80年代歌謡曲界きっての問題作として、一部ではカルト的人気を誇るラ・ムーによる唯一のLP。当時清純派アイドルとして人気のあった菊池桃子が突如「ロック歌手」宣言をし、3枚のシングルの後にリリースされたのがこのアルバムです。もっとも「ロック」という文句はただの釣りで、実際の音楽スタイルがブラコン要素の強いテクノポップだというのは今となってはよく知られた話。当時はセールス的にまったく振るわなかったようですが、今の観点で聴くと捉え方によっては名作に聴こえるのだから不思議なものです。先行してシングルが切られたA-5の「少年は天使を殺す」やB-2の「Tokyo野蛮人」はさすがに電波過ぎて厳しいものがありますが、アルバムのみに収録された曲の完成度はなかなかのもので、特にA-3の「夏と秋のGood-Luck」はスタイル・カウンシルのThe Lodgersを上手に引用したJ-AOR屈指の名曲。中盤のサックスソロや黒人女性コーラスなど、この時代らしいクリスタルな魅力に満ちあふれた素晴らしいナンバーになっています。決して歌がうまいとは言えない菊池桃子のウィスパー・ヴォイスを最大限に活かす、思春期特有のノスタルジーを表現した歌詞も抜群。ほとんど奇跡みたいな化学反応が起きた突然変異のモンスター曲と言って良いでしょう。また、続くA-4のTwo Years Afterも雰囲気こそ違うもののなかなかの名曲。切ないハーモニカの音色が胸を打つ甘酸っぱさ全開の片思いソングで、秋の夜長にぴったりなナンバーです。アイドル声で歌われるJ-AORが好きな方ならばほぼ確実にハマるはず。1989年という微妙な時期のリリースのためアナログはなかなか珍しいですが、CDなら普通に手に入ると思うので気になる人は是非。これからの時期のBGMとしては最適な一枚と思います。
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