アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

日曜日記203・「おひとりさま 笑って生きて、笑って死にたい」

2022年06月26日 | 日記・エッセイ・コラム
   

 25日のNHK・ETV特集は「おひとりさま 笑って生きて、笑って死にたい」。
 岐阜市の訪問医療介護ステーション・小笠原文雄医師(73)(写真中の前列左)、スタッフの昨年から今年にかけての記録だ。

 独り暮らしでも、自宅で、なるべく苦しくない闘病生活を送り、最期を迎えたい。できれば離れて暮らす家族にも迷惑をかけずに逝きたい。そんな身勝手な願いも、けっして夢ではないことを示してくれた。

 小笠原さんたちが重視しているのが、「人生会議」。患者の意識がまだはっきりしているうちに、本人と、できれば家族を含め、担当のスタッフたちが、どんな最期を迎えたいか、それをどうやって支えるかを話し合う。

 在宅医療はここまで進んでいるのか、という驚きもあった。

 1つは、「モルヒネ持続皮下注射」(写真)。痛みを緩和するモルヒネを、24時間いつでも自分で、ボタンを押すだけで注射することができる。小笠原医師は、「痛み、苦しみを除くことが何より大事。モルヒネは笑顔で長生きするコツ。いくら射っても死ぬことはありません」と患者に勧める。

 もう1つは、スマホ・アプリの活用。患者の容態・現状を写真やグラフを含めて遠隔地の家族に送信することができる。また、患者とクリニックをカメラで結ぶこともできる。患者本人がボタンで「SOS」を発信できる。

 そんな“文明の利器”をも上回るのが、スタッフの人間性だ。

 64歳の末期がんの男性を担当した小原医師(30代)。男性は妻と離婚し、2人の子どもとも音信不通。独りでがんばって生きてきた。自分にプライドもあり、はじめは小原さんらスタッフにも当たりがきつかった。

 そんな男性も、小原さんらの親身なケアで闘病生活にも変化が生まれた。死期が近づいたとき、男性は「子どもたち(娘と息子)に会いたい」と小原さんに告げる。しかし連絡先は分からない。小原さんは男性の過去の経歴をさかのぼって、子どもたちの連絡先を調べた。そしてようやく手掛かりをつかんだ。それを男性に知らせると、男性は「ありがとう」と言って、おだやかな顔で息を引き取った。

 そこまでやるか、と思った。医師が、患者の音信不通の家族の居場所を調べることまで。
 それは医師の仕事の範囲外という考えもあるだろう。しかし、末期の患者が穏やかで幸せな最期を迎えるようにするのが医師の仕事、医療だとすれば、小原医師の“家族さがし”こそ医療ではないだろうか。・
 90歳の末期がんの父親と離れて暮らす娘が、小笠原医師に、「父の死に目に会えるか不安。母のとき会えなかったので」と打ち明けた。小笠原医師はこう言った。

「死に目に会うことは重要なことではありません。一番大事なのは、まだ意識があるときに、どれだけお父さんと心を通い合わせることができるかです。きょう、あなたがお父さんのためにおにぎりを作ってこられたように」

 その言葉に、娘さんだけでなく、私も救われる思いがした。

 数々の言葉が胸を打った。けっしてひとごとではない。素晴らしい人たち、素晴らしい活動。
 だがおそらく、そんな成功例はけっして多くはないだろう。小笠原クリニックでもいろいろな実例があったはずだ。全国の訪問診療、独り暮らしの実態はシビアで、数々の悲劇が生まれているはずだ。

 だからもちろん、能天気なことは言っていられない。けれども、だからこそ、こんな素晴らしい医師・スタッフたちがいること、こんな最先端の器具があることは、希望だ。
 その希望を信じ、「おひとりさまでも、笑って生きて、笑って死ねる人生・政治・社会」をめざしたい。

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