11日行われた政府主催の東日本大震災追悼式に、天皇・皇后が初めて出席し言葉を述べました(これまでは秋篠宮夫妻が出席)。これはたんなる儀式ではなく、きわめて重大な政治的意図によるものです。
第1に、政府(菅義偉政権)は東京電力福島原発事故の処理を含め、発生から10周年の今年で区切りをつけ、これまでも不十分だった政府(国)の対策をさらに大きく後退させようとしています。天皇・皇后の出席は、その“区切り”を印象付ける効果を狙ったものです。
加藤勝信官房長官は同日の記者会見で、政府主催の追悼式を今回で打ち切る方針を改めて強調したうえで、「10年の節目で天皇皇后両陛下のご臨席を仰いだ」(12日付琉球新報)と述べました。ここには上記の政権の意図がはっきり表れています。
第2に、その「お言葉」なるものは、政府の意図に沿ったきわめて問題のあるものでした。
天皇の言葉は、その直前に行われた菅首相の式辞とセットになっています。菅首相の式辞は、「被災地の復興は着実に進展している」から始まり、「復興の総仕上げ」という言葉を2回も使いました。そして「来年度からの第二期復興」は、「帰還に向けた生活環境の整備や産業の再生支援」だとのべ、原発の放射能被害を避けて避難生活を余儀なくされている避難者をあくまでも「帰還」させるものだと公言しました。
そのあとに発言した徳仁天皇は、「あれから10年、数多くの被災者が、想像を絶する大きな被害を受けながらも、共に助け合いながら、幾多の困難を乗り越えてきました」「関係者の努力と地域の人々の協力により、復興が進んできたことを感じています」「復興の歩みが着実に実を結んでいくよう、これからも私たち皆が心を合わせて、被災した地域の人々に末永く寄り添っていくことが大切」(宮内庁HPより)と述べました。
これは政府のこれまでの施策を是認し、さらに被災者・「国民」の「自助・共助」を督促するもので、政権の意図にぴったり沿っています(そもそも天皇の「ことば」とはそういうものであることは、2月25日のブログ参照)。
さらに天皇は、菅首相さえ式辞では言わなかった重大な言葉を口にしました。それは「風評被害」です。「農林水産業への風評被害の問題も残されています」。
「風評被害」とは根拠のないデマによる被害ということですが、福島原発事故を原因とする放射能汚染への危惧は根拠がないものではありません。「安全基準」を勝手に変更し、情報を隠ぺいし続ける政府への不信感は拭えません。現に今でも東アジアやEU、アメリカなど15の国・地域は福島の農産物などになんらかの「輸入規制」を行っています(11日付ハンギョレ新聞)。
こうした実態を捨象して「風評被害」という言葉を流布することは、加害者である国(政府)と東京電力の責任を免罪するものと言わねばなりません。
10年前の2011年3月16日、天皇明仁(当時)は異例・異常の「ビデオメッセージ」をおこない、「日本人が取り乱すことなく助け合い、秩序ある対応を示している」「これからも皆が相携え、いたわり合って、この不幸な時期を乗り越えることを衷心より願っています」とのべ、「自助・共助」を強調し、国(政府)への反発・批判を抑えました(写真右)。
この明仁天皇の「メッセージ」に始まり、皇族の相次ぐ「被災地訪問」、そして今回の徳仁天皇の言葉に至る、「3・11」と天皇制の関係は、「国難」(11日の菅首相式辞)に際して、「日本人」の「自助・共助」「秩序」を強調し、国家への批判を抑えることが、国(政府)にとっての「象徴天皇制」の存在意義であることをはっきり示しているといえるでしょう。