今回ご紹介するのは「ガソリン生活」(著:伊坂幸太郎)です。
-----内容-----
凸凹コンビの望月兄弟が巻き込まれたのは元女優とパパラッチの追走事故でした―。
謎がひしめく会心の長編ミステリーにして幸福感の結晶たる、チャーミングな家族小説。
大小の謎に、仲良し望月ファミリーは巻き込まれて、さあ大変!
望月家のみんなを乗せて緑デミオは今日も走る!
-----感想-----
この作品は車の「デミオ」が語り手です。
望月家の愛車である緑のデミオ
何だか夏目漱石の「我輩は猫である」みたいでした。
隣の家「細見家」の車「ザッパ」からは緑のデミオなので「みどデミ」と呼ばれています。
ザッパは白のカローラGTなのだけれども、会話の中でよくフランク・ザッパの言葉を引用することからザッパの愛称で呼ばれています。
哲学的な話が序盤からよく出てきます。
その辺りはどことなく「重力ピエロ」と似ている気がしました。
まず「フランク・ザッパとは何者なのか?」と疑問に思ったので調べてみたらかつてアメリカに実在したミュージシャンでした。
結構哲学的な言葉を遺しているようです。
伊坂さんの作品ではよく謎の人物の言葉が引用されるので自然と「誰だそれは」となりますね(笑)
物語の舞台は仙台。
伊坂さんの王道的な設定で、仙台が舞台になることがとても多いです。
ある日、望月家の長男・良夫がひょんなことから「仙台の女神」と言われた元女優の荒木翠を愛車「デミオ」に乗せたことから物語が動き始めます。
その荒木翠がなんと数時間後、車の事故に遭い死亡。
パパラッチのような写真週刊誌記者に追いかけ回された末に、トンネル内で横壁にタイヤをこすって横転、炎上し死亡とのことでした。
直前に自分達の車に荒木翠を乗せていたことから驚く良夫と亨(とおる)。
ちなみに亨はまだ10歳の子供なのですが、望月家では亨が一番しっかりしています。
小学生なのにものすごくしゃべり方が大人びていてちょっと生意気な感じです。
とんでもなく冷静で論理的な小学生。
慌てやすく小心者な感じの良夫とは何とも言えない凸凹コンビになっていました。
望月家は母・郁子と長男・良夫、高校生の長女・まどか、次男の亨の4人家族。
動き始めた物語に望月ファミリー、さらに愛車の「デミオ」も巻き込まれ、次第にミステリアスな展開になっていきます。
面白いのは自動車たちは「車輪の数に比例して高度な知性を備えていく」と考えていること。
実際に二輪車に話しかけても「※★Φ!」という意味不明な返事が帰ってくるだけだったり、一方で電車は尊敬の的、畏怖すべき存在だったりします。
「みどデミ」も踏切の一番先頭で止まり、電車と話す機会があった時は敬語になっていました。
隣の家の「細見家」の車ザッパと緑デミによるモンスターペアレンツの会話は面白かったです。
「ああ、『別冊護身術』だな」ザッパが言う。
「雑誌?」
「細見氏は毎号、読んでるんだ」
「護身術とか興味があるんだっけ?」
「そりゃ、校長先生ともなれば、敵は多い。モンスターペアレンツとかな」
「それは何だか、名前からして強そうだね」
たしかにモンスターペアレンツは強敵ですね(笑)
ただこういった何気ない会話が伏線になっているのはさすが伊坂さんで、小学校の校長先生を務める細見氏が物語の山場で大活躍となりました。
車が語り手だけあって、色々な車が出てくるのが印象的でした
緑のデミオにはじまり、ザッパ(白のカローラGT)、エスティマ、ヴォクシー、ブルーバード、クラウン、マーチ、黒のアテンザ、ヴィッツ、スカイライン、青色のミニクーパー、ステーションワゴン、ベンツ、メルセデス、黒の軽自動車タント、ワーゲンポロ、シルビア、青のiQ、黄色のビート、白のムーヴ、水色のビアンテ、赤のプリムス・ヴァリアント、プリウス、ティアラ、RX-8、白のセレナ、青いキューブ、CR-V、シトロエン、アルファロメオ156、アウディ、セルシオ、ワーゲンゴルフetc…
普段車の種類には特に興味なしの私にはこれも新鮮でした。
色々な種類の車があるなと思います。
どの車も性格があって、そしてその家の人に贔屓目になるのも面白かったです。
自家用車は自分の持ち主に対し、必然的に親近感を覚え、持ち主とは考え方が似る傾向にあるらしいです。
あと「タクシーの大半は、情報通の噂好きで、妙にプライドが高い。君たち自家用車と違って我々は常に走っているからね、が彼らの愚痴だ」というのも面白かったです。
そうかタクシーはプライドが高いのか、なるほど確かにと妙に納得するものがありました(笑)
