「若松」
「河田」
まるで、一人一人出席をとるような言い方で車内アナウンスが流れる。
今日は大江戸線の若松河田駅近くの会社に仕事でおじゃました。
「ワカマツカワダ」と一気に言わないところが、何か町名を無理矢理くっつけてしまったという経緯を匂わせている(いないか!)。
初めて降り立った(いや地下鉄だから昇り立った)この町は、住宅地の様相。早稲田にも程近いということで、林立するマンションの間に古びた下宿屋風の民家もちらほら。
会社も、夏目漱石の生家があるという由緒ある「夏目坂」の途中にあった。
帰途、大いに期待して脇道に迷い込み、いつものように10分散歩。
残念ながら、面白い風景に出会えずにトボトボと駅へ。
ところが、その駅の入口の右側だけが周囲の風景と異なっていることに気づく。
そこだけ見通しのいい土地に、大きな木がそびえている。
その木を中心に黄色っぽい洋館が翼を広げるように静かに建っていた。
よく見ると「CAFE&BAR」の文字が。
散歩にも付き合ってもらった上司と共に、吸い込まれるように歩みを進める。
もちろん、仕事の打ち合わせであることは言うまでもない。
「いい話が聞けましたね」
「うん、その木にエサ箱がつるしてあるから小鳥がたくさん来てるな」
「じゃあ、スケジュールはこんなカンジで」
「そうとう古いぞ、ここは」
「えぇ、誰かのお屋敷だったんでしょうね」
「雰囲気あるよなぁ」
「ですよね。あっ、すみません写真撮らせていただいてもいいですか」
「結構ですよ、どうぞどうぞ」(ここでコーヒーを運んできた品の良いウエイトレスさん登場)
隣にはラテン語を喋る外国人さんたちも着席。
どんなところだ、ここは…と思っていたら、パンフレットが置いてあった。
昭和2年に建てられた『小笠原伯爵邸』とのこと。
貴族であると同時に、あの「小笠原流礼法」の小笠原氏らしい。
長い間使われていなかったそのスパニッシュ様式の洋館を、2002年に復興させたとある。現在は、このカフェ&バールをはじめ、レストランやハウスウエディングに使われている。
外では落ち葉を掃いている女性が二人。ガサガサという音も、秋の夕暮れに心地よく響く。
帰り際、デジカメを構えているのを咎められそうな気がして、急いでパチリパチリ。おっと、さっきの外国人たちが横付けされた長ーいピカピカのリムジンに乗り込んだ(いったい何者?)。
重厚で、でもどこか温かみのある店内は、休日の午後に本を読みながらゆっくり過ごしたい、とてもステキな空間だった。
今日は、あくまでも“仕事の打ち合わせ”だったので残念。
熱いやつを冷たいグラスにお客が移すスタイル ひさしにも凝った細工が施されている
よくある古い邸宅風とは格が違う 大きな木が印象的。実はウラもスゴイらしい