「景気が良かった前回は、みんなにお願いして7~8人でやったんだけどね」
その畳職人は250畳もある本堂の隅、一人で88畳目の畳替えの最中だった。
1日に7~8畳だというが、いったいいつまでかかるのか。気の遠くなるような話。修行か。
でも彼にしてみれば、これまで何十年、何千枚と繰り返してきたうちの、たったの250なのかもしれないが。
昨日は本堂内の気温1℃だったらしい。
射し込む陽の光を背に、いつしか高僧のようにも見えてくるのだった。
子供の頃、ウチの庭で職人さんがヤカンの水を口に含んでプーって畳に吹きかけて…
「あぁ、ウチのおやじもやってた、やってた」
と笑う。
「でも、オレは初めっからこれだったなぁ」
立ち上がると彼は、大きな霧吹きでシューっと勢いよく畳に水をかけてみせた。