盲目のシンガーであるDiane Schuur、コンテンポラリー・ジャズ・ヴォーカルの中では知名度が高いようで、86年にリリースされたこのアルバムも同年のグラミー賞最優秀女性ジャズヴォーカル賞を受賞しているみたい。まぁ僕ら世代のリスナーにとって見れば、グラミー賞を取ったからってそれがどうこうという話でもないのですが・・・。さてさて、このアルバムですが、いわゆる普通のビッグ・バンドとは違いストリングスを大胆に導入した構成で作られています。言うなればビッグバンド+オーケストラのような感じ。コンテンポラリーってあんまり聴いたことがないので分かりませんが、少なくとも古典的なビッグバンドとは若干趣が異なるのは事実。そのせいもあってか全体にかなり柔らかい音が展開されています。曲自体にバラードが多いのも原因だとは思いますが。しかし、AB両面の2曲目に関してはそれぞれ正統派のビッグ・バンド・ジャズ・ヴォーカル。軽快にスウィングしていてなかなかにカッコいいです。クレジット見たらこの2曲アレンジャーが同じなんですね・・・。どうりで似たような音だと思いました。特にA-2のEasy To Loveはアルバム中唯一グルーヴィーと言えるベース・ライン。Organ b. SUITE No.9の冒頭を飾った曲としても知られています。静かに始まり中盤から徐々にホーンが入っていく展開は、これから始まる楽しい夜を予感させてくれるよう。現在は廃盤のようですがCDでもリリースあるみたいです。
元SPEEDのHiroがモダン・ジャズやクラブ・ジャズ系のアーティストとコラボレーションしたという企画盤。僕が持っているのは限定12インチなので全曲がクラブ向けのものですが、これが本当に外れなしの素晴らしすぎるEPとなっています。特にB-1に収録されたDeniece WilliamsのカヴァーであるFreeは、曲単位で言うならば去年リリースされた全ての僕が聴いてきた作品のなかでベスト・トラック。メロウなオリジナルをヨーロピアン風味満開の生音ジャズ・ボッサで軽快にカヴァーしています。プロデュースするのは、前述Joyでも天才的なセンスを見せつけた中塚武氏。どことなくSheila LandisのSchemes Of Mad Septemberに近いような暖かい曲で、普通に古いモダンジャズと混ぜてかけたら誰もこれをHiroが歌ってるだなんて思わないでしょう。辰緒さんによるどこまでもメロウなA-2のCalling Youや、奥原貢(from beret)によるモロにポップ仕様のB-2のThe Face I Loveも素晴らしい。Hiroの高音ヴォイスは昔から好きでしたが、まさかここまで本格的なヴォーカリストに成長するとは思っていませんでした。水森亜土さんの書き下ろしイラストによるジャケットもとてもキュート。CDではモダン系のアーティストとのコラボも多数披露されているようなので、ぜひそちらでどうぞ。アナログは今となっては既にプレミア必至だし・・・。
先日Deja Vuより再発されたジャズ・ヴォーカル・アルバム。オリジナルのリリースはイギリスのレーベルから1989年だそうで、この時期のイギリスと言えばレア・グルーヴ~アシッド・ジャズが全盛だった頃。さらにレコーディングにはSnowboyなんかも参加しているのですが、このアルバムに関してはそうしたアシッド・ジャズ臭は皆無。あくまでもオールド・スタイルなバップ・ヴォーカルを聴かせてくれます。D.M.R.の試聴にも入っていましたが、Milestonesを引用したA-1、Devil May Careがとにかくカッコいい。軽快にスウィングしながらもどことなく危険な香りを漂わせるクール・ジャズ。曲の後半には同じくMilesのSo Whatのフレーズなんかも出てきて、とにかく痛快なチューンに仕上がっています。続く高速ジャズボッサのA-2、So Many Timesや、コミカルなサンバジャズであるB-2のSpidermanもかなりカッコいい。その他の曲も全体に洗練されていて、かつヴァラエティに富んでいるので、おそらく誰でもアルバム単位で聴ける一枚だと思います。オススメ。それから今回ジャケットが一層されてのリイシューとなりましたが、オリジナルのジャケットよりもこちらの方がアルバムのイメージには合っているかな?モノクロームのイラストがとてもクールでハマっています。アナログは枚数も少ないようなので、早めにチェックしてみてください。
