読書日和

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「ガールズ・ブルー」あさのあつこ

2016-06-27 22:38:11 | 小説


今回ご紹介するのは「ガールズ・ブルー」(著:あさのあつこ)です。

-----内容-----
落ちこぼれ高校に通う理穂、美咲、如月。
十七歳の誕生日を目前に理穂は失恋。
身体が弱く入院を繰り返す美咲は同情されるのが大嫌い。
如月は天才野球選手の兄・睦月と何かと比較される。
でもお構いなしに、それぞれの夏は輝いていた。
葛藤しながら自分自身を受け入れ愛する心が眩しい、切なくて透明な青春群像小説。

-----感想-----
物語は次の三章で構成されています。

第一章 スプラッシュ
第二章 花火と世界征服
第三章 海に還る犬

夏の7月初めから終わりにかけての物語です。
語り手の吉村理穂は高校二年生。
冒頭、理穂は彼氏の拓郎と久しぶりにデートをした後に「おれたち、やっぱ合わないと思わない?」と言われ振られてしまいます。
「やっぱ合わないと思わない?」という言い方が合わないと思ったけれどしぶしぶ付き合ってやったという響きがあり酷いなと思いました。

理穂の17歳の誕生日の日、夜中の1時18分に友達の藤本如月からバースデーメールが送られてきます。
理穂は「バースデーメールは、午前零時きっかりに送信するのが、礼儀ってものだろう」と不満に思っていました。
私はバースデーメールの時間にこだわったことはないので理穂が胸中で文句を言っているのに対し、そんなに不満に思うほどのことかと思いました。
たぶん午前零時きっかりに送信したほうが「あなたの誕生日を心待ちにしていた」と、 友達を大事に思っている雰囲気が出るということなのだと思います。
ただそういうのにこだわりすぎると友達関係が窮屈になるので気を付けたほうが良いと思います。

理穂には如月のほかに師岡(もろおか)美咲という友達がいます。
美咲は皮肉や不遜な物言いをすることが多いです。
理穂たちは稲野原高等学校に通っています。
落ちこぼれ高校とのことで、理穂によると「地域のダストボックスと呼ばれている稲野原高校」とのことです。
理穂は父親が国語の教師だけあって言葉が面白く、美咲や如月と話している時も面白い言い回しをすることがあります。

城下町で出雲街道の要所にあり雨の多い街とあったので、島根県の松江市が舞台かなと思いました。
松江市は松江城があり雨が降ることが多く、「水の都」と呼ばれています。

理穂にはもう一人、竹下綾菜という気の合う友達がいました。
しかし成績不振と授業日数不足により進級できず、退学しました。
稲野原高等学校は真面目に授業を受ける人が少ないため、毎年10人くらいの生徒が進級できないとのことです。
寂しがる理穂に対し美咲はとてもドライでした。
「忘れるよ。傍にいないやつのことなんか、すぐに忘れて楽しくやれるって」
しかしその美咲に対し、今度は如月が言葉をかけました。
「おれな、おまえがいなくなっても、そう簡単に忘れないと思うぞ」
美咲の言葉と対照的であり、良いことを言っていると思いました。
「眠りネコ」のあだ名を持ち授業中もよく寝ている如月ですが、たまに良いことを言うようです。

同じクラスには長原好絵(スウちゃん)という学年で一番成績の良い子がいて、理穂たちはこの子とも仲が良いようで、よく一緒に遊んだりしています。
また、如月には睦月という一つ年上の兄がいて、繰州東高校の野球部の超高校級バッターとして有名です。
兄が睦月(1月)で弟が如月(2月)という名前になっています。
そして睦月は理穂のことが好きです。
ただ理穂のほうはあまり恋愛対象としては関心がないようで、睦月から電話がかかってきて、せっかく野球部が夏の甲子園に向けて勝ち進んでいても気の効いたことは言わないです。
美咲と如月はそれが歯痒いようで苦言を呈していました。