それとシトロエン(フランス)とアルファロメオ(イタリア)は仲が悪いようです。
「あまりいい性格とは言えないな」シトロエンが吐き捨てるように言う。
「どこかのフランス車並みに性格が悪い」アルファロメオが茶化す。
「何だともう一回言ってみろ」
「だから、その小学生の性格の悪さは、フランスの車と」
「何だと」
「まあまあ」とヴィッツが宥めた後で―
このエピソードもなかなか面白くて、同じ外車同士ライバル意識が強いのかシトロエンとアルファロメオはたびたび張り合っていました
ちなみにシトロエン(フランス)のほうはアルファロメオ(イタリア)を「故障の多い、燃費の悪い下品な車だ」とか何とか言っていましたね(笑)
そしてやはり、物語にちょくちょく出てくるフランク・ザッパなるミュージシャンの言葉。
「たまたま自分より体が小さいからといって、子供のほうが自分よりアホだとは限らない。素直な直感がどれほど大きな力をもつかころっと忘れてしまう」とフランク・ザッパは言ったらしいです。
たしかにまだ小学生なのに望月家で一番しっかりしている亨はこれを体現したような子供でした。
要所要所で亨の賢さが物語に影響を与えていました。
車の視点で語られる、人間たちの物語。
伊坂さんらしく巧妙に伏線がちりばめられていて、序盤に印象的な描写があると「これはもしかして、後半にまた登場するのでは?」と思いました。
「また会おう」と言っていた車と再会することもあり、そこから始まる車たちの会話も興味深かったです。
車なので自分の意思ではピンチの人を助けたりは出来ないですが、車同士で会話することは出来るという設定が面白かったです。
人間より早く事件の真相に辿り着いたりもするし、車の推理力もなかなかのものだと思わされる物語でした。
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-----内容-----
凸凹コンビの望月兄弟が巻き込まれたのは元女優とパパラッチの追走事故でした―。
謎がひしめく会心の長編ミステリーにして幸福感の結晶たる、チャーミングな家族小説。
大小の謎に、仲良し望月ファミリーは巻き込まれて、さあ大変!
望月家のみんなを乗せて緑デミオは今日も走る!
-----感想-----
この作品は車の「デミオ」が語り手です。
望月家の愛車である緑のデミオ
何だか夏目漱石の「我輩は猫である」みたいでした。
隣の家「細見家」の車「ザッパ」からは緑のデミオなので「みどデミ」と呼ばれています。
ザッパは白のカローラGTなのだけれども、会話の中でよくフランク・ザッパの言葉を引用することからザッパの愛称で呼ばれています。
哲学的な話が序盤からよく出てきます。
その辺りはどことなく「重力ピエロ」と似ている気がしました。
まず「フランク・ザッパとは何者なのか?」と疑問に思ったので調べてみたらかつてアメリカに実在したミュージシャンでした。
結構哲学的な言葉を遺しているようです。
伊坂さんの作品ではよく謎の人物の言葉が引用されるので自然と「誰だそれは」となりますね(笑)
物語の舞台は仙台。
伊坂さんの王道的な設定で、仙台が舞台になることがとても多いです。
ある日、望月家の長男・良夫がひょんなことから「仙台の女神」と言われた元女優の荒木翠を愛車「デミオ」に乗せたことから物語が動き始めます。
その荒木翠がなんと数時間後、車の事故に遭い死亡。
パパラッチのような写真週刊誌記者に追いかけ回された末に、トンネル内で横壁にタイヤをこすって横転、炎上し死亡とのことでした。
直前に自分達の車に荒木翠を乗せていたことから驚く良夫と亨(とおる)。
ちなみに亨はまだ10歳の子供なのですが、望月家では亨が一番しっかりしています。
小学生なのにものすごくしゃべり方が大人びていてちょっと生意気な感じです。
とんでもなく冷静で論理的な小学生。
慌てやすく小心者な感じの良夫とは何とも言えない凸凹コンビになっていました。
望月家は母・郁子と長男・良夫、高校生の長女・まどか、次男の亨の4人家族。
動き始めた物語に望月ファミリー、さらに愛車の「デミオ」も巻き込まれ、次第にミステリアスな展開になっていきます。
面白いのは自動車たちは「車輪の数に比例して高度な知性を備えていく」と考えていること。
実際に二輪車に話しかけても「※★Φ!」という意味不明な返事が帰ってくるだけだったり、一方で電車は尊敬の的、畏怖すべき存在だったりします。
「みどデミ」も踏切の一番先頭で止まり、電車と話す機会があった時は敬語になっていました。
