読書日和

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「春へつづく」加藤千恵

2013-05-08 23:38:01 | 小説


今回ご紹介するのは「春へつづく」(著:加藤千恵)です。

-----内容-----
卒業式の朝だけ、願い事を叶えてくれる”あかずの教室”の扉がひらく―
人生初の告白をしようと奮闘する少年、母親に「お父さんはミュージシャンの岡村靖幸よ」と聞かされて育った少女、自称”本の森の番人で千二百歳”の図書館司書……
不思議なジンクスを巡り、ひそやかに交錯する八つの願いが行き着く先に見える風景とは―。
今だけしかいられないこの場所、この瞬間の切なる想いと記憶とを鮮烈に描き出す連作短編集。
<特別対談・岡村靖幸>

-----感想-----
この小説を手に取ったのは、文庫本の表紙が漫画「ちはやふる」みたいな雰囲気を出していて、「おや」と思い興味を惹いたからでした。
裏表紙の内容紹介を読んでみて、悪くないなと思い購入。
加藤千恵さんの作品を読むのは今回が初めてでした。

読み始めてみると、どうやら北海道の中学校を舞台にした作品ということが分かりました。
高校が舞台の作品はたまに読むのですが、中学校が舞台の小説はほとんど読んでいなかったなと思います。
そんなわけでそこに新鮮さを感じながら読み進めていきました。
物語は連作八編で構成されていて、以下のようになっています。

一年一組・嶋野知咲
三年二組・小久保雄飛(ゆうひ)
コンビニパート・森住響子
二年一組・鳥井悠乃(ひさの)
二年二組・末次杏奈
一年二組・村中槙人
学校司書・牧野実知花
三年一組・竹部真織

同じ中学校の一年生、二年生、三年生の子が出てきて、作品ごとにリンクしたりもしています。
中学校の近くにあって生徒もよく寄るコンビニのパートさんや、中学校の図書室の司書さんも登場。
そしてどの短編にも必ず出てくるキーワードがあります。
それは”あかずの教室”。
中学校に伝わる伝説によると、卒業式の日の朝、普段は鍵がかかっているはずのあかずの教室が開いているので、そこに行き、窓の外に向かって願い事を唱えると叶えられる、というもの。
願うときのポーズも決まっているらしいですが、それがどんなポーズかまでは分からない。
どの短編でも”あかずの教室”の噂がまことしやかに語られていて、自然と興味はその”あかずの教室”へと向いていきました。
普段は鍵がかかっているはずの”あかずの教室”が卒業式の朝だけ開いている?そんなことがあるのか?と思いました。

そしてその”あかずの教室”の秘密を知る思いもよらぬ人物が登場。
20年前にもその中学校に居たという人物、”あかずの教室”の真相を知っていました。
卒業式の日の朝、普段は鍵がかかっているはずの”あかずの教室”が開くというのは本当なのか?
願うときのポーズとは何なのか?
この辺りが気になるところでした。

どの短編も登場人物それぞれが抱える悩みや想いが描かれていました。
それは生徒だけでなく、コンビニパートの人や図書室司書の人も同じでした。
淡々とした文章の中に時折登場人物の感情が強く表された言葉もあり、ハッとさせられました。
みんな何かしら思い悩むことがあって、それを抱えながら今この瞬間を一生懸命歩んでいるんだなと思いました。
淡々としていながらも感性に響く物語でした。

ちなみに、加藤千恵さんは1983年11月生まれの83年世代。
この世代には綿矢りささん、金原ひとみさん、島本理生さん、青山七恵さんといった若手強豪女性作家がいます。
加藤千恵さんの「春へつづく」もなかなかの良作でしたし、この世代の女性陣は本当に黄金時代だなと思います。
いずれの作家さんもこれからの文芸界を盛り上げるべく頑張っていってほしいです


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ビオラさんへ (はまかぜ)
2013-05-10 19:21:01
育った時代背景は影響があるかも知れません。
子供の頃から「不況」を目の当たりにしてきた世代でもありますし^^;
その分揺れ動く感性の機敏を読み取るのに優れた世代のような気がしないでもないです。

そうですね、この作品は若い世代の人向きな作品だと思います。
ただ「あの頃の自分」を思い出したりもするので、上の世代の人が読んでも楽しめそうな気がします
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Unknown (ビオラ)
2013-05-10 13:43:09
綿矢、島本、金原さんや加藤さんは、同じ世代なんですね。

若手文豪が次々世に出る共通の何かあるんでしょうか?

確かに光るものがあるし、何かそれまでとは違う作風ばかりな気がしますが。

育った時代背景とか
影響あるのかな。

この作品は、中学を舞台にしているって事は、若い世代の人をターゲットにした作品なのかな。

記事の紹介を読むと、若い世代の人に読みやすそうなストーリーな気がします^^
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