(前回からの続き)
ということで、米FRBのQE(量的緩和策)が縮小に向かい、金利上昇のリスクが高まるなかで、ここのところ急速に借金を膨らませたアメリカの家計は今後、厳しい状況に直面せざるを得ない、という見方を綴ってみました。
これに関し、前述の住宅ローンに加えて、気になるところをもう一つあげておきたいと思います。残高の多い家庭向けローンのランキングで、自動車ローンを抜き、いまや住宅ローンに次ぐ第2位にまで上昇した学資ローンのことです。こうなった背景等は先日のこちらの記事に書いたので詳細は省きますが、学資ローン残高の拡大は以下のような理由から今後のアメリカの実体経済に大きなマイナスのインパクトを与えると思われます。
まずは、これからのアメリカを担う若年層の多くが長期間にわたる学資ローンの返済に追われること。学校を出て社会人としてのスタートラインに立った時点で多額の借金を背負った彼ら彼女らは長い期間(へたをすれば一生!?)高い買い物なんてできないはずです。これは結局、中長期的にみた住宅や自動車の需要を落ち込ませてアメリカ経済の成長を阻害することになるでしょう。
そしてもっと深刻だと考えられるのは、これほどまでにコスト高になってしまったアメリカの教育システムが次世代の人材育成におよぼす負の影響です。アメリカでは、もはや大金持ちか巨額の学資ローンを借りることができる世帯しか高等教育を受けられなくなりつつあります。一方で教育にお金をかける余裕のない中・低所得者層には十分な教育環境が提供されているとはいい難い・・・。こうした「教育格差」は持てる者と持たざる者との差をいっそう拡大させるとともに市民の不平不満感・不平等感を高め、アメリカ社会をさらに歪ませるだろう、と予想しています。
話を「金利上昇」に戻します。
FRBがQE縮小を開始したからといって、一本調子に金利が上がっていくわけではありません。価格が下がれば、高い利回りにつられて債券に流入するマネーが登場してくるからです。これによってFRBが購入を減らしただけの米国債やMBSが投資家に買われれば、これらの価格急落とか金利の急騰は回避されることになります。
このあたりで期待できそうなのは、やはり新興国に投資されたマネーでしょう。QE縮小でアメリカの金利が上がりそうだという見方から、早くもマネーのドル資産へのシフトが始まっているもようです。実際、先日のFOMC直後から、新興国の通貨はドルに対して下落しています。そのなかでも直近ではトルコ・リラ、インドネシア・ルピア、インド・ルピーといった、経常赤字の大きな国々の通貨が売り込まれている感じです。
まあこのへんは、各国が安易に低利の外資流入に頼り、産業振興などの各種改革を怠ったツケが回ってきたといったところなのでしょうが、ともかく、これら新興国はマネーの流出に今後も苦しみそう。なかにはリスケやデフォルトに追い込まれるところも出てくるかもしれません。そうなれば金融マーケットはいっせいに「リスク・オフ」モードとなって・・・。
で、このリスク・オフですが、QE縮小に舵を切ったアメリカにとってどう作用するか、じつに微妙な気がします。金利の低め誘導に関していえば、当然これは歓迎すべき現象。新興国の通貨・債券・株式といったリスキーな資産から安全度の高い米国債にマネーが移れば米金利はおのずと下がるからです。
一方、アメリカの「バブル」経済にはマイナスです。足元で最大の恩恵を米経済にもたらしている株価には冷や水を浴びせるし、これによって肝心の住宅価格にも下押し圧力がかかると考えられるからです。資産効果に依存した景気浮揚を図りたいFRBとしては、たとえ金利が下がったとしても、そんな資産デフレは決して起こしたくないはず・・・。
結局、「やっぱり引き続きマネーをばら撒いて資産価格を高めよう!」ということになって、FRBはQEをやめることができなくなる・・・。金利高騰とかハイパー・インフレといった巨大リスクからは目をそらして・・・。禁断の「麻薬」=QEマネーにどっぷりはまったアメリカは、もはやこの麻薬の力で走り続けるしかなくなったように思えてなりません。
(続く)
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