錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

中村錦之助伝~『お坊主天狗』(その3)

2013-06-02 23:47:10 | お坊主天狗・新選組鬼隊長
 片岡千恵蔵は、『お坊主天狗』で錦之助と初めて共演して、すっかり錦之助が気に入ってしまった。演技も素直で、人間的にも素直で好青年だと思った。演技が素直だというのは、錦之助が歌舞伎界から来たのに変に固まっていないという意味である。歌舞伎役者は、小器用に段取りだけ覚えて、型にはまった芝居をすることが多いが、映画の世界ではこうした芝居は通用しないというのが千恵蔵の持論だった。映画では、役者が役の人物に成りきって演じないとリアリティ(実在感)がなく、観客に感動も与えられない。演じる役者が、その役の人物と一体となって、全身で表現することが重要である。それは、千恵蔵自身、歌舞伎役者から映画俳優に転じ、これまで数多くの映画で主演して来た経験から得た確信であった。錦之助は、若いにもかかわらず、この演技の根本が分かっていて、それを実践しようとしている。そのうえ、意欲も向上心も旺盛で、監督だけでなくスタッフや先輩俳優に教えを乞い、それを取り入れようと常に心がけている。その点でも錦之助は非常に素直で、千恵蔵は好感を持った。人気が出て、ファンが急増したのは錦之助にスターの魅力があるからである。が、これからは人気に負けないだけの実力を備え、代表作といわれるほどの作品を生まなければならない。千恵蔵は錦之助に、大きな期待を込めて、こんな激励の言葉を送った。

今の錦之助君は、見事に花咲いたところです。ところが花が咲いても、実を結ばなくてはなんにもなりません。大いに勉強して、立派な実をみのらすことを願ってやみません」(「平凡スタアグラフ」昭和29年11月発行)

 千恵蔵は自分の後継者に最もふさわしい若手は錦之助であると感じた。錦之助を東映の看板俳優に育てるだけでなく、これからの時代劇映画をになう看板役者に育てよう。そのためには自分も惜しみなく力を貸し、長年の経験から得たノウハウを錦之助に伝えてやろうと思った。千恵蔵は、同じ文章の中で「私たちが三十年間いろいろ苦労したエキスを注入してやれば、きっと錦之助君はますますよくなると思います」と語り、錦之助の更なる成長を望んだ。



 『お坊主天狗』のあと、千恵蔵は、『新選組鬼隊長』ですぐにまた錦之助と共演し、自分とがっぷり組んで芝居をさせる。千恵蔵の近藤勇、錦之助の沖田総司であった。
 そして、その二年後、『曽我兄弟 富士の夜襲』(昭和31年10月公開)では、千恵蔵が逆に助演にまわって、源頼朝を演じ、ラストで錦之助の曽我五郎と対決して、がっぷり四つの芝居をした。この頃の錦之助は、千恵蔵の期待した以上の成長ぶりで、演技力では千恵蔵に勝るとも劣らぬレベルに達していた。そして、役者としての魅力とスター性では千恵蔵をすでに凌駕していた。



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