ブログ 「ごまめの歯軋り」

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畑村洋太郎著 「技術の街道をゆく」 岩波新書(2018年1月)

2019年07月13日 | 書評
下野市グリムの森のエントランスに咲く「ベコニア」

苦境に立たされる日本の技術 生きる道を探す畑村塾の技術論・思考展開法 第1回

序(その1)

本書の紹介にはいる前に、日本の技術にかんする畑村氏が感じる危機感を述べる。著者は50年間日本の各地を回って技術の現場を歩いてきたという。現地に足を運んで、現物を見・触れ、現場に人と話をするという、現地・現場・現人の三現主義と呼んでいます。技術職の方が専門書を書かれるのは当然ですが、技術論について書かれることは稀である。専門以外のことには口を出さないのが技術屋(職人)の常であるからです。本書は、現場に出かけて技術屋の口を割らせ、その話に同感するルポタージュのようです。その中から本書では六つの現場を紹介する。日本の技術現場は今苦境に立たされている。なぜか、それは日本の技術者が、技術とは外国にお手本があって、それを輸入し改良すればよい製品ができると信じ切ってきたからです。しかし技術とはそういうものではない。技術者が試行錯誤して侵す失敗とその失敗から得た教訓で生まれる創造が作りこまれて、できて来るものなのである。明治以来150年間西欧近代文明をとり入れることを専らとした結果、新しく技術を生み出す苦労や大変さを経ないで、ただ要領よく技術を手に入れることに長けた技術者ばかりが育つことになった。現在の日本の苦境は、出来上がったものを手に入れることに慣れた技術者自身の弱さに発している。本書は技術の失敗という必須の過程をたどることにより、日本の技術者が将来への活路を見出し、生きる道を探る技術街道の旅である。著者は「日本の技術者よ、道なき道を行け」というエールを送る。著者が委員長を務めた政府福島第一原発事故調査委員会の仕事で、スペインを訪れた際、国立ソフィア王妃芸術センターでピカソの「ゲルニカ」という壁画を見て、頭がどんどん熱くなる不思議な経験をしたという。これは人間の脳の働きのうち90%以上は無意識下で行われるらしいということを知った。人間の脳の大部分が、我々自身の意思や意識とは関わりのないところ動いているらしいという学説がある。行動を始めるとき勝手に身体が動き始めることにも通じる。著者はこれを「勝手脳」と呼んだ。ピカソの「ゲルニカ」はピカソの勝手脳がピカソに描かせた絵である。それを見た人の脳も勝手に反応し活性化したのかもしれない。本書も著者の勝手脳が書かせたのかもしれない。ここで畑村洋太郎氏のプルフィールを紹介して、理解の助けとしたい。畑村 洋太郎(1941年1月8日 生まれ)は、日本の工学者、東京大学名誉教授である。東京大学工学部機械工学科卒、1966年同大学院機械工学科修士課程修了、株式会社日立製作所入社。1968年東京大学工学部助手、1969年講師、1973年助教授 、1983年教授、2001年定年退官、工学院大学グローバルエンジニア学部機械創造工学科教授、畑村創造工学研究所開設、科学技術振興機構失敗知識データベース整備事業統括。2011年工学院大学退職。専門は「失敗学」で2002年の失敗学会の設立にも携わった。創造的設計論、知能化加工学、ナノ・マイクロ加工学。 最近ではものづくりの領域に留まらず、経営分野における「失敗学」などにも研究領域を広げている。著書は多いので、この著書と関連の深い主な著書だけをあげる。「数に強くなる」<岩波新書)、「技術の創造と設計」、「直感で分かる数学」(岩波書店)、「失敗学のすすめ」、「危険学のすすめ」(講談社)、「続々・実際の設計―失敗に学ぶ」(日刊工業新聞社)などです。

(続く)




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