錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『八百屋お七 ふり袖月夜』(その1)

2013-05-19 22:17:25 | おしどり若衆・いろは若衆・ふり袖月夜
 『八百屋お七 ふり袖月夜』について書く。
 まず、この映画の惹句(キャッチコピー)を挙げよう。
「溜息の出るような恋  名コンビひばり錦之助の美しい時代劇!!」(ポスターの惹句)
「ひばりの歌・錦之助の剣! 緋鹿子もしとど濡るる恋 月夜、ふり袖の色は匂えど 切なきお七吉三の恋」(宣伝パンフの惹句)



 データは、以下の通り。
1954年(昭和29年)9月7日公開 92分 モノクロ スタンダード
企画:福島通人 原作:樋口大裕、旗一兵 脚本:舟橋和郎
監督:松田定次 撮影:川崎新太郎 美術:桂長四郎
音楽:万城目正 照明:中山治雄 録音:佐々木稔郎 編集:宮本信太郎
【出演(役名)】
美空ひばり(八百屋お七) 中村錦之助(生田吉三郎)
小杉勇(八百屋久兵衛) 堺駿二(豆松) 市川春代(お千代) 加賀邦男(生田左門) 永田靖(上州屋金右衛門) 大泉滉(上州屋千太郎) 原健策(湯島の竹) 山茶花究(拓植十太夫) 島田伸(吉祥寺の住職) 高木二朗(旗本若林) 時田一男(旗本原) 中野雅晴(旗本田口) 有馬宏治(甚内)

 今では見られない映画である。ひばりと錦之助の共演第三作。ひばりの八百屋お七、錦之助の吉三郎、どちらもピッタリだったような気がする。
 ひばりは町娘がよく似合う。時代劇での話だが、私はお姫様や武家娘のひばりより、町娘のほうがずっと好きだ。
 錦之助は前髪若衆。すかっとして爽やかな若者がいい。この映画の錦之助の吉三郎も、そうしたタイプだったようだ。残念ながら私はこの映画を見ていないので、資料や写真を見て推測するにすぎないが、プロマイドを見ると錦之助が飛びぬけて美しい。



 昔この映画を見て、錦之助の美しさに魂を奪われたとおっしゃるファンも多く、この映画の錦之助の素晴らしさは語り草になっている。前の二作では美空ひばりに押され気味でひばりの風下に立っていた錦之助が、この映画でひばりに負けない魅力を存分に発揮し、本物の主演男優になったという評価を得たようだ。
 八百屋お七の物語は、井原西鶴の「好色五人女」をはじめ、江戸時代から歌舞伎、人形浄瑠璃、芝居、落語、小説ほか数限りなく取り上げられているようだが、この映画の原作は不詳である。「キネマ旬報」のデータ(東映が提供した宣伝用パンフを元にしている)によると、原作は、樋口大裕(祐)、旗一兵とある。旗一兵は、新芸プロの製作部長で、映画の原案者から脚本家になった有名な人物であるが、樋口大裕という人が今のところまったく分らない。ひばりと共演した雷蔵のデビュー作『歌ごよみ お夏清十郎』(1954年11月 新東宝)の製作者名に、福島通人と連名で彼の名前が出ているだけである(こちらは樋口大祐となっている)。新芸プロに関わる人物なのかもしれない。
 映画『八百屋お七 ふり袖月夜』は、原作というより原案を樋口と旗が考え、それを脚本家の舟橋和郎(作家舟橋聖一の弟)がまとめたものだったと思われる。
 いずれにせよ、原案も脚本も、ひばりと錦之助のために練り上げて作ったことは確かだろう。従来の話のように八百屋お七が寺小姓に惚れて、火付けの大罪を犯し、処刑されてしまうのでは、ひばりに不適当だし、寺小姓がへなへなしたヤサ男では錦之助に向かない。
 これまでの八百屋お七の物語(といっても色々あるようだが)を大幅に変えて、ひばりと錦之助の両方のファンが満足するようなストーリーに作り変えている。
 ひばりのお七は、八百屋の父親(小杉勇)と二人暮し。母親(市川春代)とは生き別れたという設定。火事で焼け出され、寺に仮住まいする。ここで、吉三郎を見初めるのだが、この辺は従来と同じ。が、吉三郎のキャラクターがまったく違う。
 錦之助の吉三郎は、武家の次男坊で(両親は亡くなったようだ)、子供の頃、寺に預けられ、今は剣道に励む正義感の強い若者、すなわち前髪の美剣士という設定。兄(加賀邦男)は町奉行所の与力である。
 二人の出会いという発端と、最後にお七が火の見櫓に昇って、半鐘を鳴らすクライマックスはそのまま生かし、あとは、時代劇によくあるパターンを盛り込んでいる。
 悪徳商人(永田靖)と奉行所の悪役人(山茶花究)の陰謀。母恋い話。お七を恋慕する頭のおかしい若旦那(悪徳商人の息子)を登場させ、お七が八百屋を焼失した父親の窮状を知って、この馬鹿旦那(大泉滉)に嫁ごうとする話まで加えている。
 要するに、ひばりを悩ませたり、窮地に追い込むようにして、錦之助がひばりを助け、悪事を見破って正義の剣を振るう展開に変えたわけだ。ラストは、従来の物語とはまったく変え、意表を突いたハッピーエンド。ひばりと錦之助が、放免され、最後は結ばれる。江戸を所払いになって、二人で旅に出る終わり方だったのではなかろうか。道中、錦之助がひばりをおんぶする場面が入れ、ひばりの歌で締めて、ジ・エンド。





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