ブログ 「ごまめの歯軋り」

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平成経済 衰退の本質

2021年04月27日 | 書評
京都市中京区 京商家「金銀糸 堅口商店」

金子勝 著 「平成経済 衰退の本質」 

岩波新書(2019年4月)

第3章 転換に失敗する日本 (その2)

③ 転換の失敗がもたらしたもの

リーマンショックは日本を混乱に追い込んだ。それは円高になり株価が下落したためである。内需が低迷する中で円安が輸出産業の利益を確保し、低い成長率をかろうじて維持していた。リーマンショックは自民党から民主党への政権交代をもたらした。民主党の「マニフェスト」スローガンには、①「コンクリートから人へ」大型公共事業の廃止と地域主権による社会福祉の充実、年金や健康保険の一元化、子供手当と孝行無償化、②貿易自由化圧力に対して戸別所得補償、③地球温暖化対策取り組み強化、再生エネルギーンの固定価格買い取り制度、④東アジア共同体構想、アジアの経済発展の取りこみ などであった。「国家戦略室」、「行政刷新会議」の設置は注目されたがマニフェストの実施は不十分であった。その理由は①先端技術への無知、八ッ場ダム中止におけるメディア・パフォーマンスのみ、②財源不明確、工程表なしといった準備不足、③小沢をめぐる党内対立、④2011年3.11東関東大震災と東電福島原発事故の対応混乱である。おおよそ政権担当政党としてはお粗末極まりない姿勢であった。混乱を引き起こしたことには官僚集団の不作為とサボタージュがあったが、それを御することができなくてはガバナンスが問われるのである。2012年12月の総選挙で民主党は惨敗し、自民党と公明党で全議席の2/3以上を獲得した。こうして第2次安倍内閣が誕生した。異次元の金融緩和を中心に、財政出動、規制緩和の成長戦略を3本の矢とする「アベノミクス」をスローガンとした。政策は再び景気対策としてのマクロ経済政策に振れた。これらの政策は今まで失敗してきた政策の寄せ集めであり。周回遅れでないように見せかけるため大規模に宣伝しただけのことであった。近隣の中国・韓国に追いぬかれつつある国民感情を取って「歴史修正主義」で解消しようとしたが、戦勝国である外国から厳しい批判にさらされ撤回した。米朝会談を軸とする北朝鮮の非核化問題では完全に「蚊帳の外」に置かれ、米国追従外交では日本は存在感を失った。ナショナリズムを煽る安倍の政治姿勢は世界で広がるポピュリズム(衆愚政治)と共通性を持つ。しかし安倍首相のポピュリズムはトランプ大統領の移民排斥と極右ポピュリズムとは異なっている。

日本の社会・政治状況は独特の展開をしてきた。その流れを概観し安倍首相のポピュリズムを検証する。
早い時期から労働組合や農協。医師会・商店街などの職業団体や中間団体の影響力が落ちていた。とりわけ労働組合の組織率は1953年に40%、83年には30%、2003年には20%を切り、16年には17%に低下した。社会民主党(特に社会党)の凋落ぶりが著しく、市民は選挙に参加する気をなくしていった。「支持政党なし」という無党派層がメデイァの流す情報によって影響されて、浮動票の動きで選挙が決せられる場合が多くなった。94年に小選挙区制になり世襲議員が有利になり、当選するためには党本部の認定を得ることが必須の要件となり派閥の力も弱くなった。衆議院選挙の投票率は1990年までは70%あったが、バブルがはじけた90年代以降投票率は急速に低下した。2004年の小泉劇場総選挙と2009年の民主党の政権交代選挙の時は投票率は高まったが、2010年以降は投票率は60%を切っている。政党政治はポピュリズム的手法に依存した。小泉純一郎はこのポピュリズム手法を存分に活用したが、安倍氏にはその能力は高くない。むしろ投票率を下げて無力感を持たせるメディアへの誘導策に長けた菅官房長官の手腕に頼っている。その結果極めて凡庸な三世議員が国会に現れるのである。安倍首相は税金を集めて予算を組み国民を統合するというまっとうな政治の基盤を徹底的に無視し、予算の半分を国債発行による「バラマキ・ポピュリズム(衆愚政治)」の悪循環を繰り返して「失われた30年」の失敗の上塗りを行っている。日銀が赤字財政をファイナンスするポピュリズム政策は決して経済成長をもたらさない。安倍政権の不正・腐敗疑惑が頻発しているにもかかわらず、「官製相場」で株価が上昇し、安倍内閣の支持率も下がらないのは、株高で表向きは景気の良さを演出し、東京オリンピック、大阪万博で景気のいい花火を打ち上げているのは、いわばボナパルトの「パンとサーカス」の政治である。2014年消費税率5%から8%へ引き上げるとき、法人税率を下げ、復興特別法人税を漸次引き下げてゆき、2018年の法人税減収は5.2兆円となった。結果企業は内部留保を大幅に積み上げた。

(つづく)



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