(前回からの続き)
「Brexit」―――欧州連合(EU)脱退の是非を問う国民投票を6月にひかえ、英国では今後Brexit支持派が勢いづく可能性がありそうです。EUを脱退すればEUへの拠出金を払わずにすむし、シリアなどから英国をめざす大量のアラブ系難民・移民の入国を大幅に制限することも可能になるでしょう。かようにBrexitのメリットは分かりやすいうえ、人気の政治家ボリス・ジョンソン・ロンドン市長までがBrexitへの賛同を表明したこともあって、英国民の心は揺れるはず・・・「Brexitか否か、それが問題だ」・・・
・・・それでも英国民は最終的にEU残留・・・より正確にいうと、通貨「ポンド」の価値が下落しない道を選択するだろう、と予想しています。ポンド安は英国の国益に大きなマイナスとなると考えられるからです。
先述のマーケットの反応から推測されるように、Brexitが決まったらポンドは、ドルや円などの主要外貨に対して暴落するでしょう。そしておそらくユーロに対しても相当に切り下がると思われます。いまよりもポンド安ユーロ高になる―――これは貿易の半分をEUに依存する英国にとってけっして良いことではないはず・・・。
英国の対EU貿易は以下のようになっています(数値は2014年)、
輸出額:1473億ポンド(全輸出額に対する割合:47.4%)
輸入額:2206億ポンド(全輸入額に対する割合:52.8%)
これをみても分かるとおり、現時点でも英国の輸入超過傾向です。Brexitでポンドがユーロに対して安くなったらポンド建ての輸入額が膨らんで英国の貿易赤字は拡大してしまいそうです。
もちろん、自国通貨安を「てこ」に対EU輸出振興を図る、という手も考えられなくはありませんが、実際にはほぼ無理でしょう。こちらの記事等で書いたように、いまの英国には輸出で顕著に稼ぐほどのモノ作り産業がないからです。
まあ英国の有力輸出品として「自動車」こそ上げられますが、それらは自国資本ではなくドイツやアメリカや日本などの外国メーカーが英国で作っているもの。各社はいずれも、おもにEU市場への輸出を意図して英国に進出したわけですが、英国がEUから脱退すると同国産の自動車に課せられるEU諸国の関税が引き上げられる等のため、英国へのこれ以上の投資を手控えたり、なかには同国から引き上げるところもあるかも・・・といった具合で、輸出面についてもポンド安のメリットよりはBrexitのデメリットのほうが大きいことになりそうです。「Brexitで対英投資が減るおそれ」という見方はこのあたりに基づいているのでしょう。もちろん(失礼ながら)英国には自前で自動車を含む輸出産業を育てよう、なんて気概も能力もないわけで、今後もモノやサービスはすべて(?)外国に頼る以外の道はありません(首都ロンドンの電力供給まで中国製の原発に任せようというのですからね・・・)。
そんな英国唯一の柱は、そんなモノやサービスを調達する購買力となる通貨「ポンド」の価値と信認。そのポンドを危険にさらす(他通貨、とくにユーロに対して安くさせる)Brexitは絶対にNG、というのが英国にとっては常識的な判断でしょう。