日までXの修繕義務の不履行により使用できない状態にあつたことが認められるところ、修繕義務の不履行が賃借人の使用収益に及ぼす障害の程度が一部にとどまる場合には、賃借人は当然には賃料支払義務を免れないものの、民法611条1項を類推して、賃借人は賃料減額請求権を有すると解すべきである。
本件の場合、右減額されるべき賃料額は、右使用できない状態の部分の面積の本件建物全面積に対する割合、本件賃貸借契約は1階店舗部分とその余の居宅の使用収益を目的としていたところ、Yの右店舗部分自体の使用収益にはさしたる障害は生じなかったこと及び雨漏りの状況等の諸般の事情に鑑み、本件賃料額全体の25%をもつて相当とする。
(寸評)
判決はもとより妥当である。家主が修繕義務を履行しなかった場合、2つの対応がある。1つは賃借人側で修繕しその費用を家賃と相殺する方法で、組合がよく利用する。もう1つは本件のように民法611条1項を類推適用する方法である。いずれの方法が良いかは事案によって異なってくる。
(2003.08.)
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