ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 森岡孝二著 「雇用身分社会」 (岩波新書 2015年10月)

2016年11月24日 | 書評
労働条件の底が抜け、企業の最も都合のいい奴隷的労働市場となり、格差が身分に固定される時代にしていいのか 第7回

2) 派遣とパート労働による戦前の雇用の復活 (その2)

パートタイム労働者は、短時間労働をさす「時間パート」と、勤め先で非正規労働者の呼称区分に過ぎないフルタイムパートを含む「呼称パート」に区分されるが、パートタイム労働者は低時給で有期雇用で、その上昇給も昇進も諸手当も賞与も、福利厚生制度もほとんどない。第2次世界大戦後の民主化の過程で職工差別はなくなったが、しkし男女差別は、雇用形態格差、賃金格差、労働時間格差の形で根強く残っている1970年頃からパートタイム労働者が増え始め、女性労働者に占めるパート比率は2014年で50%ほどに増加し、男性労働者では17%程度である。全労働者に対する比率は、2014年で非正規労働者が40%に増加し、中でもパート・アルバイトの比率が27%と一番高い。2014年の全就業者は6351万人でこれを100%として、雇用者は5600万人で88%、自営業者は8.8%、家族従業者は2.6%である。1980年の「労働白書」によると国際比較から見た日本のパート労働者の就業実態の特徴は、長時間労働の割合が高いことである。パート労働者の週平均労働時間はアメリカでは19時間、ドイツ21時間、日本33時間であった。年齢別労働力比率曲線は女性はいわゆるM字型カーブであったが、その真ん中のへこみ方が減少し、2013年では70%フラット型に近づいている。また全女性労働者に占める非正規労働者比率が35歳以上で正規労働者を超え、いわゆる夫婦共稼ぎが増加したことにほかならない。夫婦共稼ぎ世帯比率は1995年頃から男性片働き世帯比率を超えて、2010年頃に55%に達した。家計の困窮化がこれに拍車をかけた。耐久消費財のみならず教育費、住宅費の増加の世代で女性の追加所得が必要であったからだ。女性パート労働者の低賃金では、夫のいないシングルマザーの貧困化が顕著であう。母子家庭で子供一人の場合年収が手取りで最低でも250万円なければ生活できないとすれば、日給4500円のパートではダブルワークしなければならない。ひとり親世帯の場合、母親が児童扶養手当を受給している割合は73%で、生活保護を受給している割合は14.5%である。アメリカでもワーキングプアーが増えているのはシングルマザーで、その46%が貧困状態である。日本でもシングルマザーが100万人を超え、2012年で54%が相対的貧困ライン以下である。両親が揃っている場合の貧困率は12%である。これには女性への性別格差と雇用形態別格差が重なって作用している。男性の月額平均賃金を100とした時の女性の月額平均賃金は製造業で45、時給格差47であった。つぎに男性一般労働者の時給を100とすると、女性は70、パートタイム労働者では男性が46、女性が42であった。パート労働者が正社員と同じ技能であったとしても、日本のパートタイム労働者が差別された劣った雇用身分であることは明白な事実である。ひょせいパートの賃金の著しい低さは、性別、雇用形態別、労働時間別格差の影響である。これらを改善するために、1986年に「男女雇用機会均等法」、1999年に「男女共同参画社会基本法」が制定されたといえ、いまだ賃金格差や雇用形態改善の実効のある政策は出されていない。

(つづく)