読書日和

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「鵬藤高校天文部 君が見つけた星座」千澤のり子

2018-04-08 13:46:50 | 小説


今回ご紹介するのは「鵬藤高校天文部 君が見つけた星座」(著:千澤のり子)です。

-----内容-----
心を閉ざしていたわたしをあなたは天文部に引き入れてくれた。
そこで起こった「いくつかの事件」を経験して、わたしは、あたたかな世界のあることをふたたび知ることができた。
ずっとこのままでいたい。
でも、わたしはひとつ、大きな嘘をついていた……
星と星座をめぐる学園青春ミステリの傑作!

-----感想-----
千澤のり子さんの作品を読むのは初めてで、高校を舞台にした学園青春ものなところに興味を持ちました。
五話あり、ミステリー作品なのでどの話でも何らかの事件が起きます。

「見えない流星群」
五話とも語り手は鵬藤(ほうとう)高校の菅野美月(みつき)です。
美月は高校の合格発表の帰り道、事故に遭います。
駅のホームで電車到着のアナウンスの後、右隣にいた人が線路に飛び込もうとしたため咄嗟に左腕を伸ばしその人を押し戻して助けます。
その時に左腕が電車に接触して重傷を負い、肘から先を切断します。

リハビリが長引き初めて登校できたのは高校一年の四月の終わり近くでした。
普通の子のように友達を作って楽しく過ごすのはできそうにないと思いとても冷めた考えになっていて、文章も淡々とした雰囲気なのが印象的でした。

5月の半ば、美月がバス停に居ると同じクラスの高橋誠(まこと)が話しかけてきます。
高橋は天文部に入っていて美月も入らないかと言います。
美月は天文部の部室になっている理科準備室を訪れ、二年生で部長の中村圭司に会います。
現在の部員は二年生が四人、一年生が二人で、中村は天井に北斗七星を投影しながら、美月が入部してくれたら天文部は北斗七星と同じ人数になると言います。
美月は入部することにします。

天文部に入り二週間経ち、学校で一晩中観測をする「徹夜観測」が行われます。
二年生は中村の他に佐川ひとみ、榊原大和(やまと)、霧原真由美がいます。
佐川は小柄でいつも部員達の面倒をよく見てくれ、榊原は体格がよく口調は荒っぽく、生徒会の役員もしています。
霧原は背中まであるまっすぐな黒髪の人で、学校で一、二を争う美人で他校にもファンが多いとのことです。
一年生は高橋の他に村山友紀(ゆき)という女子がいます。
クラスは違っていて、美月と廊下ですれ違ってもほとんど口をきかないとありました。

中村が美月の体調を心配し、榊原が「俺らだって図体は大人なんだし、かわいい後輩のためならなんでもするぜ」と言った時、美月は咄嗟に「わたし、かわいい後輩なんかじゃない」と言います。
左腕のことが気になっているのだと思いました。
そして最終話を読むとそれだけではなかったことが分かります。

屋上での徹夜観測の日、佐川が部室棟が変な風に光っているのに気づきます。
そして一瞬だけ電気が点きすぐに消えてしまいます。
さらに部室棟の理科準備室に行っていた榊原が大声を上げながら戻ってきて「先生が山岳部の部室で死んでる!」と言います。
高校が舞台の青春ミステリーならほのぼのとした事件が起きるのかなと思っていましたが、まさか顧問の先生が遺体で発見されるとは驚きました。

殺人者の存在に部員達が不安を感じる中、美月は次のように思います。
わたしはみんなよりも怯えていない。事故に遭ってから、怖いものがなくなったせいだ。人が死んだのに、悲しくもない。一大事なのに、感情が戻ってこないのだ。
退院して日常生活が送れるようになっても精神は沈み込んでいるのがよく分かる言葉でした。

高橋と中村が天文部員の中に先生を殺した犯人がいるのではと言います。
村山が美月を疑いますがすぐに疑いは晴れ、「疑ってごめん」と言います。
勝ち気な村山ですが自身が悪い時には謝ることができ、この言葉を見て二人が仲良くなる予感がしました。


「君だけのプラネタリウム」
美月は村山から屋上で昼食を誘われます。
さっそく二人が仲良くなって良かったです。
村山は一年五組の小早川美紀が土曜日の夜、下校中に変質者に髪を切られたのを知り美月に教えてくれます。

屋上では中村も昼間の天体観測をしながらこの話を聞いていました。
村山は中村のことが好きです。
中村はその事件に関係しているかもと言いながらポケットから一枚の写真を取り出します。
その写真は屋上から夜の梨畑を撮っていて、写真の上部にビーズのような細かい光がいくつも写っていて、乙女座の形に似ています。
中村は「地上に輝く星座かもしれません」とロマンティックなことを言います。
その写真を撮っていたのと同じ日の同じくらいの時間に、撮影場所のすぐ近くで変質者の事件が起きていました。

