アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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「ウクライナ」の陰で「少女像」撤去要求した岸田首相

2022年05月19日 | 日本軍「慰安婦」・性奴隷・性暴力問題
   
 4月28日、ドイツのショルツ首相が就任後初めて訪日した際、岸田文雄首相が会談で、ドイツの市民団体がベルリン市に設置した日本軍性奴隷(「慰安婦」)を象徴する「少女像」の撤去を要求していたことが分かりました。

 岸田・ショルツ会談については当時、「安保協議新設」「ロシアへの対抗措置」で合意(4月29日付中国新聞=共同)と報じられただけで、「少女像撤去」については明らかにされていませんでした。

 報じたのは11日付の産経新聞。
「岸田首相は…会談で「慰安婦像が引き続き設置されているのは残念だ。日本の立場とは全く違う」と伝え、像撤去への協力を求めた。首相が像撤去を直接要請するのは異例だ。政府関係者は「これまでもさまざまなレベルで撤去を働きかけてきたが、首相が伝えれば強いメッセージになる」と期待を寄せる」
 ただ、「会談で像撤去を訴えた首相に対し、ショルツ氏の反応は芳しいものではなかった」とも。

 日本軍性奴隷被害者の1人、イ・ヨンス(李容洙)さんは、17日までに共同通信や韓国メディアのインタビューに答え、「少女像」は「(史実を)記録するためにある」として、「岸田氏が4月、ドイツのショルツ首相にベルリン市の少女像の撤去を要請したことを非難」(18日付琉球新報=共同)しました。12日付ハンギョレ新聞が産経新聞の報道を紹介していました。

 ベルリン市ミッテ区の「少女像」(写真左)は、2020年9月28日に現地市民団体「コリア協議会」「ベルリン日本女性の集い」「ドイツ地域文化運動団体」などが協力して設置したもの。日本政府は設置直後から、菅義偉政権の加藤勝信官房長官(当時)、茂木敏充外相(同)らがドイツ政府・ベルリン市に撤去の圧力を加えました(2020年10月10日のブログ参照)。

 そのためミッテ区はいったん「撤去」の命令を下しましたが、市民団体がドイツ行政裁判所に提訴し(写真中)、区は改めて「存続」を決定した経緯があります。

 こうした経緯にもかかわらず、岸田首相が自ら撤去を要求したことは、自民党政権の執拗な歴史改ざん姿勢を示すものです(背景に安倍晋三氏の圧力があると推測されます)。

 しかも撤去要求が、「ウクライナ情勢」に乗じてドイツとの「安保連携強化」を確認した会談で行われたことは、特別の意味があると言えます。

 ロシアの「ウクライナ侵攻」に対し、岸田政権はアメリカなどNATO(北大西洋条約機構)諸国と足並みをそろえ、「国際法違反」「人道主義違反」などと批判していますが、旧日本軍の戦時性奴隷こそ「国際法」「人道主義」を踏みにじるものです。

 ベルリン市に「少女像」が設置されたのも、単に過去の歴史問題ではありません。

日本軍慰安婦問題は、国家主義や女性の身体に対する統制、民族浄化などの形を変えて絶えず起きている国家による性暴力の一例だ。少女像は文化的記念物ではなく、世界各地で行われている戦時性被害の証拠(である)」(「少女像」の除幕式に寄せられたドイツの女性人権団体「メディア・モンディアル」のメッセージ。2020年9月30日付ハンギョレ新聞)

 その「少女像」撤去へ首相自ら執拗に圧力をかけることは、日本政府(自民党政権)が口にする「自由・民主主義」「国際法・人道主義尊重」がいかにまやかしであるかを端的に示すものです。

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