錦之助ざんまい

時代劇のスーパースター中村錦之助(萬屋錦之介)の出演した映画について、感想や監督・共演者のことなどを書いていきます。

『唄ごよみ いろは若衆』

2013-02-27 03:06:14 | おしどり若衆・いろは若衆・ふり袖月夜
 『唄ごよみ いろは若衆』は、もう見られない映画なので、どんな映画だったのか、想像しながら書いてみよう。上映時間87分。それほど長い映画ではないが、ストーリーは長編並みである。



 錦之助は、稲葉弥之助という名で、土浦藩の重臣の子。土浦なので今の茨城県だが、この物語の時代は幕末だから、常陸の国である。父の弥左衛門(河部五郎)は勤王方の改革派だったが、対立する悪家老(高田稔)に謀られ、殺されてしまう。弥之助、つまり錦之助は、この時、まだ前髪のお小姓だった。


(今にも泣き出しそうな錦ちゃん)

 弥之助には弥吉郎という兄がいた。この役を徳大寺伸が演じていて、なかなか良かったらしい。弟思いの心情がにじみ出て、錦之助も共演中、「いつしか本当のように感じられてきて思わず僕は涙を流しました」と語っているほど。
 父を殺され、二人の兄弟も殺されかかるところをなんとか脱出した。
 ここで初めの数分が終ったと思われる。

 さて、場面は変わって、下総の国(千葉県)の神崎村。
 ここで弥吉郎と弥之助の兄弟は仲良く暮らしている。
 兄弟を助けて世話をしているのは、土地の顔役の忠吉(高松錦之助)とその娘お花(千原しのぶ)だった。兄の弥吉郎は、父の遺志を継ぎ勤王の志を抱いて、毎日読書にいそしんでいる。徳大寺伸にぴったりの役だ。一方、弟の錦之助、いや弥之助の方は、ぐれてしまった。やくざのアンちゃんみたいになっている。菊丸や犬飼現八とは全く違う錦之助のこの変わりように、ファンはアッと声を上げたにちがいない。
 そこへお花が現れて、三人の会話。兄はお花に惚れていて、お花に対し、やけに親切である。弟もお花が好きなのだが、そんな素振りは見せない。で、お花はどうかと言えば、インテリで堅物の兄貴より、不良っぽいが若くて可愛い弟の方に恋心を寄せている。そういう設定であろう。


(千原しのぶが錦ちゃんを見ている視線に「好きよ」という感じが表れている)

 ある日、兄が自ら歌を作って詠んでいた。それを見た弟が、照れる兄を尻目に、その歌に節をつけて唄う。この場面は重要な伏線で、のちにこれが「投げ節」(流しの小唄)になる。
 しかし、この平穏な日々も長くは続かなかった。
 鎮守の祭りの日、兄弟を探索していた土浦藩士たちがお花を見つけ、家に押し入って来た。お花の父の忠吉は斬り殺され、家に居た弥之助は、匕首(あいくち)一本で藩士たちに立ち向かう。藩士の西村という悪役は吉田義夫で、あの恐い形相で錦之助に襲いかかってきた。


(網の長者やオンゴ将軍など、錦ちゃんの初期の映画には欠かせない悪役吉田義夫)

 急を聞いた兄の弥吉郎が駈けもどり、旅の武士牧瀬伊織(加賀邦男)の助勢を借りて、藩士たちと斬り合う。弥吉郎は、弟にお花を託して、
「この場はわれわれに任せて、早くお花さんを連れて逃げるんだ!」
 ここまでで30分ほどか。

 それから十数日後、成田街道を歩いていく若い男と女の姿があった。
 弥之助とお花、つまり錦之助と千原しのぶである。弥吉郎が江戸に出たことを聞いて、彼を探しに二人で江戸へ向かう途中だった。
 その頃、弥吉郎は浅草の芝居小屋に身を寄せ、牧瀬伊織ほか勤王派の同志たちに加わっていた。一座の太夫・お千代(喜多川千鶴)は弥吉郎に思いを寄せ、一座の男はそれをねたんで悪さをするのだが、このあたりは、錦之助とは関係ないのでカットしよう。
 
 さて、江戸に着いた弥之助とお花は、忠吉(お花の父)に恩義のあった銀次(川田晴久)の世話で、長屋住まいを始める。二人は日が暮れると、日銭を稼ぐため、いっしょに色街へ出た。お花は鳥追い姿で三味線を弾き、弥之助は投げ節弥之と称し、流しの歌手となって、兄の歌に節をつけて唄い歩くようになっていた。お花は弥之助を慕い、弥之助もお花に恋していたが、兄を思うと、弥之助はなぜかお花によそよそしく、冷淡になってしまうのだった。ここが、この映画のハイライトであろう。写真を見ると、錦之助と千原しのぶの粋な芸人姿がなかなか良い。


(錦ちゃんのつれない素振りに悲嘆に暮れる千原しのぶ)

 錦之助の唄う挿入歌「投げ節弥之の唄」は、一番から三番までを三つの場面で順番に披露していったのだと思うが、この場面では三番を唄ったのではなかろうか。
 三番の歌詞は以下の通り。作詞は野村俊夫、作曲は上原げんと。
 
 今ぢゃその名も投げ節弥之と 粋な唐桟(とうざん)裾ばしょり 
 恋をゆづるも弟なれば 旅の夜風に男泣き



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