隣の家の「細見家」の車ザッパと緑デミによるモンスターペアレンツの会話は面白かったです。
「ああ、『別冊護身術』だな」ザッパが言う。
「雑誌?」
「細見氏は毎号、読んでるんだ」
「護身術とか興味があるんだっけ?」
「そりゃ、校長先生ともなれば、敵は多い。モンスターペアレンツとかな」
「それは何だか、名前からして強そうだね」
たしかにモンスターペアレンツは強敵ですね(笑)
ただこういった何気ない会話が伏線になっているのはさすが伊坂さんで、小学校の校長先生を務める細見氏が物語の山場で大活躍となりました。
車が語り手だけあって、色々な車が出てくるのが印象的でした
緑のデミオにはじまり、ザッパ(白のカローラGT)、エスティマ、ヴォクシー、ブルーバード、クラウン、マーチ、黒のアテンザ、ヴィッツ、スカイライン、青色のミニクーパー、ステーションワゴン、ベンツ、メルセデス、黒の軽自動車タント、ワーゲンポロ、シルビア、青のiQ、黄色のビート、白のムーヴ、水色のビアンテ、赤のプリムス・ヴァリアント、プリウス、ティアラ、RX-8、白のセレナ、青いキューブ、CR-V、シトロエン、アルファロメオ156、アウディ、セルシオ、ワーゲンゴルフetc…
普段車の種類には特に興味なしの私にはこれも新鮮でした。
色々な種類の車があるなと思います。
どの車も性格があって、そしてその家の人に贔屓目になるのも面白かったです。
自家用車は自分の持ち主に対し、必然的に親近感を覚え、持ち主とは考え方が似る傾向にあるらしいです。
あと「タクシーの大半は、情報通の噂好きで、妙にプライドが高い。君たち自家用車と違って我々は常に走っているからね、が彼らの愚痴だ」というのも面白かったです。
そうかタクシーはプライドが高いのか、なるほど確かにと妙に納得するものがありました(笑)
それとシトロエン(フランス)とアルファロメオ(イタリア)は仲が悪いようです。
「あまりいい性格とは言えないな」シトロエンが吐き捨てるように言う。
「どこかのフランス車並みに性格が悪い」アルファロメオが茶化す。
「何だともう一回言ってみろ」
「だから、その小学生の性格の悪さは、フランスの車と」
「何だと」
「まあまあ」とヴィッツが宥めた後で―
このエピソードもなかなか面白くて、同じ外車同士ライバル意識が強いのかシトロエンとアルファロメオはたびたび張り合っていました
ちなみにシトロエン(フランス)のほうはアルファロメオ(イタリア)を「故障の多い、燃費の悪い下品な車だ」とか何とか言っていましたね(笑)
そしてやはり、物語にちょくちょく出てくるフランク・ザッパなるミュージシャンの言葉。
「たまたま自分より体が小さいからといって、子供のほうが自分よりアホだとは限らない。素直な直感がどれほど大きな力をもつかころっと忘れてしまう」とフランク・ザッパは言ったらしいです。
たしかにまだ小学生なのに望月家で一番しっかりしている亨はこれを体現したような子供でした。
要所要所で亨の賢さが物語に影響を与えていました。
車の視点で語られる、人間たちの物語。
伊坂さんらしく巧妙に伏線がちりばめられていて、序盤に印象的な描写があると「これはもしかして、後半にまた登場するのでは?」と思いました。
「また会おう」と言っていた車と再会することもあり、そこから始まる車たちの会話も興味深かったです。
車なので自分の意思ではピンチの人を助けたりは出来ないですが、車同士で会話することは出来るという設定が面白かったです。
人間より早く事件の真相に辿り着いたりもするし、車の推理力もなかなかのものだと思わされる物語でした。
※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
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latifaさんも読まれたのですね^^
ほんと車がたくさん出てきましたよね。
私も車は詳しくないので種類や外見が分からなかったですが、それでも全く問題なく楽しめましたね
さすが伊坂さんだと思います。
ちなみに200冊目は近々レビューを書きますよ!
どうぞお楽しみに
私も読みました。
面白かったです。
車が一杯出て来て、全部の種類や外見がわからず、だからと言って、調べながら読み続けるのも面倒で、どんな車なのか、全部知っていたら、更に面白かっただろうにな~^^
ラストの章は、トイストーリーを連想してしまい、気安く車を買い換えられないな~って思いました。
200冊目、何にされたのかな~