ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート ニュートン著 鳥尾永康訳 「光学」 (岩波文庫)

2016年11月04日 | 書評
ニュートンの開発した反射型望遠鏡

太陽の白色光が屈折率を異にする色光の複合であることを発見した「ニュートンの光学」の集大成  第2回

序(その2)

ニュートンの「白色光はあらゆる色光の混合である」という理論に対して「改変説」からの抵抗は大きかった。ルーカス講義の数学的部分を除いた部分の1672年論文が本書の第Ⅰ篇、1675年の光の干渉と天然物の色を扱った第2の光学論文が本書の第Ⅱ篇、1685年の回折実験が第Ⅲ編になった。1690年ニュートンは「光学の基礎」と題するラテン語の草稿を書いたがこれが第Ⅰ篇となる。1704年2月「光学」英語版が刊行された。なんと1687「自然哲学の数学的原理 プリンピキア」刊行から17年後のことである。同時に1703年ニュートンは王立協会会長に上り詰めていた。本書は伝統的な光学の中に、近代科学としての色の科学を打ち建て、「王リンピキア」と並ぶニュートンの2大著書になった。この「光学」はラテン語ではなく、近代英語確立期の英語で書かれた点も見逃せないし、18世紀を通じて実験科学のバイブルとして愛読された。今日読んでも実験詳細の記述は臨場感にあふれ、その魅力のゆえに科学の古典として親しまれてきた。では次に本書の構成を見てゆこう。第Ⅰ篇だけは「プリンピキア」のように、ユークリッド形式に倣い、定義、公理、命題、定理、問題という順に書かれている。その公理とは幾何光学の法則である。実験によって新たに確立した事実は命題となって記されている。第Ⅱ篇は光の干渉、つまりシャボン玉のような透明薄膜やニュートン環の色の現象を扱う。今日では膜厚みが光の色の波長の整数倍で強め合い、その他の間では弱め合うことによる干渉現象のことと理解される。薄膜の色に関連して、天然物の物質構造が論じられ、透明な微粒子がある色の射線を反射し、他の色の射線を透過(吸収も入れるべき)することが、その物質の自然界での色を決定するという。ニュートン環の研究より光の本性に周期性があることが発見され、反射の発作とか透過の発作という仮説概念が導入されているが、今日では問題にされない概念である。第Ⅲ編の始めに、わずか19頁であるが回折現象の観測事実が述べられている。光が小孔を通りぬけるときや、物体の鋭いエッジを通り過ぎるときに射線が曲げられる現象を扱った。ここでは光の本性が物理的に何であるかについて追及はしていないが、第Ⅲ篇の大半は「疑問」という様式によって、「光の粒子性」による光学現象の仮説的解釈をこなっていて面白い。「光の粒子説」は光の直進性や幾何光学には適しているが、19世紀は「光の波動説」が優位を占めた。ニュートン光学の粒子説は19世紀には忘れられた観があったが、20世紀になるとアインシュタインの「光量子説」以来、光の粒子論は「光子の量子化」の波に乗って復活した。がそれはニュートンの光学ではなく、全く別の量子電磁気学としての展開であった。従って本書「光学」の今日的意味とは、ニュートンの仮説にあるのではなく、実験と理論形成と思弁からなるニュートンの科学的創造活動を学ぶという点にある。ニュートンは「光学」に第Ⅳ篇を計画し、「光の本性と、光を屈折、反射させる物質の力に関する第Ⅳ篇」と題したらしいが、それは実らず本文には入らなかった。その要点は第Ⅲ篇の「疑問」に現れているようである。ニュートンは「光学」の本文は、数学的、実験的に確立された事実のみ記述し、仮説的、思弁的なものは排除した。それでも書き留めておきたかったことが「疑問」という形になったのである。ニュートンは「光学」の改版ごとに「疑問」を追加し最終的には31問となった。圧巻は疑問31で、疑問全体の半分を占め、物質構造論(化学構造論)の当時の知識によって化学結合力のことを考えている。今日の化学術語でいえば、共有結合、イオン結合、ラジカル結合、分子間力、水素結合などを広範囲に扱っている。「疑問」は系統的に記述されたものではなく、根本的に異なる科学セオリーが混在している。例えば「エーテル説」の復帰などである。

ちょっとニュートンの光学から飛び過ぎているようだが、量子電磁気学が見る光の本質を概観することで、ニュートン光学と波動論と量子力学の橋渡しをしてみたい。波動論は光を電磁波とするが、量子論は光子という粒子と考える。ファイマン氏は物質の性質を決定するのは原子核を取り巻く外殻電子だと考えている。すると物質と光の関係とは、電子と光子の相互作用関係にあり、ニュートン光学と量子力学の相関が想定される。光子と波動的性質は確率論的関係が橋渡しをする。R・Pファイマン著 釜江常好・大貫昌子訳 「光と物質の不思議な理論ー私の量子電磁力学」(岩波現代文庫 2007年)は、光子と電子の相互作用を解き明かす量子電磁力学QEDが描く物理学的世界像を提案する。この書は4章で構成されている。1)初めに(確率論) 2)光の粒子 3)電子とその相互作用 4)未解決の部分であるが、ここでは第1章から第3章までが問題の部分で、第4章は素粒子論の概要であるので、これは省いて見てゆこう。ファイマン氏はニュートン光学の徹底した見方の変革を迫ります。図なしで解説します。

(つづく)
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