たまには最近のディスカヴァリー盤なんかからも紹介。まだネットで紹介などされることはあまりないですが、パーティーなどでかかると盛り上がるレコードです。Wim Koopmansはオランダのジャズ・シンガー。これはそんな彼の1stアルバムです。まだそれほど知名度があるわけでもないから、何気に探すのは困難な盤。Double Standard誌にて鈴木雅尭さんが紹介していたCabaretカヴァーも高速スウィンギンでかなり良いですが、やはりこの盤のA-4、L.O.V.E.には適わないかな?ホーンの鳴りと音の抜けが異常に良く、とにかくイントロから込み上げっぱなしの素晴らしいカヴァー。間違いなくこの曲の数あるカヴァーの中でトップのフロア受けと完成度を誇ります。ヴォーカルの声も男らしいし、間奏のピアノのスウィング感も抜群。まさに文句なしで100点です。Nothing But A Recordsさんに教えてもらって去年一番聴いた曲。アルバムのその他の曲はよくありそうなヴォーカルものなんですが、この一曲のためだけにもぜひ聴いてもらいたい一枚。あまりにも気持ち良い最高のカヴァーです。同タイプのB-5、Little Green Applesもバラードから突然スウィングに変わる好カヴァー。エレピが秀逸なミディアムのB-3、The More I See Youは部屋聴きにも良いかと思います。とにかくオススメのアルバムです。
Minnie RipertonのLovin' You調バラード、Say You Love Meも人気のフュージョン系シンガー、Patti Austinによる78年のライブアルバム。ライブアルバムというと歓声がうるさく入り、よっぽどのファンじゃない限り買わないものと思いがちだけれど意外にそうでもない。特にジャズクラブなんかで演奏されたものに関しては録音もしっかりしてるし、わりと普通に聴けたりするものです。ファンキーでアッパーなA-1のYou Fooled MeやA-2のJum For Joy、しっとりしたバラード調のA-4、Let's All Live And Give TogetherにB-1、Love Me By Name。さらにはカントリー&ウエスタンなA-3、Rider In The Rainまで幅広い選曲で楽しませてくれる好盤だけれど、やっぱり白眉はB-2、Wait A Little While。ジャズとフリーソウルの中間を行く僕が一番好きなラインの曲ど真ん中と言った感じのメロウ・ミディアム。とても好きな曲です。バックを彩るテナー・サックスの音色も実にまろやかで柔らかい。9月に聴くのが一番だけれど、9月じゃなくてもぜんぜん聴ける。少し寝坊したブランチタイムに最適な一曲。CD化もされているらしいですが、アナログでも安いです。Patti Austinの中では意外に見ない盤ですけれどね。
数年前に第二のキティー・ウィンターと騒がれたらしいドイツのブラジリアン・フュージョン名作。でもフュージョンとは言っても、演奏はどちらかというとモダン寄りな気がします。エレキギターとかのいわゆるフュージョン的な楽器が使われていないからかもしれませんが・・・。ピアノトリオにリーダーOlivier Petersのサックスまたはフルートを加えたシンプルなカルテット形式による演奏です。冒頭のタイトル曲はなかなかカッコいい高速ハードバップ。そして続くA-2、Full Moonがこのアルバム最大のボムです。闇を切り裂くような神秘的な長~いイントロから次第に盛り上がり高速ブラジリアン・フュージョン・ヴォーカルへ。Joan Johnsonなる女性ヴォーカルの声も好みだし、何度聴いても唸ってしまいます。間奏のサックス・ソロや力強いピアノトリオも素晴らしい。高速スキャット・ブラジリアン、A-4のKekayもクラブ人気高い佳曲。少しPatsy Gallant辺りを思わせます。さらに儚げなボサノヴァのB-1、It's Always Springやタイトル曲と同タイプB-4、Happy Endingsなどどこを切り取ってもヨーロッパらしい気品に満ちた演奏。素晴らしい名盤なのでぜひとも聴いてみてもらいたいと思います。数年前にCelesteからアナログ/CD共に再発もリリースされました。アナログは再発でもなかなか見かけませんがオススメです。
1975年にテキサスのインディー・レーベルからリリースされたラテンファンクの激レア盤。昨年アナログで再発が出て、僕が持ってるのはそちらです。全体的にカッコいいですが、やっぱりStevie WonderによるBird Of Beautyの熱いカヴァーがこの盤の人気を高めている原因でしょう。既出のSvante Thuressonによる都会的で洗練されたカヴァーとは裏腹に、こちらのSolのヴァージョンはとことん荒削りながら、腕っ節の強さがひしひしと伝わってくるような豪快な男気溢れるカヴァー。お洒落感は皆無ですが、それでも飛び切りカッコいいナンバー。パーカッシブなイントロからして既にヤバいです。サルサなA-3、El Que Se Fueもフロアで盛り上がりそうな感じ。部屋聴きに良いのはB-2のSomedayという曲。ヒスパニック系の方々によるバンドだそうで、ブラックともロックともまた一味違うアーシーなバラードが堪能出来ます。メロウなエレピと男気ながら美しいヴォーカルが印象的。テキサスの雄大な大地が想像出来ます。ソフトなボサノヴァ・タッチのB-3、You Don't Understandもフェイバリット。昨年リリースの再発も一瞬でなくなりましたが、中古盤などで発見したら耳を傾けてみてください。
