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この世界の憂鬱と気紛れ

タイトルに深い意味はありません。スガシカオの歌に似たようなフレーズがあったかな。日々の雑事と趣味と偏見のブログです。

インシテミル。

2009-06-21 22:22:54 | 読書
 米澤穂信著、『インシテミル』、読了。

 意味不明なタイトルとアニメチックな表紙に騙されてはいけない(騙されるっつーか、敬遠する)。
 米澤穂信の『インシテミル』は極上のエンターティメント・ミステリーだ。

 あなたが割のいいバイトを探していたとする。
 コンビニに行って、バイト情報誌を手に取ってみる。
 ふと開いたページに「モニター募集」の短期バイトが載っている。
 期間は七日間、時給は一一二○百円。
 時給1120円かぁ、なかなかいい条件だな、あなたはまず最初にそう思う。
 いや、待てよ。これ、間違ってるよな。一一二○百円なら、十一万二千円ってことにならないか?よくあるよなぁ、こういう誤植。
 ものは試しにこのバイトに応募してみる。
 後日主催者からあなたに採用の旨を知らせる連絡が入る。
 その際主催者は誤植を指摘するあなたにこう答える。
 時給十一万二千円は間違ってなどいない。それどころかそれは最低限の金額なのだと。
 こうして『インシテミル』は始まる・・・。

 本格ミステリーというのは本格ミステリーであるがゆえにしばしば不自然な物語の展開をする。
 一例を挙げれば殺人鬼が徘徊する館で、なぜかしら登場人物たちは一人で夜を過ごす。
 それが本格ミステリーというものだといわれればそれまでだが、自分には本格ミステリーのそういった不自然さがどうにも受け入れられず、あえて本格ミステリーを忌避してきた感がある。
 本書においても登場人物たちは殺人鬼が徘徊する館で、一人で夜を過ごさなければならない。
 だが、そうしなければならない理由付けがきちんと為されているので、本格ミステリーにありがちな不自然さというものはない。
 それに留まらず、作者は細部にまで留意し、最大限に展開の不自然さを排除している。
 見事だと思う。

 見事なのはそれだけではなく、まったく予想のつかない展開でありながら、それでいて真犯人の動機がほとんど最初の章で示されている、というのも甚く感心してしまった。
 また、探偵役の人物が最後に魅せる決断もカッコいい!と思ってしまった。
 名推理をする探偵はごまんといるが、本書の探偵役がするような決断が出来る探偵はそういないのではないだろうか。
 続編を期待させる終わり方も冴えていると思う。

 手離しに褒め称えていい作品だとは思うけれど、画竜点睛を欠いたのが367p。
 安東が言う。
「多数決だ。安東が大迫と箱島を殺した。賛成なら、手を挙げてくれ」 

 いうまでもなく、これは安東の台詞なのだから、安東が安東を告発するわけがない。ここでの正しい人物名は結城である。
 誤植ではないかと思わせて誤植ではなかった、という導入なのだから、当然作中にも誤植などあって欲しくなかった。
 その一点を残念に思う。
コメント (2)
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