今週末に学園祭が開催されます。
天文部は高橋がプラネタリウムを作りたいと提案し、映像を投影するためのドームを段ボールで作っています。

美月が高橋と話している時、「わたしの時間は、失くした左手と一緒に止まったまま」と胸中で語っていました。
それでも美月は高橋が好きになり気持ちが動き始めています。
高橋も明らかに美月が好きで二人の距離は近くなっています。

ドームの中に切られた黒髪の束が置かれる事件が起こります。
髪の毛は明らかに小早川のもので、変質者はこの学校の中にいるのではという考えが浮かび緊張が走ります。

さらにその直後、霧原が突然髪をベリーショートカットにして現れます。
霧原は前日の放課後、彼氏の「コーちゃん」に会うためにバスで県立高校に向い、早く到着したので近くの公園でブランコを漕いで時間を潰していました。
すると突然複数の男子生徒に大量のスライムを髪に投げつけられ、スライムが全く取れずに髪を切るしかなくなります。
中村は二つの事件は別々の人物による犯行と推理します。

この別々の事件が一つにつながる展開が面白かったです。
ある人物の恋心の狂気を感じました。


「すり替えられた日食グラス」
二年生の5月になります。
部活動長会議で、部員が十人に満たない部活動は同好会にすることが決まり、中村はこのままでは天文部は廃部になると言います。
一年生は戸田という男子が一人入っただけで部員は十人に満たないです。

もうすぐ金環日食を観測できる日になります。
佐川の家がやっている佐川製菓のラッピング袋が余っていて紫外線や赤外線をカットできる特殊なセロファンを使っているため、高橋がその袋を使って金環日食観測用に日食グラスを作って配り、新入生勧誘イベントにしようと言います。
高橋は中村と並ぶ天文部随一の天文の知識を持っています。

日食グラスは牛乳パックを使い、目の部分を切り抜いてそこにラッピング袋を貼って作ります。
高橋は「家の近所で牛乳パックを回収できたら回収してきて」と一斉送信メールをしますが、美月にだけ来ていないことが明らかになり美月は不機嫌になります。
すぐに高橋が不機嫌さに気づき「美月ちゃんだけメールを送っていなくてごめん。電話のときに言えばいいと思っていたんだけど、つい忘れてた」と言います。
すると美月は「別に高橋が悪いわけじゃないもん」と言います。
この砕けた口調を見て美月がかなり心を開くようになったのが分かりました。

なぜか牛乳パックが手に入らなくなります。
さらに昇降口に「ご自由にお取りください」と置いておいた日食グラスと、戸田が作ろうとしていた日食グラスがごっそり無くなります。
まるで何者かが天文部の新入生勧誘を妨害しているかのようでした。
そして盗まれた日食グラスが戻って来ますが、そのうちの62個が別の物にすり替えられていることが分かります。


「星に出会う町で」
期末テストが終わった7月初めの金曜日、美月は村山とファミレスに行きます。
金環日食観測後、新たに九人の一年生新入部員が入っています。

中村から理科準備室に集合してとメールが来て、部員が揃うと明日から一泊二日でボランティアに行こうと言います。
昨夜天文部OBの如月という先輩が所属する国立大学の天文サークルの飲み会で食中毒が起き、予定していた一泊二日のエコツーリズムという天文ツアーのボランティアに行けなくなり、代わりに天文部が行ってくれないかと頼まれました。
大学は鵬藤高校から二時間ほど離れた海沿いの星里町というところにありエコツーリズムもそこで行われます。
エコツーリズムとは自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さを理解してもらい、保全につなげることを目指す仕組みのことです。
急な予定のため行けない人もいて、美月も左腕がないのでは足手まといになるのではとためらいますが、高橋に誘われて行くことにします。

天文部のSNSにはロキというIDの人がよくコメントを投稿します。
その内容があまりに部の深いことを知っているため村山は「この人、ストーカーなんだ」と気味悪がっています。
天文部がエコツーリズムの場所に到着すると、ロキも参加していると個人ブログに投稿しているのを村山が気づき美月に教えてくれます。
誰がロキなのか気になり、文章を見るとどことなく中村に似ていました。

望遠鏡キットを使って望遠鏡を作ろうとした時、参加人数が一人多いことが明らかになります。
さらに田口という従業員が、昨日の朝に星里町出身の若い女性が不倫相手の子供を拉致し逃走する事件が起きたため、ここに来るまでにその女性を見なかったかと聞いてきます。
参加人数が一人多くなっていることから、その女性が拉致した子供を連れてツアーに紛れ込んでいるのではという考えが浮かびます。

夜になりみんなで夜空を見た場面は印象的でした。
全員で一斉に懐中電灯を消し、空を見上げる。少し雲がかかっているとはいえ、わたしたちの住む町よりも、ずっと星に近い。まさに〈星に出会う町〉だ。
これは田舎で夜空を見たことがある人はよく分かると思います。
都会の夜空とは全く違い空一面に星がきらめいています。