これもジャケットがカッコいいですね、87年にリリースされたUKのジャズダンス・ユニットによる唯一のアルバム。当時は日本でも人気があったらしく、レコードですが国内盤もリリースされています。このアルバムと言えばB-1、Another StarとB-2、Ooh! This Feelingという2曲のオルガンバー・クラシックスが収録されていることでその筋ではそこそこ有名。やっぱりアルバムのハイライトもこの2曲ということになるのでしょうか?アシッドジャズぎりぎりのニューウェーブという当時のUKの時代背景がひしひしと伝わってきます。ソウルでもジャズでもなく、そのどちらの要素もうまく取り入れてるという感じ。しかも元がダンス・ユニットなだけにとにかく踊りやすくてノリの良い曲ばかり。でも全体をまとめているテイストは決して明るくはなく、むしろジャケット通りの紳士的な印象。少し2nd以降のTwo Banks Of Four辺りを彷彿とさせるA-3、Bounce-Backも都会的なミディアム・フュージョンで気に入ってます。部屋聴きならこの曲かな?87年という年代はCDが徐々に広まり始めた頃で、だからこそ逆にこの年代のLPを探すというのは微妙に難しかったりもします。おまけに権利関係からかCDで再発されるということもないそうで少し残念・・・。
1940年代初頭から活動を開始し、かなりの数のアルバムをリリースしているジャズヴォーカリスト、Ernestine Andersonによる83年のアルバム。ちなみにConcordからのリリースです。詳しくないから良く分からないけど、このConcordというレーベルは何気に良いアルバムが多いみたい。年代が古くないから比較的安いアルバムばかりだしね。で、このアルバムなんですが、まさにジャケットの世界観そのままに都会的な雰囲気を持った珠玉のジャズ・ヴォーカル集です。中でもA-1に収録されたAll I Need Is Youはその筆頭。華やかな都会の夜景を彩るスペシャルな一曲です。ピアノのイントロからして既に気分は次元大介。ジャズ=ルパン三世っていうイメージは少し短絡的過ぎるのかもしれないけれど、他に良い形容が思いつかないもので・・・。Miles DavisのカヴァーであるB-2のAll Bluesや、サイモン&ガーファンクルのカヴァー、A-4のThe 59th Street Bridge Songも良い感じのジャズ・ブルース。タバコの煙とジンのフレーヴァーが似合うアルバムです。夜景が見えるバーラウンジでこんな曲が流れてきたら洒落てていいなぁ。ぜひこんな曲がかかるバーでお酒を飲んでみたいです。
2年くらい前にサバービア~オルガンバー周辺人脈を賑わせた屈指のジャズヴォーカル名盤。僕もちょうど当時Organ b. SUITE N°2で聴いて以来、ずっと気になってはいた盤なんですが、去年ようやく国内のP-Vineからアナログ/CD共に再発されましたね。このP-Vineは時々こういう凄いものを不意に再発するから侮れません。さてさて内容の方はというと男気系ヴォーカルのジャズです。良い感じにモーダル感が漂ってくるというか、まぁ一言で言うと渋いアルバム(笑) どちらもKathy Kellyなる女性とデュエットしてるA-6、HeatとB-3、A Perfect Dayのジャズダンサーが抜群の人気ですね。僕としてはどちらかというとHeatの方が気に入ってます。もちろんA Perfect Dayも大好きですけど・・・。でも個人的にこのアルバムのベストトラックはB-2のA Change Of Sceneかなって思います。これが過去にOrgan b. taro 4にも収録された儚げなボサノヴァで、正直この盤を探していたのは上記2曲よりもこれが聴きたかったからになりません。こういう地味な曲って意外と好きなんですよね。ちなみにA Perfect Dayですが、小林径さんとB-Bandjによるユニット、Dark Shadowがカヴァーする模様。Routine Jazzのミックステープに入ってましたが、なかなかカッコいい高速ジャズ・ヒップホップでした。なんとなくBobby Coleの持つ雰囲気とB-Bandjの持つ雰囲気って近い気がします。正規リリースがされるかどうか分からない曲ですが、こちらも期待して待っていたいと思います。