ブログ 「ごまめの歯軋り」

読書子のための、政治・経済・社会・文化・科学・生命の議論の場

吉田武 著 「虚数の情緒ー中学生からの全方位独学法」 (東海大学出版部 2000年2月)

2016年05月05日 | 書評
全人的科学者よ出でよ! 好奇心に満ちた健全なる精神を持った人のために 第1回

序(その1)

吉田武氏の著書については、吉田武著 「オイラーの贈物 人類の至宝eπi=-1を学ぶ」(東海大学出版部 2010年)、「私の速水御舟ー中学生からの日本画鑑賞法」(東海大学出版部 2005年)を読んだことがある。本書「虚数の情緒ー中学生からの全方位独学法」は2000年の出版である。吉田武著 「オイラーの贈物」の元本は20世紀末にA5版として出版され、次いで文庫版として受け継がれて10万部を発行したという。旧版は絶版として、2010年に文庫本では読みにくいので再度A5版で東海大学より出版された。そういういきさつから吉田武著 「オイラーの贈物」の姉妹本として本書「虚数の情緒」が2000年に出版されている。「虚数の情緒」は数学の本とすれば、本書はさらに広く科学方法論と数学、物理学を包括している。とはいえオイラーの公式が生かされた分野の確認作業の旅に出たという趣旨で本書は書かれている。だから数学的内容としては吉田武著「オイラーの贈物」より少ないが、数論の初歩についてはかなり詳しく数値計算手法も援用して書かれている。そこで吉田武著 「オイラーの贈物」から虚数の数学について概観しよう。
『物理学者ファイマンがこういっている。"We summarize with this,the most remarkable fomula in mathmatics: this is our jewel"
数学、特に複素解析におけるオイラーの公式とは、e^(iθ)=sinθ+i・cosθに示される指数関数と三角関数を虚数が媒介して成り立つ等式をいう。 θ = π のとき、eiπ = -1 というオイラーの等式と呼ばれる式が得られる。この公式は複素解析をはじめとする純粋数学の様々な分野や、電気工学・物理学などであらわれる微分方程式の解析において重要な役割を演じる。物理学者のリチャード・ファインマンはこの公式を評して「我々の至宝」かつ「すべての数学のなかでもっとも素晴らしい,そして驚くべき「方法」」だと述べている。第1部でオイラーの公式を導くための数学の基礎全般を概説し、数論、級数、代数方程式、関数論、微分、積分を概説する。準備が整ったところで、第2部ではオイラーの公式の骨格をなすテイラー展開、指数関数と三角関数の特徴を概説する。そして第3部でオイラーの公式を導き、ベクトルと行列に応用して物理学への展開を述べる。付録としてアドバンスコースを設け、オイラーの公式の利用のすごさを実感してもらう過程となっている。今の数学教育ではお目にかかれない連分数や、√2、π、eが無理数である事の証明やフェルマーの最終定理など数論の基礎的話題は魅力に満ちている。4次までの代数方程式は何とか解けることの実習にかなりのページを割いている。行列形式による微分方程式の解法はベクトル形式を利用して物理学への重要な意味付けを扱っている。3行正法行列の行列式の計算とラプラ-ス変換による微分方程式の解法は有意義な勉強であった。本書はオイラーの式が持つ意味を理解するための総合的な数学入門であり、従来の分野別数学書ではない。

(つづく)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