美咲の言葉は青春時代特有のどぎつさがあります。
体重300gほどの超未熟児で生まれ、現在も身体が弱い美咲が体調を崩したのを心配する理穂に対し、次のように言っていました。
「熱出したからって、理穂にメーワクかけたわけじゃないし、ほっといてよ。少しうるさいんだよ、理穂は。リップの重ね塗りするより、接着剤で引っつけときな」
理穂のほうも応戦して毒舌を発揮します。
「あんたが入院しようが、病気になろうが、死のうが、殺されようが関係ないけどね。おばちゃんがかわいそうでしょ」
これらの言葉は友達同士だから言える言葉であるとともに、10代の高校生だからこそ言える言葉だと思います。
大人はなかなか言えないです。

理穂、美咲、如月、スウちゃんの四人で出掛けた「西の小京都」という場所が興味深かったです。
西の小京都と言えば山口県の萩が思い浮かぶのですが、島根県の津和野という場所もそう呼ばれているようです。
直接の地名は出てこなかったですが津和野に出掛けたのではと思いました。
そしてそこから歩いて20分くらいで家に帰れるとあったので、どうやら作品の舞台は松江ではなく津和野の近くだと思いました。

作中ではネコが毒殺されているのを理穂たちが見つけるのですが、その毒殺が連続事件になっていきます。
スウちゃんの彼氏、森次啓志がイラついて暴力的になったりもします。
また、理穂の家の犬に寿命が近づいてきたり美咲が入院になったりもして、色々なことが起きていきました。
小学生の時、入院した美咲をお見舞いに来た子が美咲のことを可哀相がって泣いたことについて、美咲が激怒したのを見て理穂が胸中で思ったことは印象的でした。

他人に対し、かわいそうと泣くことに、人はもう少し慎重でなければならないのだろう。助力できるなら、救えるのなら、最後まで支え続ける覚悟があるのなら、泣けばいい。

何も助力しないのに可哀相がるのはやめてくれということのようです。
美咲は可哀相がられることを非常に嫌っています。
そして理穂はそのことを知っています。
ただしこれは美咲達の側の考えであり、他の人が可哀想な光景を見て可哀相と感じるのは止めようがないとも思います。

完全に暮れきっていない空は、濃い紫で、西の山際は、まだほのかに明るかった。
これは夏の夕暮れが思い浮かぶ良い表現だと思いました。
私は6~7月の19時30分頃に見る夏のこの空が好きです。

あたしたちの前には、長い長い時間がある。それなのに、今しか着れない浴衣も、今しか感じられない歌も、今しか愛せないものもある。今だけがよければいいなんて、思わない。でも、過ぎていく時を惜しむことも、これから来る時に怯えることもしたくない。したくないのだ。
これは理穂の「今」への切実な思いが溢れた良い言葉でした。
今しか着れない浴衣や今しか感じられない歌、今しか愛せないものとともに高校二年生の夏という今を精一杯楽しんでほしいと思いました。

「ガールズ・ブルー」は夏に読むのにピッタリの小説だと思いました。
物語全体に漂う疾走感と切なさが印象的です。
中学生や高校生の夏休みの読書感想文にも良いのではと思います。
続編となる「ガールズ・ブルーⅡ」も出ているようなのでそちらも読んでみたいと思います。


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2 コメント

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Unknown (ビオラ)
2016-06-28 12:54:45
落ちこぼれ高校に通う理穂。
17歳の誕生日を目前に控えて失恋してしまう理穂。

落ちこぼれとか、失恋とか・・・、この時代は、お勉強や恋愛で、色々な体験をして、苦悩したり、幸せを感じたり、一喜一憂したりして、色々あるんだけど、数年後に振り返ってみれば、苦労も苦い思い出もひっくるめて、良い思い出と人生の糧になっていそうです

そこには、喧嘩したり、笑いあったりした、悪友や大切な友達もいたりして。

大人になったら、こんな体験や感じ方はできないであろうと言う、貴重な青の時代ですね~

ビオラさんへ (はまかぜ)
2016-06-28 17:29:37
たしかにこの時代は一喜一憂する色々なことがありますね。
そして時が経ってから振り返ると思い出として受け止められたりもします。
大人になると濃密に過ごす時間は減っていくのでほんとにこの時期だけだと思います。
青春の時代はぜひ大事にしてほしいです

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