ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 金子勝・児玉龍彦著 「日本病ー長期衰退のダイナミクス」 (岩波新書2016年1月)

2017年04月19日 | 書評
失われた20年のデフレ対処法の失敗は、アベノミクスのブラセボ経済策によって「長期衰退期」を迎えた  第9回

4) 「主流派」経済説と実感のずれー金融資本主義と実体経済・社会 (その2)

 次にアベノミクスの社会保障制度の切り下げを見る。2014年4月に公布された「地域医療介護総合確保推進法」によって、一定の収入以上だと利用者負担の増加が進められる。また陽気五度3以上でないと施設入所が認められず、要支援以下の訪問介護は市町村に任せることになった。又病院のベッド数管理厳格化で、在宅医療や在宅看護に移すというものです。その上21015年の介護報酬改定では全体でまいなす2.27%の切り下げが行われた。介護報酬を引き下げながら(実態)、介護職員の報酬を上げる(建前)という政策は官僚の常套手段的矛盾である。社会保障制度が持続可能性を失いつつあることは誰しも気付いている。「社会保障と税の一体化」と言って2014年4月に消費税は5%から8%に引き上げられた。しかしこの3%分の増収はほとんどが財政再建に回され、1/5だけが社会福祉に回るのである。政治家の真っ赤なウソであることは分っていたはずなのに、民主党野田内閣に国民は手も無く騙されたのである。増税で内閣がつぶれることはしばしばあったし、選挙時には増税はタブーであった。その困難を民主党政権でやってもらい、安倍内閣をその恩恵を受けている。増税と裏表の関係で法人税減税と公共事業のためのに消費税増収分は消えた。名だたる大手企業で史上最高益を上げながら法人税をほとんど払っていない企業も存在する。アベノミクスは法人税減税と公共事業型の旧来型の財政構造に逆戻りをしている。アベノミクスで一部大企業だけが減税の恩恵を受けるという消費税増税方法は、財政支出と税負担の間にあるフィードバック関係を破壊した。税負担の普遍性モラルの崩壊である。安倍政権内ではもはや財政規律を云々する政治家も官僚もいなくなっていた。昔アメリカが風邪を引いたら日本は肺炎になるといわれた。現在は中国が風邪を引いたら日本は死ぬかもしれないほどの影響を受ける。さらに米国がゼロ金利政策片脱出すると、新興国からマネーが引き上げられ、新興国の軽罪の悪化は避けられない。だから財政金融政策という偽薬に頼らずに、確実な内需を作りだす政策が必要なのである。特に地域において新たな産業と雇用を生み出すことが望まれる。アベノミクスの第3の矢は経済成長すなわち新規産業の創出であったが、これまで何の手も打っていないというより無策なのである。2014年6月に「規制改革実施計画」が閣議決定された。残業代を支払わないホワイトカラー・エグゼンプションや保険外診療を大幅に認める混合診療などは小泉時代からの焼き直しに過ぎず、格差と地域疲弊をもたらすだけである。400にのぼる経済特区からは新たな産業が生まれた事例は何一つない。法人税減税で企業が新事業に乗り出すどころか、内部留保を増やすだけい終わっている。アベノミクスの第3の矢「成長戦略」は、ほとんど新味がなく、過去の失敗の検証もないままスローガンが繰り返されているだけである。第1次安倍内閣の時に打ち出された「原発ルネッサンス」の復活がある。日本の原子力産業は海外展開で巨額の損出(サウステキサス原発、ヴォーグル原発、サンオノフレ原発、ベトナム原発受注中断、台北第4原発)を抱え、東芝にとってはウエスティングハウスの原発部門買収は不良債権化している。3.11福島原発事故以降、発電コストが高くなり、コストの秘密が暴露され、世界の原子力産業はつぎつぎと原発から撤退している。フランスのアレバの倒産、ドイツのジーメンスの撤退、米国GEも原発から撤退した。安倍政権が原発受注を進めた結果、世界で不良債権化している原発の損失を日本の原発メーカーがかぶっている。その中で日本の原子力規制委員会は次々と原発再稼働を進めている。電力不足も原発低コスト論も全くの嘘であることはだれの目にも明らかである。こうしてアベノミクスの3本の矢は完全に失敗した。ひょっとすると安倍政権が狙っていたのはアベノミクスの経済政策ではなく、それは国民の目をそらす隠れ蓑であったかもしれない。安倍政権が最優先でやってきたことは、むしろ政治面における特定秘密保護法制定、集団的自衛権の行使容認の閣議決定、武器輸出3原則の見直し、安全保障関連法案成立、原発再稼働、TPP合意などであった様だ。だから安倍政権の経済政策だけを議論して検証しても、安倍首相は「息を吐くように嘘をつく」ことで暖簾に腕押しになる。2015年9月自民党総裁選無投票選出後の記者会見で、経済優先で一億総活躍社会を目指すと宣言し、「名目GDP600兆円」、「希望出生率1.8」、「介護離職ゼロ」という新3本の矢を打ち出した。これまでの政策の検証もなく、又きれいなウソを言っていた。最も笑えたのは「希望出生率1.8」である。これは希望なのか、実現可能性のないたわごとなのか、政策目標なのかさっぱりわからない。出生率目標を首相が言及したのは世界史上安倍だけである。

(つづく)


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