読書日和

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「波打ち際の蛍」島本理生

2008-09-23 13:22:16 | 小説
最近読んだ本の中で一押しの作品です。
今回ご紹介するのは「波打ち際の蛍」(著:島本理生)です。

-----内容-----
蛍、あなたに触れたいのに。
DV、刻まれた怯え、求める心と拒む体…
痛みを超えて、もういちどわたしたちは、恋をする。
「この恋愛小説がすごい!」2006年版1位の『ナラタージュ』を超えた、最大熱量の恋愛小説!!

-----感想-----
まさに、最大熱量の恋愛小説でした。
淡々とした作品世界の中に、もう一度人を好きになることに向かっていく、熱い感情の揺らめきがありました。
このギャップが特徴的でした。
小説の世界感は島本理生さん特有の静かで穏やかな感じなのですが、主人公・川本麻由の揺れる心の何とももどかしいこと…
相談室で出会った植村蛍と少しずつ仲良くなっていくのですが、麻由は発作的に感情が混乱することがあって、戸惑ったり拒絶したり、二人の距離は思うように縮まりません。

麻由には元彼の関口遥からDVを受けていた過去があって、心に深い傷があります。
別れてから時間が経った今でも、ちょっとしたことがきっかけで感情が不安定になってしまいます。
蛍と一緒にいるときでも、そうなってしまうことがあります。
蛍のことが好きだという気持ちと、でも怖いという気持ちがごちゃまぜになって、揺れ動く感情にすごくリアリティがありました。
結局殻に閉じこもることを選んでしまう自分に嫌気が差すこともあるようです。
でも、大丈夫、蛍はそんな麻由を受け入れてくれます。
決して責めたりはしないし、麻由が落ち着くのを待っていてくれます。
ときに気まずくなったりもしながらも、ゆっくりと歩んでいく二人。
どんな結末を迎えるのか、ぜひ色々な人にこの本を読んでほしいなと思いました。

さすが島本理生さんだけあって、文章に透明感があります
その透明感に触れているうちに、一つ一つの文章を丁寧に読みたいと思うようになりました。
この作品は大切にじっくり読んでいきたいと思わせる魅力がありました

私はナラタージュよりこちらの作品のほうが良いかもと思いました。
ナラタージュも良い作品でしたが、この作品は透き通るような透明感があって、読んでいて心地良かったです。
文章も凝ったものはあまり使っていなくて、読みやすかったです。
一つ、すぐには理解出来なかったのが、麻由が自分の部屋を出るとき、目覚まし時計をセットしていた場面。
前後の文章から見ても、目覚まし時計は全く脈絡がなかったので、唐突に出てきたこの文章に?となりました。
しばらく考えてから、なるほど、と納得がいきました。
もし読む機会があったら、どんな意味か考えてみてくださいね
文章から意味を読み取るのは、なかなか奥が深いものです。

この作品にはぜひ何か大きな賞を取ってほしいです。
作品の随所に見られるクールで美しい世界感がそう思わせます。
もともと島本理生さんは芥川賞候補にも何度かなっているし、とても力のある作家です。
これからも頑張っていってほしいなと思います

※図書レビュー館を見る方はこちらをどうぞ。
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12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ビオラ)
2008-09-24 00:39:33
すごく説得力のある読みがいのある記事です^-^

秋の読書日和にふさわしい内容。
この記事は、私なんかより、読書日和の”小説記事のファン”・・・の方々にいち早く読んでほしいですね^0^

私なんかでも記事読んでいて興味が沸くくらいだから、本好きの人達にはその何倍もの興味が沸く事と思います。

後半に書かれている”目覚まし時計”のところが気になります。これが気になるからと読んでしまいそうです^^;単純な理由・・・。


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ビオラさんへ (はまかぜ)
2008-09-24 08:50:10
この本はかなり良かったので、色々な人に読んでほしいなと思いました。
なので、記事も気合いが入っています^^

興味を持ってもらえて嬉しいです。
機会があったらぜひ読んでみてくださいね☆
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あ”~~ (latifa)
2008-09-25 10:30:56
はまかぜさん、こんにちは!
目覚まし時計のエピソード、覚えておらんとです・・・(x_x)
もう図書館に本を返却しちゃった後で、ガーン!!
相変わらず自分は読みが浅いなあ・・・と、はまかぜさんの丁寧なレビューを拝見し、改めて感じさせられました。

私もナラタージュより、こちらの小説の方が好きです♪
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latifaさんへ (はまかぜ)
2008-09-25 12:20:55
こんにちは^^
この作品、まだ発売して2か月弱ですが、もう図書館に登場しているとは驚きです。
目覚まし時計のエピソードは、本当にちょっとしたものです。
前後の流れの中で、その文だけ違う雰囲気だったので気になりました。

島本理生さんはこういった作品を書くのが上手いなと思います。
とても心に残る作品でした☆
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Unknown (しんちゃん)
2008-09-25 12:32:58
はじめまして。
ナラタージュより、さらに進化した作品だと思いました。
嫌いではなかったのですが、泣かせようという技巧がちらちら見えて、そこが気になった記憶があります。
本書は感情だけで読ませて、さらに自然体でもありました。
すべてが解決するわけではありませんが、気持ちよく本を閉じることができました。
もうひとつ上に行って欲しい作家さんですね。
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しんちゃんさんへ (はまかぜ)
2008-09-25 23:30:18
自然体、私もそう思います。
作品の世界感が綺麗で読みやすかったです。
重いテーマも含まれていますが、悲しい感じはしなくて、麻由と蛍の歩んでいく姿に好感を持ちました。
島本理生さんなら、もう一つ上に行くと思います
次の作品も楽しみです
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Unknown (藍色)
2008-09-27 02:55:01
はじめまして。
傷ついた麻由の戸惑いと悲しみに、寄り添っていく蛍のあたたかさがよかったです。
とっても素敵な作品でした。

トラックバックさせていただきました。よろしくお願いします。
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藍色さんへ (はまかぜ)
2008-09-27 10:40:35
はじめまして☆
蛍の温かさは良かったですね。
この二人なら、困難を乗り越えていけると思います。
今まで読んだ島本さんの作品の中で、一番良い作品だったような気がします。

トラックバックありがとうございます。
私も藍色さんのレビューを読ませて頂きますね^^
返信する
Unknown (masako)
2008-09-29 01:02:34
こんばんは。
訪問が遅くなってすみません。
本当麻由が抱えている問題は結構重いのに、透明感のある優しく綺麗なお話でしたよね。
そして未来あるラストがいいな、と思いました。
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masakoさんへ (はまかぜ)
2008-09-29 08:52:25
masakoさん、こんにちは☆
この物語はとても透明感がありましたね。
ラストも、今後に期待が持てる感じで良かったです。
この二人ならうまくやっていけると思いました♪
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