ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 脇坂紀行著 「欧州のエネルギーシフト」 岩波新書

2013年05月24日 | 書評
脱原発と脱化石燃料に取り組む欧州の21世紀エネルギー政策 第8回

2)脱原発を進める国々(ドイツ、イタリア、スイス、ベルギー) (2)
 2011年6月13日、イタリアで原発をめぐる国民投票が行なわれた。投票率は55%、うち原発凍結賛成が94%を占めた。これを自民党の石原幹事長は「集団ヒステリー」と呼んだ。石原氏は国民投票で9割が原発反対でも、原発は止められないというのだ。これは政治家らしからぬ発言である。なぜこんあ発言が出えるのかというと、議会民主主義制度をとる国では国民投票の利用は制限され、その結果に法的拘束力は無いと解釈される。ドイツでも国民投票への警戒心が高い。しかしイタリアでは憲法第75条で、法律の効力を廃止するには人民投票を行なうとしている。ただし租税、予算、大赦、減刑、国際条約はこれになじまないとする。1946年サヴォイア王制の廃止を国民投票で決め、王は外国へ亡命した経験がある。1974年「離婚法の存続」が国民投票で認められた。1987年11月原発をめぐる国民投票で、原発建設に国家が介入しない、発電量に比例した助成金を廃止する、国外での原発建設を排除することが決められ、同年12月国会は原発廃止の法律を成立させた。2011年6月の国民投票は2回目の同じ内容の国民投票であったが、何度も意思表示をするのがイタリア人の国民性かもしれない。もちろんイタリアでは原発は運転されていない。ところがあいまいなところも多いのがイタリアの国民性でもある。国営電力公社エネル社が東欧で原発の新増設に係ったり、電力の1割はフランスから輸入しているが、フランスからの電力は原発である。欧州の国境のあいまいなことは日本の島国根性ではなかなか理解できない。

 2011年5月25日スイス連邦政府は閣議決定によって、国内の5基の原発を順次閉鎖してゆく事を決めた。直接民主主義の国スイスが国民投票をしなかったことに驚かされた人も多かった。そのスイスが即断即決で閣議決定をしたのだ。しかし廃止時期を2034年と余裕を持たせているところがミソである。50年の寿命を全うするまで待とうという戦略である。もちろんそれまでに代替エネルギーの選択をしなければならない。スイスの原発依存率は総発電量の40%、水力発電が50%である。スイス政府のエネルギー庁は福島原発事故前に次の3つの選択肢の検討を指示している。①現状のエネルギーミックスの継続、②5基の原発は耐用寿命で運転を停止し更新しない、 ③耐用年数前の原発から早期撤退するということであった。今回の閣議決定は第2の選択肢を選んだ事になる。スイスと同様福島第1原発事故後に歩を進めた国にベルギーも挙げられる。2011年10月連立政権は2025年までに原発7基の全廃を目指すことで合意した。ベルギーの原発は総発電量の50%以上を占めているので、スイス以上にハードルは高い。欧州の小国は日本でいうと1県から数県程度の規模であるので、大体の勘定では数百万人規模の電力需要は100万Kwの原発1基でまかなえる。小国にとって電力行政は原発で簡単に解決できるが、原発事故のリスクは原爆を落とされたようなもので1国全体で避難しなければならない。恐らく隣国も避難の憂き目に会うことも確実である。電力行政は簡単かも知れないが事故の被害も甚大である。ここに小国の悩みがある。
(つづく)


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