やがてロキの正体が分かり、一人多くなっていた人が誰なのかも分かります。
増えた人数の謎にも恋心が絡んでいて、恋心は時として大がかりなことをするのだなと思いました。


「夜空にかけた虹」
12月の半ば、美月が中学まで住んでいた町で白骨死体が見つかります。
25歳の女性で死因は自殺で、美月が左腕を失った事故で電車に飛び込もうとした人だったことが明らかになります。

冬休みの最後の日、美月は高橋に事故の詳細を初めて語ります。
高橋はこれまで一度も詮索したことがなかったとあり、良い人だなと思います。
私は人が話したくないことを詮索したがる人は好きではないです。

高橋が美月が一人で抱えていることはもうないかと聞くと美月は頷きます。
しかし美月には一つだけ伝えられないことが残っているとありました。

天文部は引退した四人の三年生を送る会の企画に入ります。
三月の下旬にするか卒業式の前日にするかで意見が割れ、一年の松本絵理と岸谷かなえが卒業式の前日にしたいと強く主張します。
二人は活発なタイプで村山でも手を焼くくらいです。
もう一人の一年生女子、大人しいタイプの鹿居(しかい)京子も卒業式の直前にしたいと言います。

村山は少しでも長く先輩達と一緒にいたい思いがあり三月の下旬にしたいと思っています。
美月も同じ考えで「送る会が終わってしまったら、本当に三年生の先輩たちとお別れになってしまう気がしている。」とあり寂しげでした。

鹿居が「夜の空に虹をかけませんか」と言います。
虹は太陽の光だけでなく月の光で現れることもあり、「月虹(げっこう)」「ムーンレインボー」「ナイトレインボー」などと呼ばれていて日本では滅多に見られない現象とのことです。
そんな虹は見たことがないので興味深かったです。
虹の多いハワイ島では時々見ることができ、「夜の虹はこの世で最高の祝福」と言い伝えられているとのことです。
鹿居は「お祈りをすると願い事が叶うとも言われているから、次の日に卒業していく先輩たちには、最高のプレゼントになると思うんです」と言います。
そしてこの案を卒業式前日の2月28日に行うことになります。
虹を作るために照明と散水で練習をしますが、進藤和也という一年生男子が照明を点ける合図の警笛を吹いた時、美月は事故を思い出し体が拒否反応を示してその場に膝をついてしまいます。

美月の携帯に送信者不明の、からす座の写真が付いたメールが送られてきます。
進藤がからす座の神話を教えてくれ、その内容から見てメールは美月を告発しようとしているのではと言います。

美月は進藤が最近美月にかしこまった態度を取るようになったのを気にしています。
何かを言いたげでしかし上手く切り出せないように見えるとありました。

美月は村山と隣の県にある大型ショッピングモールに出掛けます。
美月は中学まではその近くに住んでいて、同級生に会いたくないから行くのをためらったと言います。
村山が「菅野は事故の被害者なんだから、身体が不自由なことをそこまで気にすることないと思うけどなあ」と言うと、美月は「本当は別のことを気にしているなんて、言えない。」と語ります。
高橋に言えなかったことでもあり、どんなことを気にしているのか気になりました。

村山は進藤が美月に惚れているのではと言います。
さらに鹿居が進藤を好きなため、美月は鹿居と仲の良い松本と岸谷から逆恨みされているとも言っていました。
そんな時、また美月にからす座の写真が付いたメールが送られてきます。

三年生を送る会に向けて理科準備室で割れないシャボン玉を作る練習が行われている時、そこを訪れた美月が床にこぼれていたシャボン玉液に足を滑らせ、はずみで洗面器のシャボン玉液を頭からかぶってしまいます。
研修棟のお風呂場でシャワーを浴びて出ると何者かが脱衣場に浸入したことに気づきます。
美月の周りで不穏なことが起こります。

やがて美月の秘密が明らかになります。
そして美月が進藤のノートパソコンを見た時、事故の日付がタイトルになっているフォルダがあるのを見つけ、これを偶然だとは思えず、進藤が事故の何かを知っているのだと悟ります。
美月は進藤の家に行き話を聞くことにします。

やがて美月は誰がからす座の写真のメールを送っていたのかに気づきます。
最後は久しぶりに先輩達が登場し、送る会での旅立ちの場面を迎えます。
美月も高橋に話せずにいたことを打ち明け、より仲の良い恋人になりそうな終り方になっていて良かったです。


美月が秘密にしていたことは、順調で楽しい高校生活を夢見ていた人にとってはやはり言いたくないことだと思います。
そして事故に関係することを話したくない美月の胸中を慮って一切聞かなかった高橋も偉いと思います。
話したくなった時に話すのが一番良いと思います。


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