ブログ 「ごまめの歯軋り」

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石母田正 著 「日本の古代国家」 岩波文庫

2019年05月29日 | 書評
石楠花

推古朝から大化の改新を経て律令国家の成立に至る過程を論じた7世紀日本古代国家論  第21回

第4章 「古代国家と生産関係」 (第2講)

1) 首長制の生産関係
1-2) 徭役労働:
 大化改新前の在地首長層が直接生産者から剰余労働、剰余生産物を収取する主要な形態は「租庸調」および「雑徭制」を基礎とする。まず徭役労働から見てゆこう。首長層の権力または経済的収奪体制の本質は人格的支配=隷従関係にあり、なかでも徭役労働賦課権に最も端的に表れるからである。首長層の徭役労働賦課には、歳役と雑徭とがあるが、ここでは雑徭を考える。「雑徭」とは仕丁や衛士の令によって規定された徭役以外に差発される雑多な徭役労働であり、1年に60日を限って国司が郡内の公民を使役することができる。雑徭役にもさらに「雑徭役外徭役」と呼ばれる徭役賦課があった。用水施設の小規模な修治のため臨時に賦課され、雑役と違って年60日という限定もない。雑役と雑徭役外徭役には名前が違うだけで国家の課する徭役として一体化している。あえていうと用水の施設を新しく築造する時は雑徭といい、その修理維持のときは雑徭役外徭役に任される。雑徭役が制度として確立されたのは浄御原令によってであるから、それ以前には両者の区別はなかった。雑徭の差発権は国司にあり、現実に徴発・使役するのは郡司・里長であった。徭役は上から命じられる不払い労働であるから、強制できるのはそこに人格的支配―隷従の体制が出来上がっている在地首長層の指示がなければ、国司といえど手が出せない領域であった。雑徭と雑徭外徭役を差発し使役する事実上の権力を持ったのは国司ではなく郡司(在地首長層)であった。浄御原令によって、この国造や郡司の権力を、在地首長層の伝統的な権力を制度化したものである。力役以外の地方的賦役が国家の徭役体制のなかに雑徭として制度化されるのは大宝令からである。雑徭制の基礎にある首長の領域内人民に対する人格的支配は、個人的な人格(英雄やボス)ではなく、生産手段を独占する階級としての首長層が存在する。首長一族が大小領の地位を独占し、族的結合体全体が在地の人民を支配している。首長層の階級としての地域的・族的結合の存在とそれに対する人民の人格的隷従こそが賦役労働の基礎にあったのです。雑徭制の第1の特徴はその奴隷的性格にあった。徭役は上からの命令である限り、官から食料の支給があったものと考えられる。ただ雑徭外徭役は、手弁当が常であったようだ。土木作業に使用する道具は官給であった。雑徭が奴隷労働とされる理由は、徭役期間や過酷さの恣意的な事ではなく、自弁することができない体一つの農民がいて、労働の主手段を保有する徭役差発者階級(在地首長層)がいるということである。人格的隷従関係は自体は、奴隷制にも農奴制にもある特徴で、奴隷制は他人の労働条件(原料・食料・労働用具・家畜など)のもとで労働するかどうかということである。雑徭の第二の特徴は、共同体の共同労働と徭役労働が不可分の一体をなしていることである。古代社会の稲作では用水の確保の問題が重要である。古代首長制はこの水の支配に最重要点が存在する。治水(灌漑用水)の問題が地方首長層の範囲を超えて中央政府の国家事業となったのは律令制国家の成立以降のことである。弥生式時代の農業社会以来それは首長層の内部問題として解決されてきた。古墳時代以降には首長が支配層に転化し、共同体の労働は徭役労働になった。交易で獲得できる鉄製農耕具が古墳時代に首長層の独占的所有下になった。大化改新以降には公権力による指導・強制による計画的村落と開墾が常識となった。6,7世紀の計画村落的形態においては、必要な徭役労働は首長層側においてそれに必要な食料・労働用具の蓄積を前提年、その蓄積が共同体の財産ではなく、私有財産として首長層の富として存在するならば、この徭役労働は首長層の支配=隷従の関係は奴隷的性格を持つことになる。

(つづく)


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